'13.06.06 『はじまりのみち』@東劇
見たいと思って試写会応募したもハズレ・・・ 邦画だとついついそのままDVD待ちの流れになってしまいがち。今回もそうかなと思っていたけど、twitterなどでの評判がものすごく良くて。やっぱり大画面で見たい!と思い行ってきたー♪
ネタバレありです!
「戦時中。昭和19年に監督した『陸軍』が、国策映画の役割を果たしていないと、次回作の製作中止を言い渡されてしまう木下惠介監督。これに反発した監督は辞表を提出。実家に戻ってしまう。実家では脳梗塞で倒れ寝たきりとなった母を、汽車に乗せて疎開させようとしていた。病気の母に辛い思いをさせまいと、便利屋を頼み兄とともにリヤカーで山道を越えようと考えるが・・・」という話。これはよかった! 映画好きの、映画好きによる、映画好きのための作品。ホントにお母さんをリヤカーに乗せて疎開先に連れて行くだけの話。途中、雨に降られてしまうくらいで、大きな事件も起きない。でも、1時間半飽きることなく見てしまう。そして、大画面で見てよかったと思える作品だった。
見たいと思っていたのは加瀬亮主演だからと、木下惠介監督の映画だということ。1個目の理由はまぁ普通にファンだからw 加瀬亮の出る映画なら何でも見るってタイプじゃないけど、演技上手いので好き。激しい役ももちろんできると思うけれど、こういう繊細だけど芯の強い役絶対似合うと思ったから。木下惠介監督については実はそんなに詳しくない。以前ドキュメンタリー番組を見た気がするのだけど、ほとんど覚えていない。たしか、わりと気難しくて、気に入らないと俳優さんでも口をきいてもらえなかったんじゃなかったかな? 木下監督ではなかったかなぁ・・・ ちょっと記憶が
でも、木下惠介監督といえば、日本映画界の巨匠だし! どんな方だったのかと気になった。
事前に木下惠介監督の人生そのものではなく、母親をリヤカーに乗せて疎開させる数日間を描く作品であるというのは知っていたけど、ホントに一言で言えばそれだけの話。でも、見終わってみると何故この作品のタイトルが『はじまりのみち』であるかよく分かる。あらすじにも書いた通り戦時中の話。でも、戦争の悲惨さはほとんど描かれない。でも、それだけに見せたかったこと、訴えたかったことがしっかりと伝わってくる。昭和19年に監督した『陸軍』という映画が重要なアイテム。戦時中の日本では戦争を肯定し、国民の士気を高めるプロパガンダが国策だった。そのうち重要な役割を果たしたのが国策映画。当然木下惠介監督にも国策映画の監督依頼が来たわけで、映画はこの作品が国策映画としてのそぐわないとされ、次回作の製作中止を言い渡されてしまうところから始まる。実際はどうだったのかは不明だけど、木下惠介監督にこのことを告げる上司はとてもいい方で、監督の気持ちはとっても分かるけれど、今はこういう時局だからと監督をなだめ、納得がいかないから辞表を出すという監督に、それは受け取れないとも言っている。上司の方がいい人というだけではなく、木下惠介監督の才能を買ってのことなのでしょう。見ている側は『陸軍』がとっても見たくなる。この導入部はいい。
失意のうちに実家に戻ってくる木下惠介こと木下正吉。実家は両親が苦労して大きくした商家。店があるため疎開が遅れたけれど、脳梗塞で倒れ寝たきりの母親を、なんとか静かな親戚の元へ疎開させようとしているところだった。疎開先は気多村勝坂というところで、途中からはトロッコが借りれるけれど、そこまではバスに揺られて行くしかない。寝たきりの母を揺れるバスに乗せるのはしのびないと正吉は反対。もともと荷物を運ぶために便利屋を依頼していたので、彼とともにリヤカーに乗せて山道を越えると言い出す。父親や兄の敏三は反対する。見ている側も、当時のバスがどんな乗り心地なのかは不明だけど、夏の山道をリヤカーで運ばれるのも病人には辛いのではと思ったり・・・
で、最終的な判断は母親のたまに委ねられる。たまが選択したシーンは描かれないけど、次のシーンではリヤカーで出発することになっていて、ここは巻き添えをくって一緒に行くことになる兄の敏三が愚痴ることでコミカルなシーンとなっている。多分、病人としてはどちらも辛いのでしょうが、母親としては息子の思いを尊重したということなのでしょう。この母はいつでも正吉の味方であって。それがとっても日本人の母親像を表している。
