最寄り駅の改札を出たコンコースには
誰でも自由に弾けるピアノがあって
子供らがよく弾いているのだけど
先日コンコースに響いていたのは
とてもアマチュアと思えぬ美しい調べ。
一体誰が弾いているのかと近寄ったら、
頭頂部の髪が薄く、上下とも作業着を着て、
足元には作業カバンのような物を置いた、
正直とてもピアノを弾くように見えない、
作業員風の中年の男性でした。
朝の通勤時間とあって、足を止める人もなく、
私も時間に追われて立ち止まることも出来ず
思い切り後ろ髪を引かれながら、
それでも必死に耳を澄ませて聴いたけど、
朝の光がきらきら光るしずくになって、
ピアノからこぼれ出るような美しく澄んだ音色。
その光り輝くしずくが流れとなって溢れ出し、
コンコース全体を満たすような美しい調べ。
こんな美しい音楽を奏でていたのが、
音楽には縁のなさそうな中年男性であったことに
うまく言えないけど、胸を打たれてしまって。
この男性の人生に何があったか分からないけれど
あれだけの演奏が出来るまでになるには
相当な時間をピアノに費やしてきたはず。
あの繊細な旋律を紡ぎ出す魂を胸に抱えたまま、
作業員姿で日々を送っておられることに
感動というか、人間の美しさを見た気がして。
またいつかあの男性が街角ピアノを弾く場面に
偶然、出くわすことが出来たなら、
今度は何があっても足を止めて最後まで聴きたい。
そして精一杯の拍手を送りたい。
そんな日がどうかどうか訪れますように。