『離婚300日問題 無戸籍児を救え!』という本が出た。
この問題は、1年前の『記者の目』に工藤哲記者が取り上げ、
その後、毎日新聞が積極的にキャンペーンをはって社会に認知されるようになり、
法改正につながった問題といえると思う。
『離婚後300日問題 無戸籍児を救え!』
(明石書店/毎日新聞社会部/2008年08月)
『離婚後300日 問題無戸籍児を救え!』 (明石書店/毎日新聞社会部/2008年08月) 離婚後の妊娠であれば「現夫の子」として届けられるようになった。 住民票もつくられ、行政のサービスが受けられるようになった。 「現夫の子」として届けることができた子どもは、1年で500人を超えた。 国を動かし、無戸籍児を救った毎日新聞のキャンペーン報道の記録。 07年「疋田桂一郎賞」受賞。 目次 まえがき(毎日新聞社会部副部長 照山哲史) 第1章 親子の苦悩 「戸籍がない女の子」 窓口で「受理できない」 記事への反響 さまざまな問題点 早産でも杓子定規に「前夫の子」 前夫の苦悩 全国の実態は? 「300日」は妥当なのか 「現夫の子」になっても残る「前夫の名」 自治体から5年前に疑問の声 大阪地検の不祥事 第2章 行政、国会が動き始めた 法務省が実態調査へ 東京都足立区が無戸籍児を住民票に記載 無戸籍児への医療サービス徹底へ 動き出した国会 新法案が浮上 「再婚禁止期間」の100日への短縮 特例新法案提出へ進む議論 出始めた慎重論 法案提出見送りへ 法務省は「離婚後妊娠」を救済へ 300日以内の子、「年2800人」と判明 法務省通達による出生届の受け付け開始 無戸籍でも旅券の発給認める 第3章 浮上する課題と見直しの動き 妊娠が「離婚前」か「離婚後」かで明暗 「事実上の離婚」より後の妊娠なのに 1年を経て「無戸籍児」の実態調査 DV証明で無戸籍児に住民票 無戸籍児の親に念書要求 無戸籍児は少なくとも「227人」 「置き去り児」には作られる戸籍 「家族の会」が発足 「親子2代で無戸籍」の現実 学校は、無戸籍女性にどう向き合ったのか 「親子2代の無戸籍」解消 無戸籍児に住民票記載で統一基準 最高裁も救済に乗り出す ★報道を振り返って (毎日新聞社会部 工藤哲) あとがき (毎日新聞社会部長 小川一) |
この問題は、20数年前にじっさいに「離婚」を経験し、
国籍や戸籍、住民票のことを考えてきたわたしにとっても身近な問題なので、
本を読みたいと思っていたら、
9月4日の、毎日新聞「記者の目」に工藤哲記者の
「300日問題『離婚前妊娠』の無戸籍児」という記事が載った。
1年前の「記者の目」の記事とともに紹介したい。
記者の目:300日問題「離婚前妊娠」の無戸籍児=工藤哲 東京社会部 毎日新聞2008.9.4 「不倫・不貞の子」扱いは偏見 「届け出」重視でいいのでは 離婚後300日問題のキャンペーン報道を06年12月から続けてきた。無戸籍児への無料乳児健診や児童手当支給などの行政サービスが徹底され、住民票も一定の基準を満たせば作られるようになった。そして、「離婚後の妊娠」で生まれた子なら「現夫の子」で戸籍に記載されるようにもなった。一連の報道の成果と自負しているが、「離婚前の妊娠」で生まれた子は、いまだに調停や裁判をしなければならない。法務省の推計によれば、「離婚前の妊娠」は、離婚後300日以内に生まれる子の9割を占める。今も根本的解決とはいえない状況だ。 この「離婚前」妊娠のケースに直接結びつくことだが、300日問題を報ずるうえで付いて回るのが「不倫・不貞」という言葉だ。「いまだ戸籍に記載されない子供がいるのは、『不倫・不貞』の結果だ。親がきちんとけじめをつけないからこうなるのだ」。そんな世間の声が聞こえてきそうである。昨春、DNA鑑定で父子関係が明白で、前夫に異論がなければ「現夫の子」と認める議員立法の新法案が、国会への提出を目前に見送られた大きな理由もそこにあった。当時の長勢甚遠(じんえん)法相からは「貞操義務」「性道徳」との発言まで出た。 