荷物を運ぶために雇われた便利屋は、赤紙が来てしまったため、別の便利屋がやってくる。濱田岳演じる便利屋は、女好きのお調子者。こういうキャラは洋の東西を問わず、現代の映画でも出てくるけれど、ちょっと昔の日本映画に出てくる盛り上げ役のように感じた。といっても、昔の日本映画をそんなに見ているわけではないんだけど・・・ でも、いわゆる"喜劇役者"と言われる方々が演じるような役。実は往年の大スター市川雷蔵のファン。雷蔵映画の代表作といえば『眠狂四郎』シリーズなど、少し陰のある役が似合う。でも、軽いタッチで好きな映画があって、それが『女狐風呂』という作品。妻と温泉旅行にやって来た岡引が、事件に巻き込まれるという話で、当人はイヤイヤながら巻き込まれるのでコメディタッチで軽いものとなっている。『眠狂四郎』シリーズよりも以前の作品で、若い頃の市川雷蔵の美しさもイイ! で、前置きが長いのだけど、この映画で主人公と勘違いされて事件を依頼される役で、堺正章氏の父上である堺駿二が演じたキャラを思い出したってことが言いたいわけです! イヤ、もちろん全然違う役けど、お調子者でちゃっかりしてる感じが昔の映画に出てくるキャラを思い起こさせる。で、この便利屋が後にとっても良いシーンをアシストするわけで、その辺りも昔の映画に出てくる感じ。もちろん、何度も言うけど現代の映画にも出てくるキャラだけどw
山道をリヤカーで行くシーンは実話。まぁ、それはそうだと思うけどw 一応、事前に知っていたけど、エンドロールで明らかになる。正吉がリヤカーで行くと主張したからには、それなりの道があることは知ってのことだったのでしょうけど、現代の私たちが山道と聞くと、トレッキングシューズ履いて行く狭い道を想像してしまう。そういう道もあるけど、今ほど自動車が普及していなかった時代や、戦時中であることを考えると、山道を歩くってこと自体はそれほどビックリなことではなかったのかも。もちろんリヤカーで病人を運ぶのはビックリだったでしょうけどw 事実、途中で出会った人にも、気田で宿泊した澤田屋主人にもビックリされてたしw 山道を行くシーンはホントに山道を行くだけ。途中、激しい雨に降られてしまうくらいで、特別大きな出来事が起こるというようなこともない。夜中に出発した4人が朝日を見るシーンは感動的な美しさ。それ以外でも普通の山道だけど、やっぱり日本の自然は美しい。後の便利屋の台詞にもあるけれど、戦争中とは思えない静けさ。やっぱり癒される。断然、山派なのでw
母親は倒れて以来、言葉が出ない状態が続いているので、道中の話は正吉、敏三、便利屋の3人ということになる。といっても、生真面目で寡黙な正吉は必要な時以外口を開かず、便利屋の問いにもほとんど答えない。お調子者でおしゃべりな便利屋と、人の良いいわゆる平均的な日本人という感じの敏三、そして正吉の3人の感じがおもしろい。そんな敏三ですら便利屋の相手ができなくなるくらい、山道は辛いものがあるけれど、なんとか乗り切っていく。途中でお弁当を食べるシーンもほほえましい。敏三は正吉が映画監督であることが少し自慢のようで、映画が好きだと話す便利屋に正吉のことを話そうとして止められる。映画かん・・・で言葉が遮られたので、映画館で働いていたと勘違いする便利屋。コミカルなシーンではあるけれど、これは後の感動シーンへの伏線。この辺りも3人のキャラや、母親の温かさ、目上の者を尊重する日本人の美徳などが感じられるシーンでもある。
4人はなんとか気田に到着。宿を探すことになるけど、疎開先に向かう人でいっぱいらしく、断られ続ける。でも、最初に訪ねた宿の女将は、3人の身なりが汚かったこと、リヤカーに病人が乗っていることで拒否したっぽい。女将役の方の演技からするとそんな気がした。店先で夫婦喧嘩をしていた澤田屋を訪ねる4人。快く迎えてくれてホッとする。見ている側もホッとする。まぁ、主人が光石研で女将が濱田マリだから、ここに泊まることは分かっちゃうけどw この宿の前で、リヤカーに乗せた母の顔に泥がついていることに気づく正吉。宿に井戸を借り、手ぬぐいで母の顔をぬぐうシーンが美しくて涙が出た。やっぱり女性なんだよね・・・
