高気圧に覆われた今日、薄く積もった雪に日が射した。あたりには、輝くような雪景色が広がった。南の方角に、上山の山々がきれいに見えた。左奥の角の尖った台形の山が三吉山。視線を右にふると、やはり台形の大平山が見えている。雪の季節に登る山である。金瓶に生れた斎藤茂吉は、この山を見ながら育った。三吉山は天気さえよければ、上山のどこからでも見える、故郷の山である。朝起きて最初に、目に飛び込んでくるのが、この山である。茂吉は若くして生地を去り、東京で勉学励むことになるが、故郷への思いはいつまで心に残った。そのシンボルがこの山である。空襲が激しくなって、金瓶に疎開するが、その折にこの山を歌に詠んでいる。
をさなくて見しごと峯のとがりをる三吉山は見れども飽かず 茂吉
茂吉の兄は日露戦争で従軍したが、そのとき父熊次郎は激戦の満州での我が子の武運長久を祈って、三吉山の頂上にある神社に、日参を欠かさなかったと伝えられている。金瓶から三吉山の頂上まで10㌔を越す道のりである。その距離をものともせずに、日参した父の思いの強さが分かる。そのかいがあってか、長男の幸吉は奉天で左胸部銃創の重症を受けるが、落命することなく帰還した。
山形市のふるさとの山と言えば千歳山である。年に数回、山を覆う松の木に雪を被って、雪化粧の美しい姿を見せる。今日はその願ってもなかなかない日和である。山に当たる光、その上の青空、麓の人家の屋根に積もる雪。その全てを満たす、絶好のシャッターチャンスである。