萩原朔太郎の少年時代の詩に「こころ」がある。生涯の友となった室生犀星を感嘆させた詩である。萩原はこころが移ろい、変化していく様相を紫陽花の花に譬えた。
こころをばなににたとへん
こころはあじさゐの花
ももおいろに咲く日はあれど
うすむらさきの思ひ出ばかりはせんなくて。
こころはまた夕闇の園生のふきあげ
音なき音のあゆむひびきに
こころはひとつによりて悲しめど
かなしめどもあるかひなしや
ああこのこころをばなににたとへん
この詩が愛唱されて久しい。音楽家によって曲がつけられて、合唱曲となり、吟譜がつけられて詩吟として吟じられてもいる。大正から昭和の初め、朔太郎の生きた時代は、大きな嵐が吹き荒れていた。