顔に泥をつけて横たわっていた時には病人然としていたのに、起こしてもらって顔をぬぐわれ、髪を整えられていくと、神々しいまでに美しくシャキッとする。その光景を敏三、便利屋、澤田屋夫婦が感動して見ている姿も印象的。こういう映画的シーンが随所にある。
トロッコが翌日には出ないということで、足止めをくう4人。そもそも、ここまで荷物を運ぶ約束だから帰ると言う便利屋も、宿の2人娘が気に入り残ることに。この辺りはコミカル要素ではあるけれど、結局疎開先まで荷物を運んでくれた便利屋も、3人のことが放っておけなくなったのかもしれない。情が移るというか・・・ 兄弟2人の部屋での会話は、先日放送されたご本人が司会を務める番組「オトナの」で、敏三役のユースケ・サンタマリアが渾身の演技と語っていたとおり良いシーンだったと思う。自分は文学が好きだったけれど、才能がないので諦めた、お前には好きなことがあって、その上才能がある。俺はお前がうらやましいと語る兄は、もちろん弟を思ってのことであるけれど、ついつい本音が出ているシーンでもある。兄弟ってなかなか本音で話す機会がないんじゃないかと思う。自身は姉弟だけど、やっぱり照れや見栄があって、なかなか本心を話すことってない。そもそも、一緒に暮らしてるわけじゃないから、普通に話す機会もそんなにないし。実はこのシーン。現場では渾身の芝居が出来て、ユースケ・サンタマリアとしてはやり切った感があったそうだけれど、近くに幹線道路があり雑音が酷く、台詞部分はアテレコになってしまったのだそうw
そして、この気田ではもう一つ重要なシーンが! 散歩に出かけた正吉は川岸の向こう側で、小学生と女教師の一段を見かける。何気ない風景ではあったけれど、強く心に響くものがあった正吉は、おもわず指で輪を作り、ファインダー代わりに覗いてしまう。映画への情熱を感じさせる場面であると同時に、これが後に『二十四の瞳』へと繋がっていくのがおもしろい。『二十四の瞳』が木下惠介監督の作品だと知っていれば、宮﨑あおい扮する女教師が出てきた時点で( ̄ー ̄)ニヤリなのでしょうが、知らなくてもちゃんと映像が挿入されるので大丈夫! ちなみに宮﨑あおいはナレーションも担当している。
と、うっかり長々『二十四の瞳』のことを書いちゃったけど、重要なシーンはここから! 同じく散歩にやってきた便利屋が正吉を見つけて話しかけてくる。最初はリヤカーを引いて山道を登りきった正吉を見直したとか、何気ない会話から入る。印象的だったのはこうしていると戦争なんて起きてないみたいだという台詞。山は山だものという台詞になんとなくじんわり。゚(゚´ω`゚)゚。 正吉が母親を大切にするのは、尊敬できる親なんだろう。自分の母親は自分のことを怒鳴ってばっかりだとおどけてみせる。そして、正吉が木下惠介であることを知らない便利屋は、正吉に『陸軍』を見ることを薦める。あのラストは素晴らしい!と、母親の気持ちが良く分かったという便利屋の言葉に、自分の考えが間違っていなかったこと、自分の思いがちゃんと伝わったことに感動した正吉は、涙を流しながら「自分の息子に立派に死んでこいという母親はいない」と言う。そうだよね・・・
建前としては、そう言わざるをえないのでしょうが、本心から自分の息子にそういう母親はいないでしょう。生きて帰って欲しいと願うに決まっている! 戦時中の映画やドラマを見ると、いつも思い出すエピソードがある。どなただったかは失念してしまったけど「徹子の部屋」にゲスト出演された男性の方のお話。戦時中に通信技師をされていたそうで、特攻隊からの無線も聞かれていたのだそう。「これから突撃する」という連絡を受け、送り出す。特攻隊員は「天皇陛下万歳」と言いながら突撃せよとの命令を受けているそうで、皆そう言って亡くなったことになっているけれど、そんな人はほとんどいなかったそうで、皆さん「お母さん!」と絶叫して散っていったのだそう・・・ それを思い出して涙が止まらない。そして『陸軍』のラストシーンがノーカットで流れる。これ、本当に素晴らしい。出征していく息子を泣いてしまうから見送らないと言っていた母、行進のラッパが聞こえるといてもたってもいられなくなり、家を飛び出して行く。人ごみを掻き分け、長い行進の列の中息子を探す母が延々と映し出される。大女優田中絹代の表情が素晴らしい! もう、出征する息子の母にしか見えない・・・ やっと息子を見つけ、息子も母と気づき笑顔を交わす。でも、お互い言葉はかけられない・・・ もう、これが今生の別れかもしれないのに・・・ これは辛かった・・・ もう、本当に涙が止まらなかった! この映画はこのシーンが見せたかったんだね。木下惠介監督というよりは"母親"の映画なんだと思った。
