芹里奈・・・それを言うために私のところに来てくれたのか。
私がお前に言った何倍もの優しさで、いや恨みを持たぬ慈しみの声でこの私を救ってくれるというのか・・・
私は思わず芹里奈の靴を引き寄せ胸に抱きしめた。
ジワリと胸に湿り気が伝わってきた。
「芹里奈、お前は今幸せなのか」
私は確かにこのとき、自らの肉声を発していた。
その声が地下道に反響して、私は我に返ったのだ。
芹里奈の声はもう返ってこなかった。
私の心を確認して、今初めて芹里奈は私のもとから安心を携えて飛び立ち、自らの人生に帰っていったのだ。私はそう確信した。
芹里奈のカモメが自由という虚空の中に純白の羽を輝かせて飛び去っていくのを見たような気がした。
私は胸に抱いた靴のその薔薇の花にそっと口付けして、丁寧にもとの場所に並べて置いた。拾い上げた写真には幸せそのものの芹里奈が笑っていた。
「さようなら、芹里奈」
私は反響しないようにそっとささやきかけて地下道を出た。
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