二十 エピローグ(博士の回想)
宴たけなわの頃、スケール号の隊員たちは、神ひと様の街を案内してもらうことになった。すっかり打ち解けた神ひと様の子供たちと隊員たちは、大はしゃぎで、案内の奥様について行った。
偶然、あの岸辺の足跡の謎が解き明かされた。
湖から続いていた足跡が、立ち止まったまま消えていたのだが、奥様に従って付いてきた隊員たちは、そこから奇妙な乗り物に乗せられたのだ。
透明の乗り物と言ったらいいのだろうか。まっすぐ見つめたら何も見えないのに、ちょっと目をそらせるとそこに絨毯のようなものが見える。
子供たちは躊躇なくその上に乗って、手招きをしている。
「さあ、乗ってください。みなさん。」
「でも、よく見えないでヤす。」
「どこからどうすればいいのだスか。」
「何なら、私は自分で飛んでいけますが。」
「どこに足を乗せていいのかわからないのです。」
隊員たちの口はひっきりなしに動いても、足が出ないのだった。
「さあ、ここに足を。」
そう言って奥様は皆の足をとって、やっとのことで乗り込ませることが出来た。不思議な乗り心地で、皆興奮して舞い上がっているのだ。最後にスケール号が飛び乗った。気の毒にスケール号は、神ひと様の子供達の引っ張りだこになっている。
「さあ、行きますよ。」
透明の絨毯は音もなく飛び上がった。座っているその座席は完全に透明で、もこりんなどは、遊園地の乗り物に乗った気分になって、いつの間にか大はしゃぎだった。
皆が去った後に、足跡と静寂だけが残っていた。
☆ ☆ ☆ ☆
「やっと静かになったようじゃな、博士。」
「神ひと様。まるで夢のようですが、私たちの思いが本当に実願したのですね。」
「実に喜ばしいことじゃ。」
神ひと様は新しい茶を入れて博士にわたし、自分も一口含んで目を閉じた。しばらく意識を舌の上に集めて、茶の味を味わい尽くしているようだ。
博士も同じように、そのオレンジの液体を口に流し込んだ。一瞬渋みが口の中を支配したが、意識を集中させると、その渋みが己の苦悩とつながるように思えた。
神ゆえの苦悩。口の中の渋みが、先ほどの神ひと様の言葉に融合していく。博士も同じことを考えていた。それは一言一句たがわないもののように思われた。何も目的を持たされていないものの苦悩。完全なる自由が生み出す苦悩。それがすべての原因だと博士は思うのだった。
舌の上の渋みから逃げないでさらに深く、味孔にある微繊毛を刺激して、その一本一本の感覚をながめた。まるでそれは、意識の塊だった。肉体は消えて、味孔そのものが博士の苦悩を癒すように微繊毛を揺らせているのがわかった。
神ひと様が、深い呼吸をして、再び茶を口に入れた。その味覚を博士の味孔がとらえているのだ。博士は感じるままに意識をとぎ澄ませる。不思議という思いはなかった。受け入れないから不思議なのだと、はじけるような理解が沸き起こった。
博士は深く息を吸い、その味覚を神ひと様に送るように気を吐き出した。今度は博士がオレンジの茶を口に流し込んだ。
神ひと様が顎を突き出すようにして、茶を味わい尽くそうとしているのがわかる。その感覚は博士の感覚であり、同時に神ひと様の意識でもあるのだ。
神ゆえの苦悩が、喜びに変わる瞬間を、博士は自分の味覚の中に見ていた。神ひと様がゆっくりと目を開け、二人は見つめ合った。神ひと様の顔に歓喜の色が見えた。
「私たちは二つではなかったのですな。」
「いかにも。」
二人の間に言葉はいらなかった。二つのこの身体は、ひとつの意識でつながっていたのだ。
「空は我等をひとつにしてくれるのじゃ。」
「スケールの世界は、この、たった一つの空間が生み出しているのですね。」
「我らは一つなのじゃ。」
「あるのは、スケールの隔たりだけです。スケールのために互いの目に見えないだけで、こうして意識をつなげばひとつだということがよくわかります。」
「ひとつという事が、これほど至福を与えてくれようとはの。」
長い沈黙があった。
