実際私はそれ以後、国道を横切るために交差点の横断歩道を使うことがなかったのである。
そんなある日、走行車の音もまばらで人気のない夜道を私は歩いていた。
その日は朝になって自転車のパンクに気付き、あわてて駅まで走ったのだった。
いつもの場所に来ると地下道の入り口から妖気が獲物を誘うように漂って来るのを感じて逡巡したが、足だけは地下道に向って行った。
夜のしじまにぽっかりと開いた口の中に飲み込まれていくような気分が背筋を凍らせた。
中に入ると、例のものの前に渦巻く得体の知れないエネルギーに青ざめ、全身に冷い汗のあわ立つのが分かった。
霊を信じる者がいたら、霊鬼に抱きかかえられたと思うかも知れない。
例のものはまるで私を出迎えるようにもうひと月も前からそこにたたずみ、私に手招きをしているように見えた。
さらに私にしか見えていないという思いが恐怖に追い討ちをかけた。
私は恐怖の塊になったまま例のものの前を通り過ぎた。
すると空気がドロドロと動き、背後で想像を絶する何ものかがうごめいている。
私は振り返ることが出来なかった。逃げ出せばとって食われるだろう。
全神経が恐怖に引きつり細胞があわ立ち、窒息しそうな穴の中で悲鳴を上げる寸前に通り抜けた。
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