先週分は飛ばしてしまいました。
ということで、老後を支える年金について、今日と11日の2回分、
「希望社会への提言(17)―パートも派遣も厚生年金に」と
「(16)―年金は税と保険料を合わせて」を一緒にお届けします。
希望社会への提言(17)―パートも派遣も厚生年金に ・専業主婦にも保険料を払ってもらう ・低年金者は生活保護を受けやすくしよう 朝日新聞社説 2008年02月18日(月曜日)付 ◇ 年金は税に頼りすぎず、保険方式を基本にしていこう。前回はそう提言した。問題は国民年金の保険料を払わない未納や未加入をいかに減らすかである。 そこでまず、パートや派遣で働く人のうち、いまは厚生年金の対象になっていない約1200万人を対象に加えていくことを提案したい。この人たちにも未納や未加入が多いからだ。 厚生年金の傘を広げることで年金の統合を進め、実質的に一元化していこうという考え方だ。 非正規の労働者を厚生年金に加えることには、経済界から強い抵抗がある。企業は労働者と保険料を半分ずつ負担しなければいけないからだ。 しかし、人を雇って事業をする以上、たとえ正社員でなくとも、その将来に対して応分の負担をするのは、企業の社会的な責任である。そんな意識を定着させたい。欧州では常識的な考え方だ。 人を雇ったら、どんな雇用形態であっても必ず厚生年金に加入させ、給料天引きの保険料と企業負担の保険料を一括して納める。そういう制度にすれば、企業にとって非正規雇用を増やす「うまみ」が減る。それにより、非正規の雇用を抑制する効果も期待できる。 ------------------------------------------------ 新たな保険料負担は、とくに中小零細企業にとって重荷となるに違いない。だが、その我慢が従業員のやる気や企業の活力を生むことにもつながる。移行時には企業の負担を和らげるため、法人税の軽減といった支援策を考えたらどうか。 この改革が進むと、パートで働く主婦はみんな厚生年金に入ることになる。いまサラリーマンの妻の専業主婦には、国民年金の保険料を払わなくても年金がもらえる「第3号被保険者制度」がある。ふつうパートの主婦はこの3号になっているが、厚生年金へ移るので、3号の人数はもっと減るはずだ。 3号の制度には、働く女性との比較で不公平だとの批判が強いので、3号が減ったところで廃止した方がいい。残った専業主婦は国民年金とし、会社が夫の保険料と合わせて妻の保険料も給与の天引きで納めるようにするのも一案だ。 左の下の図をご覧いただきたい。厚生年金の加入者がこうして増えていけば、国民年金に入る人は半減し、ほぼ自営業者だけが残ることになる。 そうなると、徴収の事務にもっと真剣に取り組める。高所得の未納者を調べて強制徴収に力を入れればよい。逆に低所得で保険料を払えない人には、免除をきめ細かく適用できるはずだ。 同時に、保険料を25年間以上払わないと年金がもらえない現在の仕組みは改めよう。25年では長すぎる。この高いハードルが未納を増やす一因であり、不公平も生んでいるからだ。 --------------------------------------------------- しかし、それでも低年金者や無年金者を完全になくすことはできない。年金を税で賄う方式と比べた最大の弱点だ。それをカバーするため、例えば低年金者には生活保護をもっと受けやすくするような配慮を検討してはどうか。 さらにその先は、自営業者らの所得をきちんと把握できるよう条件を整えて、全国民が同じ厚生年金へ加入することをめざそう。これを実現できれば、年金制度の一元化が完成する。 さて、制度問題とは別に、果たして将来も年金の水準を維持していけるかという資金的な問題もある。 年金保険料は厚生年金が給料の18.3%(労使負担の合計)、国民年金は月1万6900円までだんだん引き上げて、そこで固定することが決まっている。受け取る年金は、保険料収入に国庫負担や積立金の取り崩しも財源に加えて、その範囲内で決める仕組みだ。 厚生年金の受給額はいま、現役時代の平均手取り収入の約6割の水準にある。高齢化が進むにしたがって下げざるを得ないが、それでも現役の5割余は確保できる、というのが政府の説明だ。 プラン通りにいくか。もっと落ち込むのか。それは今後の経済成長や少子化の度合いによりけりだ。それが見えてくる十数年先になって、もしも5割を切る見込みになったら、65歳の受給年齢を引き上げるか、受給水準を下げるか、保険料を上げるかの選択を迫られる。 安定成長と次世代の育成。それこそが年金制度を支えるカギである。 (2008.2.18 朝日新聞) |