茶を味わう二人の姿は、美しい風景の中に溶け込んでいる。
博士の味孔が渋味を味わい尽くすと、無尽蔵に広がる味覚の世界が見えた。どんな小さな一点でも、神とつながっている。そう思ったら、まとわりついていた苦悩の色が消えた。
「今苦悩が消えてゆきました。」
「わしもじゃ。」
二人はしばらく無言のままでいたが、互いをねぎらうように、誰からともなく肩を抱き合った。
「私が神ひと様に会いたいと思ったのは、なぜこの世から戦いがなくならないのかを知りたいと思ったからでしたが。」
博士が自然に湧き上がる思いを口にした。
「神であるゆえの、苦悩を消せばいいのじゃの。」
「そうです、神ひと様、苦悩を消す方法さえ見つければ、我々ヒト族は、争いをやめるでしょう。そのためにヒト族が見失った生きる目的を手に入れねばならないのです。」
「空であるという意識がそれを実現させてくれるのじゃな。」
「吾は空なり。意識をひっくり返せばよかったのです。神ひと様と、お茶を御一緒させていただいて、はっきり理解できました。」
「わしとて同じじゃ、博士。吾は物だという思い込みからヒト族を解放しようではないか。空こそ己と理解すれば、わしらはは一つじゃ。」
博士と神ひと様は、もはや対話という域を超えていた。言葉が意識の中に埋没して、意識だけが研ぎ澄まされ、共有が始まっていた。
「つながりとはなんとよきものじゃのう。我らに目的がなかったのではない。」
「そうです。大いなる神としてつながらねばならないという、この尊い目的があったのですね。」
「太陽族が黙々と定めをこなすように、我らヒト族はスケールを超えてひとつの神とならねばならぬ。そこに我らに与えられた目的があったのじゃの。めでたいことじゃ。」
「どう生きねばならないのか。それがわかれば苦悩は消える。」
「そうじゃ。」
「始まりも終わりもない存在に。」
そう言って博士は、コップを空にかざし、残りの茶を飲み干した。神ひと様が共にその茶を味わい尽くすように瞑目した。
「空として生きる我らのために。」
神ひと様がコップを天にかざして茶を飲み干した。その味わいが博士の意識に流れ込んでくる。その余韻はスケールの軸に沿って、どこまでも続いて行くようだった。
静かな時間が流れた。
観光に出た子供たちが帰ってくるまでの至福の時だった。それが一時間だったのか数時間だったのかは定かではない。
完
今から20年ばかり前、挿し絵担当のお嬢さんが現役の小学生だった頃、紙に印刷した形の『スケール号の冒険』を読ませて頂きましたが……神ひと様のエピソード、かなり加筆されたようですね。
以前のエピソードはもっとあっさり、そして神ひと様はもっと超然としていたイメージでした。
我々と神ひと様はひと連なりの存在だ……ということに、もっと重きを置いたお話にされたのでしょうね。神ひと様が、なんとなく可愛く感じました(^o^)。可愛く感じる、と言っても叱られない感じ……と言いましょうか?
新生『スケール号の冒険』、脱稿おめでとうございます。
無尽蔵展開つきることなき完成!
おめでとうございます☆♪
確かにわたしたちは、
この摩訶不思議奇跡宇宙から誕生した
瑠璃星地球から誕生した
宇宙生命体、宇宙素材で創られている
宇宙の瑠璃星地球生命体であります♪
つまり、
宇宙同根多種多様万物一体一心同体
地球も、わたしたち生命体も、
渦巻く原子で構成されている空間
一見、宇宙空間と隔たれているように見え、感じられる
地球の表層部も、わたしたちの皮膚も、
渦巻く原子で構成されている空間
空間的観点から観ますと、
わたしたちの原子の構成空間と
宇宙空間とは直結しています。
万物は宇宙と直結一心同体
宇宙深海泡粒の如し
潜在極域通底意識は宇宙意識!
宇宙と万物一心同体の宇宙意識
宇宙と万物一心同体の 超感覚の超意識
三次元感覚から
無限次元感覚へと
意識の覚醒をうながす
宇宙同根多種多様万物一体一心同体
無限次元超感覚の超意識だ!
