のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

十九、帰還

2016-08-22 | 童話 スケール号の冒険(第4話)

 

 

       一九、帰還     

 

 今回の旅で、スケール号を操る艦長の腕はずいぶん上達した。博士に言わせれば、ほとんど満点に近い出来だそうだ。

  だから、もちろん一気に地球に戻ることも出来そうだったが、無理をしないで、少しずつスケールを戻して行くことに決めた。

  もう一度世界をしっかり見ておきたいと言う思いがみんなの気持ちの中にあったのも事実だ。

 スケール号はまず、ピンクの川まで瞬間移動をした。それでも一気に百億分の一の大きさに縮んだのだ。

 そこは神ひと様の心の世界なのだ。緑の海の中にピンクの川が輝いていた。そしてその奥の方には相変わらず黒い海域が広がっている。しかしそこにはもう、相反する矛盾したものの戦いはなかった。生も死も同じ一つの生命体だったのだ。黒い海域は邪悪なものではなく、生と死をつなげて一つの生命体のリングをつなぐとても大事な場所だったのである。それは言わば、生命の母体なのだった。

  スケール号はそこからメルシアまで縮小した。ぴょんたがメルシアにあいさつをして行きたいと言ったのだ。 メルシアはスケール号を見ると、優しい女神の姿になってスケール号を迎えた。

  「神ひと様に会えましたよ。メルシア。」

  「よかったですね、神ひと様は元気でしたか。」

  「神ひと様のお嫁さんも、子供たちも、みな友達になったんだスよ。街の見学も楽しかっただス。」

 「そうですか。本当に良かった。」

 「ねえねえ、メルシア。神ひと様のお嫁さん。メルシアにそっくりなんでヤすよ。ビックリでヤす。みなもそう言っていたでヤす。」

 「そうだったのですか。うれしいですね。」

 メルシアは本当にうれしそうな顔をしていた。 

 「それよりメルシア、身体の調子はいかがですか。もう大丈夫ですか。」

 ぴょんたが聞いた。

 「ありがとう、もうすっかり元通り。あなたたちのおかげで元気になりましたよ。みなさんはどうですか?」

 「神ひと様が治してくれました。お医者様だったのですよ。」

 「そうでしたか。良かったです。気をつけて帰るのですよ。」

 「ありがとう。さようなら、メルシア。」みんなが一斉に叫んだ。

  「さようなら、元気でね。」

  メルシアは手を振り、スケール号は三回宙返りをしてメルシアの中に入って行った。

 暗黒星雲の中はすやすやと、星の赤ちゃんが眠っていた。チュウスケが大爆発を起こした場所も、すっかり回復して、赤ちゃんの数も増えているようだった。

  「はははははははははは」

  「はっはっはっはっはっは」

  「はははっはははっはははっはははっっはははっ」

  赤ちゃんたちがスケール号にお礼を言っているように聞こえた。

 

  ねんねんころころ

 ねんころりん

 ねんねんころんで

 ねころんで

 ねんねこねこねこ

 ねんねしな

 

  だれからともなく、スケール号の中から子守歌が聞こえて来た。

  「元気で育つんだぞ。」ぴょんたが言った。

 

