姪が嫁いだ藤枝のs君は、ビニールハウスで水耕栽培の野菜を作っている。一度だけそのハウスを訪れたことがある。ハウスに入って驚いたのはその広さだ。入り口から入ると、栽培している野菜の棚が果てしなく続いて、先がどのような状態か定かでない。ハウスのなかは温かく、ビニールを通してたっぷりと太陽の光が差し込んでいる。一瞬自分がどこにいるのか、忘れてしまうような別世界だった。
そのs君から、レタスとミツバ、ワケギが送られてきた。長いダンボールの中に、濡れた新聞紙で野菜たちがていねいに包んである。先端からのぞいているグリーンの葉は濃い緑で、それがレタスだとは分らない。水耕栽培のため、根が連獅子の髪のような細さでしっかりと付いている。妻はこの根を水に入れておけば、また芽が出るかも、といって瓶に挿した。こちらは、雪の真最中で、野菜の緑から遠ざかっていただけに新鮮である。
レタスはさっそくサラダにする。ドレッシングは亜麻仁油と千鳥酢を使うこだわりの自家製である。サラダが口に入ると、新鮮なレタスの香りが口いっぱいに広がる。シャッキとした舌触りとともに、野菜の生命力をそのまま体内に取り入れる感動が身体中に広がっていく。だから今日はわが家の寒明けのサラダ記念日。
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日 俵万智
こんな新感覚の和歌が話題になってから、何年の月日が流れたのだろうか。甘酸っぱい青春の恋の歌集は懐かしい。いま俵万智さんは、小学生になったお子さんとツイッターでつぶやきあっている、という記事がネットにあった。
このところ暖かい日が続いたので、知人から畑の準備のそろそろだね、と話かけられる。わずかばかりのホウレン草とネギ、牛蒡が越冬中である。雪の晴れ間をみて、ネギを掘り出してこようかと考えている。