桔梗
歳時記をひくと、桔梗は秋の季語である。
万葉集で憶良が詠んだ秋の七草の朝顔は
桔梗をさすというのが定説である。
セミも鳴かず、梅雨が明けたばかりの
猛暑の日に、秋の花と言われても腑に落
ちない。
しかし、その花の姿がかもし出す雰囲気
は、秋の冷気が似合っている。
小林一茶が桔梗を句に詠んでいる。
きりきりしゃんとして咲く桔梗哉
一茶は、きびきびとしておしゃんな女性
を、桔梗の見立てて詠んだように思われ
る。
北村季吟の『山の井』に
桔梗笠といふあれば、花の顔隠せ
とも、人目忍ぶの草隠れなる心を
云いひなし、瓶に活けては亀甲と
云ひ、首途を祝ふ挨拶に、帰京など
とも云へり。
という面白い記述がある。この花を見る
度に、もう亡くなった近所のお婆さんを
思い出す。戦争で夫を亡くし、女手ひと
つで息子を育てあげた。新築した自宅の
庭に、住んでいた古い家から、桔梗を
移植し、大切に毎日水をやる姿が忘れ
られない。