  ねんねんころころ

 ねんころりん

 ねんねんころんで

 ねころんで

 ねんねこねこねこ

 ねんねしな

  もう一度みんなで子守歌を歌うと、スケール号は一気に長老シリウスに向かった。

 シリウスは相変わらず青い大気をなびかせて居眠りをしていた。ぽこぽこと、巨大な鼻ちょうちんが出ているので、それと分かる。

 「博士、起こしたらかわいそうですね。」艦長が言った。

  「そうだな、そっとしておこう。」

  スケール号はシリウスの周りを月のように周回して、煙のように消えた。次の瞬間、スケール号は太陽の前に姿を現していたのだ。

 「おお、スケール号か。」太陽が真っ赤なフレアを吹き上げながら話しかけて来た。

  「おひさま、ただいまでヤす。」

  「無事帰って来たのだな、よかった。」

  「おひさま、私達は神ひと様に会いましたよ。」

  「おお、そうか、目的を果たしたのだな。」太陽の表面からたくさんのフレアが踊るように身をくねらせた。

 「お日さまが、すべてのいのちのみなもとだと教わりました。」

 「うれしいことを言ってくれる。我らの伝説は正しかったのだな。」

 「はい!それに、太陽族の紋章をありがとうございました。」

  「役にたったかな。」

  「おかげで、助かっただス。」

  「それはよかった。早く地球に戻るがいい。」

  「さようなら、おひさま。」

  スケール号は太陽から離れた。遠くに、懐かしい青い地球の姿が見えている。ついに帰って来たのだ。あの青い地球、何億もの命を支えている天体。その命は、神ひと様からはもとひとの民と呼ばれていることも分かった。

 太陽族の原子が、地球のいのちをつくりあげ、太陽がその命の上にさんさんと光を注いでくれている。地球の青さは、この太陽族がスケールを超えて支え合ってくれている証しなのだ。

 

 ぴょんたやもこりん、ぐうすかや艦長、それに博士達のふるさと地球、そこにはみんなの家があり、家族が待っているのだ。

 スケール号は地球の上空を飛びながら、その美しい姿を心いくまで眺めていた。

 この地球は、自分たちの命を支えているだけの天体ではなかった。この地球こそ神ひと様の体だったのである。人はただ単独で孤独なのではない。スケールによって無限につながっているのだ。

  ここにあって、

  しかもはるか彼方にあるもの。

  我ら、

  太陽族の生まれた理由がそこにある。

  太陽族に伝わる神ひと様の伝説が説き明かされたのだ。その伝説は今、スケール号の乗組員達の体験となって実を結んだだ。ふと目に入った光に目を向けると。スケール号のテーブルにおかれた太陽の紋章がその内側から光を放っているのだった。

  「宇宙の勇者達よ、今こそ、本当に礼を言うぞ。よくやってくれた。本当にありがとう。」太陽の声がみんなの体の全身に響いて来た。

  「宇宙の勇者達よ、地球に戻ったのだね。」それは小さな、しかし確かに神ひと様の声だった。

 「博士、神ひと様の声が聞こえます。」ぴょんたが言った。

  「神ひと様の声でヤす。」

  「神ひと様の声だス。」

  「神ひと様、私達は神ひと様の体を傷つけないように、きっと守って見せます。」艦長が心の中で呼びかけた。

 「さあ、我々の地球に帰るぞ。」博士が言った。

  「スケール号、地球に戻るぞ。」

  「ゴロニャーン」

  地球の上空からスケール号の姿が消えた。

  次の瞬間スケール号は世界探査同盟の基地に降り立っていた。

 

  ぐうすかがしきりにせがむので、博士は仕方なくみんなを食堂に連れて行った。

  「あら、お兄さんたち、どこに行ってたんだい。しばらく見なかったね。」食堂のおばさんが声をかけた。

  「神ひと様に会って来たのだス。」

  「そりゃ、よかったね。それで元気だったかい、そのかみなんとか言う人は。」

  「何でもいいから、クリームソーダー五つ。大急ぎでほしいだス。」

  「はいはい、クリームソーダー五つだね。」

 「おいしいクリームたっぷりだスよ。」

  「それに、サクランボは二つでヤす。」

  「おいおい、欲張りはいけないよ。」博士が笑いながらたしなめた。

 「みんな、よく頑張ってくれた。」艦長がみんなに礼を言った。

  「でも、いい旅でしたね。」ぴょんたが言った。みんなは本当にいい顔をしていて、一回り大人になったような気がした。

  「はいお待ち。」

  おばさんがクリームソーダーを五つ運んで来た。

 クリームの上にサクランボが二つ乗っていた。

 

  今回の宝物は太陽の紋章一つ、あなたは心の中の宝箱に太陽の紋章を入れた。

 

 

 

 

 

                           エピローグにつづく

 

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