夏の山みねのこずゑし高ければ空にぞ蝉(せみ)のこゑもきこゆる(和漢朗詠集)
しばしだにたえ間もなきは夏山のこずゑにつづく蝉のもろ声(続千載和歌集)
夕立の晴れを待ちけりやまびこのこたふる山の蝉のもろごゑ(影供歌合)
夕立のはれゆく峰のうつせみは羽(は)におく露やすずしかるらむ(文保百首)
鳴くせみのこゑもすずしき山かげに楢の葉つたひ風わたるなり(伏見院御集)
秋風を待ちつるそらに空蝉の鳴く音(ね)すずしき杜(もり)のかげかな(正治二年初度百首)
鳴くせみの羽(は)におく露に秋かけて木かげすずしき夕ぐれのこゑ(続古今和歌集)
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空蝉の鳴きて恋ふれど来ぬ人をまつにも過ぐる夏の月かな(順集)
うちはへてねをなきくらす空蝉のむなしき恋も我はするかな(後撰和歌集)
おのれなく心からにやうつせみの羽(は)におく露に身をくだくらむ(新勅撰和歌集)
つらきとも憂きをも今は思ひあまりただうつせみのねをのみぞなく(六条修理大夫集)
あはれといふ人はなくとも空蝉のからになるまでなかむとぞ思ふ(玉葉和歌集)
心からねをのみなきて空蝉のむなしき恋に身をやかへまし(永享百首)
つらくともなほ空蝉の身をかへてのちの世までや人を恋ひまし(新後撰和歌集)
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入り日さしなくうつせみのこゑきけば露のわが身ぞかなしかりける(好忠集)