無事、母親を疎開先に送り届けた3人。トロッコのシーンはなし。疎開先に着いたら直ぐ便利屋は帰っていく。泊まっていけと言うけれど、自分も母親を安心させたい、いつ赤紙が来るか分からないからと言う便利屋。あくまでサラリと笑って言うけど、なかなか切ない台詞。彼がまた山道を下っていく後ろ姿を長めに映す。そういうのも映画的。前述した昔の映画のキャラを思い出したのはこのシーン。そう、現代にもある映画的なシーンでありながら、どこか昔の日本映画を思わせる。そういうオマージュ的なところはあるのかなと思う。もしかしたらそういうシーンもあるのかも。あまり、詳しくないので分からなかったけど・・・ 回想シーンで木下惠介監督が朝起きると、両親、兄、3人の妹が庭に出て、朝日に向かって手を合わせているシーンが出てくる。木下惠介監督が監督としてデビューしたことを祝い、その成功を一家で願ってのことだった。普通だったら少々あざとく感じてしまうこのシーンも、このご家族ならばとすんなり受け入れられてしまうくらい古き良き日本という作品。苦手な人もいるかもしれないけれど、自身はなんだかとっても清々しかった。続く、母の手紙のシーンはあざといまではいかないけれど、予定調和的でもあり、号泣するまでには至らずだったけれど、すでに涙目になっている身としては、やっぱり泣いてしまう。親というのはこういうものかと思い、なるほど『陸軍』のラストはああではければならないはずだと思う。
次のシーン、正吉が木下惠介に戻る決心をしてトンネルを抜けていくシーンに、その後を伝えるナレーションが被る。なるほどだから『はじまりのみち』なんだなと思っていると、木下映画のシーンがまるで『ニュー・シネマ・パラダイス』のキスシーンのように流れ出す。正吉がこんなシーンが撮りたいと語っていたシーンも出てくる。意外に斬新というか、実験的な映画も撮っていた監督なのだと気づく。『楢山節考』にしてもセットとか、かなり大胆な感じ。上手く言えないけど・・・ これも木下監督作品だったんだ?!と思う作品もあったりして、なかなか楽しかった。見たことあったのは『運命の人』だけだった。これは鑑賞時の記事に少しレビュー書いたのでリンク貼っとくw
コチラ 強く印象に残ったのは『カルメン故郷へ帰る』と『香華』 この理由も、同じ記事内に書いたので、ここでは割愛(o´ェ`o)ゞ 木下映画の感想記事じゃないからねw
キャストは全員良かったと思う! 母親はなの田中裕子は、ほぼ顔だけの演技で思いを伝えたのが素晴らしい。しかも、いわゆる顔芸のように大げさでなく、少しの変化で思いが伝わってくるのが素晴らしい。登場シーンこそ少ないけど父親の斉木 しげるや、澤田屋主人の光石研も良かった。便利屋の濱田岳はこういう役をやらせたら上手い! 意外にガッチリした体つきでビックリしたけど、ちゃっかりしてるけど憎めない感じはさすがの演技。ユースケ・サンタマリアは役者というイメージはなくて、タレントとしてもあまり好きではなかったけど、この役は良かったと思う。弟思いの普通の日本人を好演していたと思う。渾身の演技がアフレコになっちゃって残念
そして、加瀬亮。こちらも、こういう繊細な役をやらせたらホント上手い! そもそも静かに憤ってる人好き。イヤ、誰だって怒る時はあるし、我慢ならない時は怒るべきだと思うけれど、いつも怒ってばっかりいるのもねぇw 自分の信念があって、それに対していつも燃えてるけど、それをあまり表に出さず、静かに燃えてたりする人ってこと。ご本人がどうかは知らないけれど、加瀬亮にはそういう雰囲気があるし、そういう役が似合う。まぁ、演技上手いので、型にはまらずいろいろやって欲しいと思うけれど←えらそうw