と、
宇宙と万物は心身ともに
常に一体であると感じていま^す^ので、
神ひと様とも、もとひと様とも、
一心同体であると実感しております ^ ^ ;
スケール号の☆宇宙冒険物語☆は、
これからもわたしたちに、
無尽蔵の賜物、力を与えてくださいます。
感謝^感^謝^です☆♪
スケール号の冒険、完成おめでとうございます。
「吾は空なり」、すてきな言葉ですね。
人類がみなそういう意識を持って行動していければ、争い事など存在しないのに、って思いました。
楽しましていただきました。ありがとうございました。
私の意識の中では10年程なのですが、スケール号を書いてからそんなに時間が経っていたとは・・・・
神ひとのラストは、それから二転三転して今に至っています。
思いと共に物語が変わるというのは、どうかと思いますが、
心の現風景に重きを置いた作品として見てもらえたら幸いです。
連載中は、私の意識の中をスケール号が飛び回っておりました。
体調が悪ければ、すぐにそこに駆け付けてくれて、病原と対決してくれたり、気が乗らないときは、もこりんやぐーすかが笑わせてくれたりしました。
この意識のつくり出したものに癒されるというのは何だろうと思わされました。
作り物・・・と考えたとき、意識に現れたすべてもののは作り物だと気付かされました。
スケール号はつくり噺で、今日の食事は現実ではなく、
スケール号に救われる心のレベルで見れば、けさ食べたパンさえ作り話と同じなのです^ね^。
つまり、私たちの認識のすべては意識のつくり出した物語。
その物語を大事にしながら、本物の中心にある意識に目を向けなければならないんだと、
今回は本当に勉強になりました^よ^
ご支援ありがとうございました。
その上、スケール号の隊員となって頂き、一緒に旅ができたこと、心よりうれしく思っております。
今後とも、まかこさんの意識の中にも、スケール号が飛び交い、大活躍をしてくれるよう、博士以下、隊員の面々にお願いしておきましたので、まかこ空間運行の許可をお願いいたします。
ありがとうございました。ゴロニャー^ン^
この思いが生まれる土壌は、1977年に生まれた五次元の発想から形を成してきたものです。
そしてこの、簡単な言葉にめぐりあうのに、39年の歳月を要していると思うと、ことばの大海がいかに広いのかを思い知らされます。
からくさんの進んでいかれる、ことばの海。その航路に残る白線には、さりげない優しさがこめられていますね。
今後もよき航海となりますよう、お祈り申し上げます。
ありがとうございました。
新感覚の壮大なる冒険物語♪
ご活躍ありがとうございます。
これからも更なる飛躍、
多方面でのご活躍楽しみにしております。
まかこ空間♪稚拙空間ではありますけれど、
ご利用いただけましたら、光栄です☆
どうぞご自由に、思いっきり羽ばたいてください^ね^
のしてんてんさまも、
ますますお忙しくなられるご様子、
でも、あまり急いだり慌てたりしますと、
自律神経が不調になるとか、
あわてもの大家のわたくしが
申し上げますのも、大変変なのですが ^ ^ ;;
何事も、急がば回れテンポ♪で
いきましょう^ね^
今日もどうぞ善き日をお過ごしくださいませ☆
いつもありがとうございます。
01年の5月……とありましたので、15~16年前……でしたね(笑)。四捨五入で許して下さいませ。
私が歳を取ったせいでしょうか?その時はあまり感じなかった、チュウスケの淋しさ……みたいなものが思いやられます。
彼は……この『スケール号の冒険』の中で、一番淋しいキャラクターではないでしょうか?
淋しい原因は彼自身の中にあるのは明白ですが、彼はおそらく気付かないでしょう、この先永く。
とても哀しいキャラクターです。
このお話の中のキャラクターで一番、煩悩まみれのフツーの人間に近いのが……チュウスケくんのような気がしました。
フツーの人間の孤独と絶望は、宇宙を滅ぼす、ということでしょうか?
お気遣いありがとうございます。
忙しいと言いましても、たまたま日程が重なっただけでして、基本よく眠っておりま^す^。ぐうすかなんです。
眠るのが好きで、いつもワクワクして寝床につきます^よ^
身を横たえたら、何もすることがない。これ以上のしあわせは無いような気がしておりまして、宇宙とともにある実感を頂いております。
まかこさんも、
よい夕べを、おたのしみください^ね^¥
ところでチュウスケは人間代表。その通りです^ね^。
スケール号の冒険は、意識の中が舞台ですので、当然いわゆる人間は登場しません。
しいて人間はどこにいるのかと問われれば、一番近いのは神ひと様でしょうか。
チュウスケの悲哀は、どの人の中にもあるエネルギーの擬人化ですし、
「フツーの人間の孤独と絶望は、宇宙を滅ぼす」訳ではありません。
それはただ、己を滅ぼすだけであって、宇宙に一筋の傷さえ付けられません。
滅ぶのは人間であって、宇宙ではないのですね。
それを単純に表現すると、
吾は物なりという意識は滅び、
吾は空なりという意識は永遠だということになるわけですね。