七、ブラックホールからの脱出
静かだった原子の空間に激しい変化が起こったのは、食事を終えてくつろごうとしたその時だった。
原子のひしめく空間が突然激しく動き始めたのだ。原子はまるで波打つように揺れ動き、それぞれが勝手気ままに動き出した。光の点滅が全天で花火のように始まった。
手をつないで原子をつくっていた素粒子たちが一斉に手をはなし、てんでバラバラに動き出したのだ。
「気をつけろ、いつ粒子が飛び込んでくるか分からないぞ。」博士が注意した。
「みんな、配置につけ!粒子の動きから目を離すな。」
「艦長、右から赤い粒子が飛んで来ます。」
「よし、スケール号、あれを避けるのだ。」
「ゴロニャーン」
右に進路を変えると、赤い粒子がスケール号の脇腹をかすめて飛んで行った。そしてその先で、緑の光を放った。粒子同士がぶつかったのだ。
様々な粒子が次々とスケール号を襲って来た。その度に体をかわしてスケール号はジグザグに進んだ。
粒子達はますます激しく動き始め、まるで沸騰するお湯の中のような混乱が起こり、スケール号はその中で右往左往するばかりだった。
「いったい何が起こったのです。」
「ブラックホールに質量の大きなものが落ち込んだのだろう。」
「質量って何でヤす。」
「物の重さのようなものだよ。この様子だとあのパルサー星が飛び込んだのかもしれない。」
「パルサーと言うと、チュウスケもブラックホールに吸い込まれたのでしょうか。」
ぴょんたが聞いたが、それに答える者も、考える時間もなかった。予想もつかない方向から素粒子が吹っ飛んで来て、スケール号を襲ってくるのだ。世界が一段と明るくなり、至るところから原子が線香花火のように弾けて光のエネルギーを放出するのだ。まさに四方八方を線香花火で取り囲まれてしまったような賑やかさだ。
スケール号にとって、身を隠す場所はどこにもなく、ただ次々とやって来る素粒子の突進を避け続けるしかなかった。どこまで行っても沸騰する素粒子の世界から抜けることが出来ないのだ。
「ひえーっ、もうだめでヤす。」
「これではきりがないだス。」
「諦めるな!もこりん、ぐうすか!」艦長が怒鳴った。
「気を緩めたら最後だぞ!」博士もみんなを励ました。
「艦長見て下さい。」ぴょんたが指さした。
その指さす方向に一直線伸びている光の道が見えた。それはまるで、まっすぐな川の流れのようだった。沸騰する素粒子の空間の中を、青白い光の川がこうしてスケール号の目の前に突然現れたのだ。
「あれは何ですか。」艦長が博士に聞いた。
「これは・・・」博士はしばらく考え込んだ。
「一体どこまで続いているのでヤすかね。」
「その先は見えないだす。」
「これはおそらく、パルサー星の出していたあの光にちがいない。」
「あのパルサーの剣の事でヤすか。」
「そうだ。」博士はしきりに何かを考えているようだった。
「あの光の剣が、原子の世界ではこんなふうに見えるんだスね。」
「艦長、これはうまくすするとブラックホールから脱出できるかも知れないぞ。」博士が光の川から目を離さないで言った。
「あの川は、青白い光の粒が束になって飛んでいるのだ。無数の光の粒がみな同じ方向に飛んでいる。それが川のように見えるのだ。」
「本当ですか。」
「おそらくな。」
「どうするんですか。」
「あの川に乗るんだ。」
「あの川にですか。」艦長はまだはっきりと博士の言っている意味がつかめないらしい。
「あの川も、一つ一つの粒から出来ているのだ。強いエネルギーによって一直線に飛んでいるんだよ。あのパルサーの粒に乗っていけば自然にブラックホールの外に連れて行ってもらえるだろう。助かるぞ!」
「ほんとですか博士」
「ほんとでヤすか!博士」
「ほんとだスか、博士」
「つまり、あの光はブラックホールの外に飛び出して行く事が出来ると言うことですか。」
「そういうことだ、艦長。」
「分かりました、博士。」艦長はスケール号に思いを伝えた。
スケール号は音もなくパルサーの白い川に近づいて行った。
つづく
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宇宙の小径 2019.7.2
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脱出
囚われからの脱出
それは
あるがままに生きる
その入り口にもなる
私は
様々なものに
囚われている
この瞬間瞬間に
囚われの
自分がいる
自分らしく生きたい
だが
自分らしいとはなんだろう
それは
自分が作りだしたもの
究極それは欲になる
自分らしくない生き方に苦悩を覚え
自分らしさにこだわる
囚われているのだ
大いなる欲
自分からの脱出
それは
宇宙とつながる
一瞬だ
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