六、天使のムカエル
きれいなピンクの流れから、どす黒い紫色に淀んで変色した場所で、スケール号はピピの思わぬ過去を見てしまった。
ピピは子供のころの遊園地の思い出の中に閉じ込められているようだった。とても乗りたかったメリーゴーランドに乗せてもらえなかった事が、ピピの心に思わぬ障害となって残っているようだった。
その時、空の方から流れ星のような白い光がスーッと走って、紫の淀んだ流れ . . . 本文を読む
スケール号はピンクの流れを下って行く。すると突然、流れがどす黒い紫色に変わった。
「気持ちの悪い色だスな。」
「ここでピピに何かが起こったのでしょうか。」
スケール号がペロッと紫の流れをなめた。するとスクリーンに薄暗い映像が浮かび上がった。動かなくなったお父さんと、泣いているお母さんの姿、そしてピピのさみしそうに立ち尽くす姿がスライドのように映し出された。
「お父さんが死んだんだ。 . . . 本文を読む
スケール号の周りに青いエネルギーの壁が出来た。これで外のエネルギーから身を守ることが出来るはずだ。 「艦長、左下に川のような流れが見えます。」ぴょんたが報告した。
川は緑色に光るエネルギーの海の中を渦巻くように流れていた。それはまるで、かきまぜたコーヒーにミルクを入れた時のような形をしている。
「おいしそうだス。」ぐうすかがよだれをぬぐった。
「あれは心の川だ。」
「海 . . . 本文を読む
スケール号は、一列に並んだ遺伝子のかたまりのすきまをぬってその中に飛び込んで行った。スケール号はまだまだ小さくなり続けている。
スケール号はいつしか宇宙と同じ真空の闇の中にいた。
そこはまるで夢を見ているような光景だった。スケール号の前には一面に夜光虫が漂うようにゆれている海が広がっている。所々からきらきらと強い光がきらめいているのだ。
「すげー」
「光る海だス。」
「夢じゃな . . . 本文を読む
スケール号はノミの大きさに縮んで、寝ているおばあさんのひたいの上に着陸した。
おばあさんのひたいは大きな山と谷がいく筋も続いている大地のように見える。そこからスケール号はさらに小さくなって行った。
おばあさんのひたいは、平たい岩が何枚も積み重なって広がっている荒野のような光景に変わった。
平たい岩と思ったものが、巨大な岩山のようになり、その表面に無数の穴が見え始めた。
猛烈なスピ . . . 本文を読む
五、心の世界
「これはどう言うことです、博士」艦長もぴょんたも、もこりんもぐうすかも同じ質問を博士にした。
「ピピはおそらく、あのおばあさんの分身なんだ。」
「分身でヤすか。」
「よく分からないだス。」
「それでどうすればいいのですか。」
みんなは一斉に博士の方を見た。博士はしばらく考えて、そして言った。
「諸君、これはどうやら心の世界に行かなければならなくなった . . . 本文を読む
もこりんの話が終わると、なんだか寝ているおばあさんの顔が本当の魔女のように見えてくるから不思議だ。 「本当に魔女だスか。」ぐうすかがささやくように言った。
「するとピピはこの魔女に捕らえられているのですか。」
「このおばあさんが魔女だなんてことはないよ。」博士が言った。
「でも、確かにピピはこのおばあさんの中に入って行ったでヤす。普通のおばあさんでは考えられないでヤす。」
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もこりんは博士に答えて、おばあさんの話をし始めた。その話の内容は大体次のような事だった。
このおばあさんは長い間一人暮らしをしていると言うこと。
家の窓はいつも古びたカーテンが引かれていていて薄気味悪く、おばあさんはほとんど外に出ることがないと言うこと。
家も庭も荒れ放題で、子供達はここをお化け屋敷と呼んで怖がって近づかないと言うこと。
そんなある日、野球をしていた子供達がボールを逃 . . . 本文を読む
「消える前に助けられないのですか。」ぴょんたが食い下がった。
「だめだろう。実体は別の所にあるはずだ。それを探るんだ。」
心の中で艦長はスケール号に命令した。スケール号は音もなく入り口を開き、五人は素早くスケール号に乗り込んだ。間もなくスケール号は小さくなって一匹のスマートな猫に変身したのだ。スケール号は身を潜めてメリーゴーランドの様子をうかがっている。
やがて博士の予想どおりメリーゴ . . . 本文を読む
メリーゴーランドはオルゴールの曲とともに、ゆっくりと回り始めた。たくさんの馬がゆるやかな波を描いて動いている。
「一体誰が、」そう思った時だった。メリーゴーランドの木馬の上に子供達の姿が見えたのだ。まるでそこだけが、昼間の光景を切り抜いて来て張り付けたように見えた。子供達は馬の動きに合わせて手を上げたり下げたりしてはしゃいでいる。夢を見ているのだろうか。
メリーゴーランドの音楽と子供達 . . . 本文を読む