山の端に日が落ちていく瞬間は驚きに満ちている。日が陰り、辺りは夕日に朱く染まって行くが、カメラを構えるほんの数分間に、夕闇が迫ってくる。その間に、日は赤さを増し、山の端は朱く染められる。この瞬間を詠んだ詩人がいる。晩唐の詩人、李商隠だ。下級官吏の家に生まれた李は、世に出るために有力者の庇護にすがり続けるほかなかった。詩文を書きながら、心に暗い影を抱きながら見たものは、山の端に落ちていく夕陽であった。
楽 遊 李商隠
晩に何んとして意適わず
車を駆りて古原に登る
夕陽 無限に好し
只だ是れ黄昏に近し
意敵わずとは、鬱屈して心にわだかまりを抱える状態である。古原は、楽遊原と呼ばれる人々の集まる、名所である。古代の廟のある高台である。ここで見る夕陽が、李の心の鬱屈を晴らしてくれる。わずか数分、時々刻々と変わる夕陽の姿に、ただ、好し、一言発するだけだ。やがて辺りは闇に包まれて、その残像だけが、心を占める。