昨日から暑い夏が復活した。掛け布団が欲しい
くらいに夜の気温が下がったのに、また37℃と
いう猛暑日である。千歳山で、いつも会う人が
じっと目を見て「いやあ、暑いね」と話しかけ
て来た。入山するとすぐに、耳をうつ蝉しぐれ。
思えば、まだ8月の下旬になったばかり、しば
らく暑い日が続く。
槍を攀ずわれに夏来て夏了る 高田 貴霜
槍ヶ岳への挑戦が数日後に迫った。これと言っ
て特別の準備はないが、皮の重い靴に足を馴ら
すことだ。ソールの張替えを試みたが、ビブラ
ムソールが注文となり、間にあわず断念、代わ
りに長年の使用でへたっているインソールを交
換した。ヤマップのオリジナルだ。今日これを
履いて千歳山で足ならし、予想以上に快適であ
る。ここ数年、皮の靴から軽い布製の靴に履き
替え、その歩きやすさに魅せられてきたが、本
格的な岩稜を歩くには、この重い靴を履きこな
すことが必須である。
槍ヶ岳への出発まで3日、この時間を利用して
ウェストン著『日本アルプス』を読むことにす
る。イギリス人の牧師であるウェストンは明治
21年宣教師として来日、登山家でもあった彼は
日本アルプスを海外に広く紹介、日本に近代ア
ルピニズムを起こした人である。上高地の梓川
のほとりには、肖像入りのレリーフが建てられ
ている。軽井沢高原の上にある山から、槍ヶ岳
の光景を見た様子を、興奮した筆致で書き記し
ている。
「高さ3000メートルないしそれ以上の雪襞の
ある尾根や気高い峰々が、落日に映えたオパー
ル色の空を背景に、紫の輪郭も鮮やかにそびえ
ている。日本のマッターホルンである槍ヶ岳や
ぺニンアルプスの女王ワイスホーンの縮図を思
わせる優美な三角形の常念岳がそびえ、それぞ
れに特徴あるプロフィールを見せている。」