まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

死刑台の情痴!

2022-10-12 | イギリス、アイルランド映画
 「ダンス・ウィズ・ア・ストレンジャー」
 50年代のロンドン。ナイトクラブの雇われママでシングルマザーのルースは、名門出身の美青年デイヴィッドと出会い彼との情事にのめり込む。不誠実なデイヴィッドに傷つき憤りながらも、彼との関係を断ち切れないルースだったが…
 イギリスで最後に絞首刑となった女性の物語。イザベル・ユペール主演の「主婦マリーがしたこと」のヒロインは、フランスで最後にギロチン処刑された女性でしたが、どっちも奔放で愚かで男運が悪すぎる、自業自得なんだけど哀れな女たち。それにしても。死刑になるような女性の人生、映画や小説の題材にはぴったりな濃密さ、激しい濁流のようで憧れはしないけど畏怖はしてしまいます。でもこの映画のルースも「主婦マリーがしたこと」のヒロインも、やったことは罪深いが死刑はさすがに厳しすぎて理不尽。ルースの場合、被害者は一人で彼にも非があるので情状酌量の余地があり、殺害時には明らかに心神喪失状態で精神鑑定コース、日本だと懲役10年ぐらいで片付けられそうなケース。時代が悪かった。まさに悪運の星のもとに生まれた女。

 死刑はあんまりだけど、ルースの人格や生き方には共感も同情もできません。運もないけど思慮も分別もなさすぎ、自分勝手すぎ。まだ幼い息子をほったらかして男に入れあげるとか、あまりにも女であることを優先しすぎでしょ。息子が可哀想だった。自分だけ身を滅ぼすのは自由だけど、子どもを不幸にするのは許せません。でも誰かを狂おしいほど愛してしまうと、そんなことどうでもよくなるのでしょうか。そんな愛には無縁な私からすると、もうそこで男はあきらめようよ、生活立て直そうよと、デイヴィッドとの爛れた腐れ縁を断ち切れないルースに何度も言いたくなりました。でもデイヴィッドと出会わなくても、あの下半身のユルさと不安定なメンタルで、ルースはまともな人生を歩めなかったのでは。でも、まともって?ルースとは真逆な私はまともなの?女の性と業についても考えさせられました。

 これぞダメ男!クズ男!なデイヴィッド。ルースを翻弄し傷つけ蔑ろにする彼の言動、すべてが非道すぎて最低なんだけど、計算ずくとか手練手管とかではなく天然なのが魔性の魅力。もちろん絶世の美貌も。あんな若く美しい男に優しくされたり甘えられたり追いかけられたりしたら、たいていのことは許してしまうのは理解できる。もちろんルースみたいな悪い男中毒者には、たいていの女性はならない。裏切りも暴力も愛!DV被害に遭っても我慢してる女性の多くが、そんな精神状態なんだろうな~。美しき害虫のような男デイヴィッドを演じたのは、若き日のルパート・エヴェレット。「アナザー・カントリー」の2年後の作品です。

 宇宙人的な独特の美しさが気持ち悪くもあったアナカンのルパートですが、この作品の彼はすごく可愛い!アナカンの時より顔があどけなく見えた。甘えん坊で寂しがり屋な笑顔や傷ついた捨て犬のような瞳で、おんな心を見事にたらしこみます。スラ~っとした長身は何を着ても似合ってて、どのシーンでも雑誌のグラビアみたいなカッコよさ。ルパート級の美しい男には、いい人な役よりも悪い男、クズゲス野郎の役のほうが相応しい。ブサイクなクズゲスなど言語道断ですが、美しすぎる男は卑劣さや下劣ささえも魅力にしてしまう。イケメンと美男は違う、この作品のルパートを見てあらためてそう思いました。ラブシーンで見せる裸も、細いけど硬く引き締まっていて美しかったです。日本の若い人気男優にも、ぜひデイヴィッドみたいな役に挑戦してほしいんだけど。
 ルース役のミランダ・リチャードソン、大好きな女優。この頃は「クライング・ゲーム」や「ダメージ」など、傑作秀作で好演した絶頂期でしたね。激情的かつガラス細工な繊細さ不安定さ、狂気の淵に堕ちた目つきのヤバさ、白い肌の美しさ、大胆かつ自然な脱ぎなど、ほんと女優の鑑のよう。彼女みたいな女優、日本にもほしいです。ルースを愛し支える中年男デズモンド役、イアン・ホルムの好演も忘れがたいです。デズモンドのドMな献身愛も、ある意味異常に思えました。
 愛憎まみれな情痴ドラマなんだけど、ドロドロとはしていません。「フォー・ウェディング」などのマイク・ニューウェル監督らしい、重くなりすぎないライトな感じが秀逸。深い霧に包まれた夜のロンドンや、郊外の美しい風景なども、イギリス好きには魅力的でした。
 
 
コメント (2)
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