そうそう! 見てみたいと思った理由のもう1つは、原恵一監督だったから。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』と『Colorful カラフル』良かったし。初の実写映画ということで若干不安だったけど、とっても良かったと思う。上手く言えないけど、とってもアニメ的でもあった。絵コンテが浮かぶっていうか・・・ それはもちろんいい意味で。たとえば、一家が朝日を見ながらお祈りしてるシーンとか、4人が山道で朝日を見るシーンとか。映画的でもあるんだけど、アニメ的でもある。まぁ、こちらの勝手な思い込みもあるかもしれないけれど・・・
映画館に見に行かなくては!と思ったのはTLに流れてきた映画関係者の方の個人アカウントでのtweetがきっかけ。映画って初日初回の観客動員で、その後の館数などが決まるらしく、どうやらそういう意味ではこの作品はコケてしまったという内容だった。これからは館数と、上映回数が減ると思う。と、書かれていた。そういえば、『スパイダーマン』の初回動員の協力したことあった! タダで見れる代わりにアンケート書いた気がする。まぁ、そういった内情はともかく、何となく失敗作として終わらせてしまうのはもったいなく思ったので、協力するとかいう気持ちではなく、映画館で見てみようと思ったしだい。
自身が見た東劇はロビーなどは古くて、いわゆる映画館って感じがするけど、椅子などの設備は良くなっているし、段差はないけど見上げるスクリーンは巨大! その画面いっぱいに広がる日本の風景は、昭和20年頃の自身が知るはずのない町並みすら懐かしく感じる。日本の自然が美しい。そして、木下惠介監督へ捧げる尊敬を感じる。是非、映画館で見て欲しいなぁ・・・
木下惠介監督映画好きな方、日本映画好きな方、古き良き日本が見たい方オススメ! 加瀬亮好きな方是非!
前述したけどエンドロールにおまけ映像あり! なかなか感動的なので、直ぐに席を立たないように!
『はじまりのみち』Official site
見たいと思って試写会応募したもハズレ・・・ 邦画だとついついそのままDVD待ちの流れになってしまいがち。今回もそうかなと思っていたけど、twitterなどでの評判がものすごく良くて。やっぱり大画面で見たい!と思い行ってきたー♪


見たいと思っていたのは加瀬亮主演だからと、木下惠介監督の映画だということ。1個目の理由はまぁ普通にファンだからw 加瀬亮の出る映画なら何でも見るってタイプじゃないけど、演技上手いので好き。激しい役ももちろんできると思うけれど、こういう繊細だけど芯の強い役絶対似合うと思ったから。木下惠介監督については実はそんなに詳しくない。以前ドキュメンタリー番組を見た気がするのだけど、ほとんど覚えていない。たしか、わりと気難しくて、気に入らないと俳優さんでも口をきいてもらえなかったんじゃなかったかな? 木下監督ではなかったかなぁ・・・ ちょっと記憶が

事前に木下惠介監督の人生そのものではなく、母親をリヤカーに乗せて疎開させる数日間を描く作品であるというのは知っていたけど、ホントに一言で言えばそれだけの話。でも、見終わってみると何故この作品のタイトルが『はじまりのみち』であるかよく分かる。あらすじにも書いた通り戦時中の話。でも、戦争の悲惨さはほとんど描かれない。でも、それだけに見せたかったこと、訴えたかったことがしっかりと伝わってくる。昭和19年に監督した『陸軍』という映画が重要なアイテム。戦時中の日本では戦争を肯定し、国民の士気を高めるプロパガンダが国策だった。そのうち重要な役割を果たしたのが国策映画。当然木下惠介監督にも国策映画の監督依頼が来たわけで、映画はこの作品が国策映画としてのそぐわないとされ、次回作の製作中止を言い渡されてしまうところから始まる。実際はどうだったのかは不明だけど、木下惠介監督にこのことを告げる上司はとてもいい方で、監督の気持ちはとっても分かるけれど、今はこういう時局だからと監督をなだめ、納得がいかないから辞表を出すという監督に、それは受け取れないとも言っている。上司の方がいい人というだけではなく、木下惠介監督の才能を買ってのことなのでしょう。見ている側は『陸軍』がとっても見たくなる。この導入部はいい。
