ベランダでサフランモドキが咲き出すころ、キュウリの初物が採れ始める。若採りのキュウリは、生で味噌をつけて食べるとおいしい。キュウリを生で食べるのは、世界でも珍しいらしい。この原産地はヒマラヤ山麓と言われている。カラスウリのような恰好で、ゴーヤのように苦いのが原種である。日本に入ってきて食用になったのは、江戸時代で、ここで品種の改良が行われ、苦みのない江戸っ子に好まれるものとなった。
キュウリの特性として挙げられるのは、その生育の早さである。収穫の最盛期には、畑を二度見なけらばならない。朝、採り残すと、翌日には大きくなり過ぎて生食に向かなくなる。都市として急成長した江戸で、誰もが口にできる成長の早いキュウリは、うってつけの食べ物であった。江戸では、急増する人口対策として、山を削り海を埋め立てて、新しい土地ができた。膨大な生ごみ、下肥が近郊の農家で野菜作りの条件ができていった。日本各地から種を集め、近郊の農家に配布して食料増産が行われた。
水桶にうなづきあふや瓜なすび 蕪村
江戸っ子の初物好きも、キュウリの普及の一因になったようだ。加えて糠味噌漬け、一度に水分と塩分が補給できるのは、大いに魅力であった。今では、一年中、スーパーの店頭にキュウリが並ぶが、この時期の初物は、やはりおいしい。冷やした生キュウリのサラダにもよい。旬に合せて食べる、古来の習慣をもう一度思い出させるのが、この時期のキュウリだ。