正直、私にもこの問題を考えるうえで、そうしたわだかまりがないとは言い切れない。これまで無戸籍児を育てる多くの女性(母親)に会って話を聞いてきたが、「現夫」や「パートナー」が同席したケースでは、「相手が法的に別の男性と結婚している状態なのに、なぜ自分の子を妊娠させる結果になったのか」と率直に聞いてみた。離婚前の妊娠は男性側の理性や努力で避けられるし、モラル上も望ましくないと考えたからだ。 男性には「その場の雰囲気」とか「300日規定を知らなかった」などと歯切れの悪い答えが目立った。女性の中には「妊娠できる年齢のリミットが迫っていた」と話し、妊娠を急いだ背景に自分自身の責任もあると主張する人もいた。こうした話を聞き、同じ男性の立場から、「現夫やパートナーにもう少し自覚があれば、女性や子供が傷つかずに済んだのでは」と責めたくなったこともある。 だが、取材に応じた現夫やパートナーは、子供が無戸籍となった厳しい現実を受け止め、世間の批判や偏見にひたすら耐えていた。女性を守り、子供を戸籍に記載させようと、自ら「無戸籍児家族の会」に相談し、思いを訴える人もいた。家族の会によると、約60家族の会員のうち半数ほどは現夫やパートナーが一緒に活動している。こうしたケースでは、妊娠を一時的な「過ち」などと考えている例は皆無で、女性は新しいパートナーを得て、人生を再スタートさせたといえる。 また、京都市の30代女性のように、前夫と別居した後に新パートナーと知り合って交際が始まり、再婚して妊娠・出産したはずだったのに、前夫が女性から預かった離婚届を出さなかったため、書類上の離婚の日付が遅くなり「離婚前の妊娠」とされた事例もあった。これは離婚届の「受理の日付」の問題で、「不倫・不貞」とはまったく無関係の事情だ。 取材で会った当事者の家族はただひたむきに、一歩ずつ前に進もうとしている人たちだ。こうした家族を「不倫・不貞」と決めつける人には、「実際にその家族や子供を見て、じかに接してから主張すべきだ」と言いたい。自ら声を出して取材に応じる人たちの中には、「世間から批判を浴びるような関係ではない」と言う人もいるだろう。 仮に「不倫・不貞の子」だったとしても、生まれた子供に罪があるはずがない。親の事情によって、国の宝ともいえる子供の人生が生まれながらにして公的に否定されてしまう事態は、絶対にあってはならないことだ。これまで無策だった国会や政府の対応は批判されて当然だ。 「夫婦4組に1組は、夫婦とも、またはどちらかが再婚」という時代。現行の300日規定では、妊娠が離婚の「前」か「後」かで、天と地ほど差のある状況が生まれている。「結婚生活を忘れてしまいたい『離婚』の日付にどれほどの意味があるのか」。昨年8月14日のこの欄で書いた思いは強まるばかりだ。離婚問題に詳しい榊原富士子弁護士は「結婚中に生まれた子は、母のその時の夫を父親とする。そのうえで、前夫が『自分の子だ』と主張したら、その時に裁判で覆せばいい」と言う。やはり、事実に基づいた父親の名前を書いた出生届を出し、子供の名前が戸籍に記載されるというのが自然だ。規定の一日も早い見直しが待たれている。(東京社会部) ------------------------------------------------------------ 2007年08月14日まいまいクラブ 「記者の目 読者の目」 離婚後300日規定の救済=工藤哲(社会部) ◇当事者に支えられて報道――論議深め、具体策探ろう 「離婚後300日以内に誕生した子は前夫の子」と推定する民法772条で、法務省が離婚後妊娠に限って「今の夫の子」と認める通達を出して2カ月半が過ぎた。この間、163件(8月3日現在)の出生届が受理され、昨年12月から続けてきた報道は無戸籍の子供の救済に一定の成果を上げることができたと思う。救済範囲を広げる議論はこれからだが、離婚・再婚の経験がない私(30歳、独身)に、この問題に取り組む力を与えてくれたのは、当事者たちの切実な思いだった。 2歳になるのに戸籍のない、さいたま市の麗樺(らいか)ちゃんに出会ったのは昨年12月19日。