失意のうちに実家に戻ってくる木下惠介こと木下正吉。実家は両親が苦労して大きくした商家。店があるため疎開が遅れたけれど、脳梗塞で倒れ寝たきりの母親を、なんとか静かな親戚の元へ疎開させようとしているところだった。疎開先は気多村勝坂というところで、途中からはトロッコが借りれるけれど、そこまではバスに揺られて行くしかない。寝たきりの母を揺れるバスに乗せるのはしのびないと正吉は反対。もともと荷物を運ぶために便利屋を依頼していたので、彼とともにリヤカーに乗せて山道を越えると言い出す。父親や兄の敏三は反対する。見ている側も、当時のバスがどんな乗り心地なのかは不明だけど、夏の山道をリヤカーで運ばれるのも病人には辛いのではと思ったり・・・

荷物を運ぶために雇われた便利屋は、赤紙が来てしまったため、別の便利屋がやってくる。濱田岳演じる便利屋は、女好きのお調子者。こういうキャラは洋の東西を問わず、現代の映画でも出てくるけれど、ちょっと昔の日本映画に出てくる盛り上げ役のように感じた。といっても、昔の日本映画をそんなに見ているわけではないんだけど・・・ でも、いわゆる"喜劇役者"と言われる方々が演じるような役。実は往年の大スター市川雷蔵のファン。雷蔵映画の代表作といえば『眠狂四郎』シリーズなど、少し陰のある役が似合う。でも、軽いタッチで好きな映画があって、それが『女狐風呂』という作品。妻と温泉旅行にやって来た岡引が、事件に巻き込まれるという話で、当人はイヤイヤながら巻き込まれるのでコメディタッチで軽いものとなっている。『眠狂四郎』シリーズよりも以前の作品で、若い頃の市川雷蔵の美しさもイイ! で、前置きが長いのだけど、この映画で主人公と勘違いされて事件を依頼される役で、堺正章氏の父上である堺駿二が演じたキャラを思い出したってことが言いたいわけです! イヤ、もちろん全然違う役けど、お調子者でちゃっかりしてる感じが昔の映画に出てくるキャラを思い起こさせる。で、この便利屋が後にとっても良いシーンをアシストするわけで、その辺りも昔の映画に出てくる感じ。もちろん、何度も言うけど現代の映画にも出てくるキャラだけどw
山道をリヤカーで行くシーンは実話。まぁ、それはそうだと思うけどw 一応、事前に知っていたけど、エンドロールで明らかになる。正吉がリヤカーで行くと主張したからには、それなりの道があることは知ってのことだったのでしょうけど、現代の私たちが山道と聞くと、トレッキングシューズ履いて行く狭い道を想像してしまう。そういう道もあるけど、今ほど自動車が普及していなかった時代や、戦時中であることを考えると、山道を歩くってこと自体はそれほどビックリなことではなかったのかも。もちろんリヤカーで病人を運ぶのはビックリだったでしょうけどw 事実、途中で出会った人にも、気田で宿泊した澤田屋主人にもビックリされてたしw 山道を行くシーンはホントに山道を行くだけ。途中、激しい雨に降られてしまうくらいで、特別大きな出来事が起こるというようなこともない。夜中に出発した4人が朝日を見るシーンは感動的な美しさ。それ以外でも普通の山道だけど、やっぱり日本の自然は美しい。後の便利屋の台詞にもあるけれど、戦争中とは思えない静けさ。やっぱり癒される。断然、山派なのでw
母親は倒れて以来、言葉が出ない状態が続いているので、道中の話は正吉、敏三、便利屋の3人ということになる。といっても、生真面目で寡黙な正吉は必要な時以外口を開かず、便利屋の問いにもほとんど答えない。お調子者でおしゃべりな便利屋と、人の良いいわゆる平均的な日本人という感じの敏三、そして正吉の3人の感じがおもしろい。そんな敏三ですら便利屋の相手ができなくなるくらい、山道は辛いものがあるけれど、なんとか乗り切っていく。途中でお弁当を食べるシーンもほほえましい。敏三は正吉が映画監督であることが少し自慢のようで、映画が好きだと話す便利屋に正吉のことを話そうとして止められる。映画かん・・・で言葉が遮られたので、映画館で働いていたと勘違いする便利屋。コミカルなシーンではあるけれど、これは後の感動シーンへの伏線。この辺りも3人のキャラや、母親の温かさ、目上の者を尊重する日本人の美徳などが感じられるシーンでもある。