希望社会への提言(16)―年金は税と保険料を合わせて 朝日新聞社説 2008年02月11日付 ●基礎年金をすべて税で賄うのは非現実的だ ●税の投入は、年金より医療や介護を優先させる 老後を支える年金について、改革の方向を2回に分けて考えたい。 制度がはじまって66年。いまや7000万人が保険料を払い、3000万人が年金を受けとる。その総額は43兆円となり、高齢者の収入の7割を占める。年金しか収入のない人も6割にのぼる。 その年金の信頼が揺らいでいる。保険料を徴収する社会保険庁が、年金記録をでたらめに管理してきたためだ。 保険料をきちんと集め正確に記録しておかなければ、年金は成り立たない。社保庁は2年後に新組織へ移るが、それまでに組織体質を根底からたたき直し、徴収と管理を正しくできる体制をつくる。それが、すべての大前提である。 * そのうえで、安心できる年金とするために制度をどう改めるか。改革の方向には大きく二つの選択肢がある。 いまの保険方式を土台に改革を進めていくか。それとも、基礎年金は保険料の徴収をやめ、すべて税金で賄う方式へ切り替えるか。この二つである。 経済界は後者の税方式へ移行するよう主張しており、日本経済新聞も税方式を先月提言した。民主党も税を財源にした最低保障年金を提案している。 いま340万人いる「未納・未加入」の問題がなくなる。保険料を集める必要がなくなり、社保庁の仕事が半減する。こうした点が税方式の大きな長所だ。 しかし、厄介な難問も無視できない。この選択は悩ましいが、保険方式を維持しつつ改革していく前者の方がより現実的だと考える。 最大の理由は、社会保障の先行きを全体として見渡したとき、まず医療と介護に優先して税金を振り向けていかなければならないという点だ。 上のグラフをご覧いただきたい。社会保障に占める年金の割合はだんだん小さくなっていき、反対に医療や介護などが膨らんでいく見通しだ。予期できないリスクに備える医療や介護は老後の安心を支える基盤であり、社会全体でカバーし合うのが適している。 現状の医療と介護を維持するだけでも、高齢化により20年後には今より30兆円以上も費用がかかる。財源は保険料と税金だが、必要になる税金を消費税で賄うなら、6~7%分の増税が避けられないだろう。将来の増税は、まずこうした分野へ投入していくべきだ。 基礎年金をすべて税で賄うとすると、それだけで消費税なら5~7%の増税が必要だ(政府の経済財政諮問会議の試算)。医療や介護の負担増にこれが加われば、消費税の引き上げ幅はゆうに10%を超える。いくら福祉のためでも、これだけの増税を国民が認めるだろうか。 税方式へ移行すれば保険料は払わなくてよくなるから、国民全体としての負担に変わりはない。ただ、負担が給付に結びつく保険料に比べ、増税に対しては拒否感が極めて強いのが、ここ30年の経験則だ。それを考えると、保険料を税金へ切り替えるのは難しくないか。 いま基礎年金の財源は3分の1が税金で、09年度には2分の1へ上げることになっている。税の投入はその程度にし、保険料との二本柱でいくのが現実的だ。 * 税方式に切り替えるためには、ほかにも大きな問題がある。 ひとつは、これまで保険料を納めてきた人と、納めなかった人の公平をどう保つかだ。たとえば、保険料を納め終えた年金の受給世代は、消費税の増税によって二重払いを迫られる。また、年金をもらえないお年寄りにとっては、増税分だけ取られ損になりかねない。 こうした不公平を避けるため、前者には年金支給額を増やし、後者のためにもそれなりの手当てをするとなると、さらに大きな財源が必要になる。 現役世代にしても、保険料を払ってきた実績に応じて将来受け取る年金に差をつけるなら、すべての人が満額の年金を受け取れるようになるまでに40年以上もかかる。つまり「未納・未加入」問題はすぐ解決するわけではないのだ。 また、企業が社員のために半分負担している保険料をどうするかも大問題だ。負担をなくしたいのが経済界の本音のようだが、社会連帯の輪から企業が抜けてしまうと社会保障は支えていけない。保険料に代わる新たな税をつくり、企業から徴収することが可能だろうか。 以上のように、両方式には一長一短がある。まずは、老後を支えるもう一つの柱である医療や介護へ税を投入していく。そのうえで、さらに年金の保険料を増税へ置き換えてもいいという国民合意ができるのなら、そのとき税方式へ移行してもいいのではなかろうか。 さて、保険方式で年金制度をどう改革するか。次週は私たちの案を示そう。 (2008.2.11 朝日新聞) |
朝日新聞【社説】希望社会への提言
この連載、論説委員が書いていらっしゃると思うのですが、
今日はだれが書いてるのかなぁ、と思いながら読んでいます。
最後まで読んでくださってありがとう
2008年も遊びに来てね
また明日ね