父親(25)は「23歳になる妻が離婚後226日目に産んだので前夫の子にされてしまう。前夫は行方不明で裁判ができない」と途方に暮れていた。「保育所に入れるよう住民登録をしてもらおう」と父親らと役所に行くと「戸籍がなければできない」と追い返された。 「戸籍は誰にでもあるもの」と考えていた私は、認識不足を恥じた。目の前に存在しているのに、法的には生まれてもいない。戸籍がない子供は、乳児医療も満足に受けられず、将来は就職、結婚に支障が出るという。麗樺ちゃんの10年、20年後のことが気がかりでならなかった。 同12月24日朝刊社会面(東京本社版)で「戸籍なく2歳に」の見出しで報じると、すぐに反響があった。「大人のエゴ」という批判もあったが「マスコミの力でこの女の子を救ってください」という声もあった。メールを寄せてくれたのが、02年に離婚後265日目に男児を産み、裁判で現夫の子にした兵庫県議の井戸正枝さん(41)だった。井戸さんは自分と同じような思いをさせたくないと非営利組織(NPO)を設立、当事者の相談に応じていた。 届いた手紙やメール、井戸さんから聞いた事例などから相手の承諾が得られたケースについて一つずつ記事にしていった。家族に同行しての取材では役所で「裁判手続きが必要です」と言われ肩を落とす家族と励まし合ったこともあった。 取材を進めていくと「300日規定」は家族法にかかわる弁護士や法律学者の間で長らく問題視されていたことも分かった。だが当事者の声が取り上げられることはほとんどなく、問題は表面化していなかった。取材したどのケースも切実なもので「絶望していたさなかに、この問題に光をあてた毎日新聞を読み涙が出るほどうれしかった」と話してくれる人もいた。年齢的に妊娠できるリミットが迫っている中で現夫と出会い離婚後266日で出産した女性や、離婚後妊娠でも早産で292日となり裁判が必要になった人もいた。 ほとんどが、出生届を出すまで規定を知らなかったケースだ。大半の役所は「窓口でプライバシーに触れるのは難しい」という理由から離婚届の提出時などに注意喚起していない。「規定を知らない親が悪い」と片づけるのでは、当事者が気の毒すぎると思った。 ただ、離婚前に新たなパートナーの子供を妊娠した女性に対し好ましくない印象を受ける人もいるのは事実だ。提言シリーズ「離婚後300日規定 こう考える」(5月4日朝刊社会面、東京本社版)では、離婚カウンセラーの岡野あつこさんの「(離婚前妊娠では)リスクを覚悟できない方が問題」との指摘に多くの共感が寄せられた。そうは言っても、今や「バツイチ」は珍しくなく、むしろ肯定的な言葉にすらなりつつある。結婚生活がうまくいくとは限らないし「300日問題」は誰に降りかかってきてもおかしくない。 長勢甚遠法相の言う「性道徳、貞操義務」に反するケースは少なくないとも思う。そんな現実を踏まえ、岡野さんの指摘のようにならないためには、親になる人は300日規定を事前によく認識し、子供が犠牲になるリスクを避ける努力が求められよう。ただ、事情はどうあれ、親の都合で子供が一生救われない状況は放置できない。 離婚後300日以内に生まれた子の9割が離婚前妊娠だ。親の見識が疑われるケースもあろうが、同情に値する例もある。実際、離婚届を出した日より数日妊娠が早かっただけで「離婚前妊娠」とされた母親からも話を聞く機会があった。夫婦生活が破綻(はたん)しているのに、さまざまな事情で離婚届を出すのが遅れるケースは珍しくないだろう。 皆から祝福され、記念日にまでなる「結婚」ならいざ知らず、結婚生活を忘れてしまいたい「離婚」の日付にどれほどの意味があるのか。子供の将来のためにも、離婚の日付でなく結婚生活の事実上の破綻を重んじたり、別居証明があれば規定を覆すための裁判手続きを簡略化することは、少なくとも検討されていい。規定をめぐる議論は、始まったばかりだ。 (2007.8.14 毎日新聞) |
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