4人はなんとか気田に到着。宿を探すことになるけど、疎開先に向かう人でいっぱいらしく、断られ続ける。でも、最初に訪ねた宿の女将は、3人の身なりが汚かったこと、リヤカーに病人が乗っていることで拒否したっぽい。女将役の方の演技からするとそんな気がした。店先で夫婦喧嘩をしていた澤田屋を訪ねる4人。快く迎えてくれてホッとする。見ている側もホッとする。まぁ、主人が光石研で女将が濱田マリだから、ここに泊まることは分かっちゃうけどw この宿の前で、リヤカーに乗せた母の顔に泥がついていることに気づく正吉。宿に井戸を借り、手ぬぐいで母の顔をぬぐうシーンが美しくて涙が出た。やっぱり女性なんだよね・・・

トロッコが翌日には出ないということで、足止めをくう4人。そもそも、ここまで荷物を運ぶ約束だから帰ると言う便利屋も、宿の2人娘が気に入り残ることに。この辺りはコミカル要素ではあるけれど、結局疎開先まで荷物を運んでくれた便利屋も、3人のことが放っておけなくなったのかもしれない。情が移るというか・・・ 兄弟2人の部屋での会話は、先日放送されたご本人が司会を務める番組「オトナの」で、敏三役のユースケ・サンタマリアが渾身の演技と語っていたとおり良いシーンだったと思う。自分は文学が好きだったけれど、才能がないので諦めた、お前には好きなことがあって、その上才能がある。俺はお前がうらやましいと語る兄は、もちろん弟を思ってのことであるけれど、ついつい本音が出ているシーンでもある。兄弟ってなかなか本音で話す機会がないんじゃないかと思う。自身は姉弟だけど、やっぱり照れや見栄があって、なかなか本心を話すことってない。そもそも、一緒に暮らしてるわけじゃないから、普通に話す機会もそんなにないし。実はこのシーン。現場では渾身の芝居が出来て、ユースケ・サンタマリアとしてはやり切った感があったそうだけれど、近くに幹線道路があり雑音が酷く、台詞部分はアテレコになってしまったのだそうw
そして、この気田ではもう一つ重要なシーンが! 散歩に出かけた正吉は川岸の向こう側で、小学生と女教師の一段を見かける。何気ない風景ではあったけれど、強く心に響くものがあった正吉は、おもわず指で輪を作り、ファインダー代わりに覗いてしまう。映画への情熱を感じさせる場面であると同時に、これが後に『二十四の瞳』へと繋がっていくのがおもしろい。『二十四の瞳』が木下惠介監督の作品だと知っていれば、宮﨑あおい扮する女教師が出てきた時点で( ̄ー ̄)ニヤリなのでしょうが、知らなくてもちゃんと映像が挿入されるので大丈夫! ちなみに宮﨑あおいはナレーションも担当している。
と、うっかり長々『二十四の瞳』のことを書いちゃったけど、重要なシーンはここから! 同じく散歩にやってきた便利屋が正吉を見つけて話しかけてくる。最初はリヤカーを引いて山道を登りきった正吉を見直したとか、何気ない会話から入る。印象的だったのはこうしていると戦争なんて起きてないみたいだという台詞。山は山だものという台詞になんとなくじんわり。゚(゚´ω`゚)゚。 正吉が母親を大切にするのは、尊敬できる親なんだろう。自分の母親は自分のことを怒鳴ってばっかりだとおどけてみせる。そして、正吉が木下惠介であることを知らない便利屋は、正吉に『陸軍』を見ることを薦める。あのラストは素晴らしい!と、母親の気持ちが良く分かったという便利屋の言葉に、自分の考えが間違っていなかったこと、自分の思いがちゃんと伝わったことに感動した正吉は、涙を流しながら「自分の息子に立派に死んでこいという母親はいない」と言う。そうだよね・・・

無事、母親を疎開先に送り届けた3人。トロッコのシーンはなし。疎開先に着いたら直ぐ便利屋は帰っていく。泊まっていけと言うけれど、自分も母親を安心させたい、いつ赤紙が来るか分からないからと言う便利屋。あくまでサラリと笑って言うけど、なかなか切ない台詞。彼がまた山道を下っていく後ろ姿を長めに映す。そういうのも映画的。前述した昔の映画のキャラを思い出したのはこのシーン。そう、現代にもある映画的なシーンでありながら、どこか昔の日本映画を思わせる。そういうオマージュ的なところはあるのかなと思う。もしかしたらそういうシーンもあるのかも。あまり、詳しくないので分からなかったけど・・・ 回想シーンで木下惠介監督が朝起きると、両親、兄、3人の妹が庭に出て、朝日に向かって手を合わせているシーンが出てくる。木下惠介監督が監督としてデビューしたことを祝い、その成功を一家で願ってのことだった。普通だったら少々あざとく感じてしまうこのシーンも、このご家族ならばとすんなり受け入れられてしまうくらい古き良き日本という作品。苦手な人もいるかもしれないけれど、自身はなんだかとっても清々しかった。続く、母の手紙のシーンはあざといまではいかないけれど、予定調和的でもあり、号泣するまでには至らずだったけれど、すでに涙目になっている身としては、やっぱり泣いてしまう。親というのはこういうものかと思い、なるほど『陸軍』のラストはああではければならないはずだと思う。
次のシーン、正吉が木下惠介に戻る決心をしてトンネルを抜けていくシーンに、その後を伝えるナレーションが被る。なるほどだから『はじまりのみち』なんだなと思っていると、木下映画のシーンがまるで『ニュー・シネマ・パラダイス』のキスシーンのように流れ出す。正吉がこんなシーンが撮りたいと語っていたシーンも出てくる。意外に斬新というか、実験的な映画も撮っていた監督なのだと気づく。『楢山節考』にしてもセットとか、かなり大胆な感じ。上手く言えないけど・・・ これも木下監督作品だったんだ?!と思う作品もあったりして、なかなか楽しかった。見たことあったのは『運命の人』だけだった。これは鑑賞時の記事に少しレビュー書いたのでリンク貼っとくw

キャストは全員良かったと思う! 母親はなの田中裕子は、ほぼ顔だけの演技で思いを伝えたのが素晴らしい。しかも、いわゆる顔芸のように大げさでなく、少しの変化で思いが伝わってくるのが素晴らしい。登場シーンこそ少ないけど父親の斉木 しげるや、澤田屋主人の光石研も良かった。便利屋の濱田岳はこういう役をやらせたら上手い! 意外にガッチリした体つきでビックリしたけど、ちゃっかりしてるけど憎めない感じはさすがの演技。ユースケ・サンタマリアは役者というイメージはなくて、タレントとしてもあまり好きではなかったけど、この役は良かったと思う。弟思いの普通の日本人を好演していたと思う。渾身の演技がアフレコになっちゃって残念

そうそう! 見てみたいと思った理由のもう1つは、原恵一監督だったから。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』と『Colorful カラフル』良かったし。初の実写映画ということで若干不安だったけど、とっても良かったと思う。上手く言えないけど、とってもアニメ的でもあった。絵コンテが浮かぶっていうか・・・ それはもちろんいい意味で。たとえば、一家が朝日を見ながらお祈りしてるシーンとか、4人が山道で朝日を見るシーンとか。映画的でもあるんだけど、アニメ的でもある。まぁ、こちらの勝手な思い込みもあるかもしれないけれど・・・
映画館に見に行かなくては!と思ったのはTLに流れてきた映画関係者の方の個人アカウントでのtweetがきっかけ。映画って初日初回の観客動員で、その後の館数などが決まるらしく、どうやらそういう意味ではこの作品はコケてしまったという内容だった。これからは館数と、上映回数が減ると思う。と、書かれていた。そういえば、『スパイダーマン』の初回動員の協力したことあった! タダで見れる代わりにアンケート書いた気がする。まぁ、そういった内情はともかく、何となく失敗作として終わらせてしまうのはもったいなく思ったので、協力するとかいう気持ちではなく、映画館で見てみようと思ったしだい。
自身が見た東劇はロビーなどは古くて、いわゆる映画館って感じがするけど、椅子などの設備は良くなっているし、段差はないけど見上げるスクリーンは巨大! その画面いっぱいに広がる日本の風景は、昭和20年頃の自身が知るはずのない町並みすら懐かしく感じる。日本の自然が美しい。そして、木下惠介監督へ捧げる尊敬を感じる。是非、映画館で見て欲しいなぁ・・・
木下惠介監督映画好きな方、日本映画好きな方、古き良き日本が見たい方オススメ! 加瀬亮好きな方是非!

