6 地球の裏側に
汗が滝のように落ちてきます。
スケール号の窓の外は真っ赤に溶けた溶岩が渦を巻いて流れていきます。
スケール号は狂ったように手足を動かして進むばかりで、艦長の言う事など聞きそうにありません。
あまりの暑さに艦長も隊員たちも、ぐったりして声も出ません。
目の前が真っ暗になり、気が遠くなっていきます。息が出来ないくらいに暑くて、溶けてしまいそうです。
「ニャゴー!ニャゴー!!」
スケール号が突然激しい鳴き声を上げました。それと同時に再びスケール号が大地震のように揺れ始めたのです。
その上、真っ赤だった船内が真っ暗になりました。
「ギャ―」
隊員たちは訳の分らない叫び声を上げて床の上を転がって行きました。
誰もが床の上でピンポン球のように跳ねたり転がったりしています。
「助けて」
艦長もとうとうテーブルから振り落とされてしまいました。
そのとき窓の外が急に明るくなって、スケール号がピタリと止まったのです。スケール号の隊員たちは目を回してしまって、しばらく話す事も歩く事も出来ませんでした。
「どうなったんだ、調べてくれ」
艦長がようやくぴょんたに言いました。
「艦長!地面の上です。スケール号が戻ってくれたのですよ」
よろよろ窓の方にはって行ったぴょんたが言いました。
「そうか助かった」
「ここはどこでヤすか」
もこりんが艦長に尋ねました。
「きっと地球の裏側だスよ」
艦長に代わってぐうすかが答えました。
「地球の裏側だって」
「スケール号は地下に潜ってそのまま真っ直ぐ下に進んで地球の裏側に出たにちがいないだス」
ぐうすかは居眠りばかりしているのに、誰より頭はいいのです。そのときスケール号のスピーカーが鳴りました。
「ばかもの!スケール号を操縦できるのは艦長だけだと言っておいたのを忘れたのか!」
のしてんてん博士の声でした。
「そうか、ぴょんたが飛べって命令したから、スケール号は怒って反対に地面に潜ってしまったんだ」
「ごめん」ぴょんたは長い耳を床までたらしてみんなに謝りました。
「失敗は誰にもあるさ、それよりみんな大丈夫か」
艦長はみんなを見回しました。
「大丈夫でヤす」
「大丈夫だス」
「もう大丈夫です艦長」
「それでは帰るぞ。スケール号、空を飛んで帰るんだ」
艦長がスケール号に命令しました。
「ゴロニャ―ん」
スケール号がうれしそうに鳴いたと思うと、同時にもう空を走っています。空は青く、もっこりと白い雲が浮かんでいます。
もう地球の中はこりごりだと誰もが思いました。
7 初めての仕事
スケール号はジェット機よりも高く、ロケットよりも速く、地球を半周してのしてんてん博士のいるビルに戻リました。そのビルは世界探査同盟の基地だったのです。
スケール号のスクリーンにのしてんてん博士の姿が映し出されました。
その博士はとても困った顔をしています。
何か大変なことが起こったにちがいありません。
「諸君にどうしてもやってもらわなければならないことが起こったのだ」
博士の映像が緊張して見えました。
「どうしたのですか博士」
艦長は博士の映像に向って聞き返しました。
「時間がない、すぐに出発してもらいたいのだ」
ケンタちょっと休みたかったのですが、博士の困っている顔を見るとついうなずいてしまいました。
「わかりました博士、いったいどんな事件なんですか」
「バイ菌Xが逃げてしまったのだ」
「バイ菌X・・・?」
「バイ菌Xが世の中に広がったら大変なことになる。人類は滅亡するかもしれないんだ」
「そんなに恐いバイ菌ですか」
「これに感染するとヒック、シャックリが止まらなくなるヒック、そして最後には死んでしまうのだヒック」
博士は話しながら時々シャックリをしました。
「博士、そのシャックリはまさか・・・」
言いかけて艦長は博士を見ました。
「実験中にヒック、バイ菌Xの毒をうけてしまったのだヒック、そのすきにヒック、バイ菌Xが逃げ出してヒック、クリームソーダ―の中に隠れてしまったのだヒック」
話している間に博士のシャックリはひどくなっていくようです。
「とにかく諸君にはヒック、何とかしてバイ菌Xを捕まえてもらいたいのだヒック」
そう言いながら博士はおいしそうなクリームソーダ―を机の上に置きまた。
透明のグラスの中に緑のソーダ―水がぴちぴちと泡を沸き立たせ、その上にたっぷりとクリームが乗っています。
真っ赤なサクランボを見てぐうすかはゴクリと喉を鳴らしました。
「これがそのクリームソーダ―だヒック。バイ菌Xはこの中に逃げ込んでいるヒック、スケール号でヒック、バイ菌Xを追ってもらいたいヒック。バイ菌Xを捕まえてほしいのじゃヒック、ヒック」
「早くいきたいだス」
ぐうすかがよだれをたらして言いました。
8 博士の一大事
博士のシャックリはだんだんひどくなっていくようです。
早くばい菌Xを捕まえないと本当に博士は死んでしまうかも知れません。
「わかりました博士」
艦長は思わず言ってしまいました。
「おおヒック、行ってくれるかヒック、ヒック」
博士は苦しそうに言いました。そのときスクリーンにへんてこな生き物が映し出されました。
黒いウニのような体にとげの手と足がついているのです。
二本のとげの先端に目玉が二つついています。
「これがヒック、ばい菌Xのヒック似顔絵だヒック、ヒック、ヒック」
「でも博士、スケール号がどうしてクリームソーダの中に入っていけるんですか」
「スケール号にヒックばい菌Xのヒック大きさにヒックなれとヒック命令するのだヒックヒックヒック」
「よし、スケール号、ばい菌Xの大きさになれ!」
艦長は博士の言ったとおりに叫びました。
「ゴロニャ―ン」
スケール号の体はみるみる小さくなっていきました。
「ひえー周りがどんどん大きくなっていくよ」
ぴょんたがビックリして声を上げました。
「周りが大きくなっているんじゃない、スケール号が小さくなっているんだ」
艦長は乗組員に説明しました。ケンタはもうすっかり艦長になりきっています。
地面に転がっていた小さな石ころがぐんぐん大きくなってあっという間に山のようになりました。
「艦長、向こうから怪物がやって来ヤす!ぶつかるでヤす!」
もこりんの指差す方を見ると、馬ほどもある大きな怪物が牙を広げて突進してくるのが見えました。
「艦長あぶない!」
ぴょんたが長い耳をくるくるねじらせて叫びました。そのとたん大きな音がしてスケール号がぐらりと揺れました。
「飛べ、スケール号!」
艦長が同時に命令しました。
スケール号は後ろ足で怪物の頭をけって空に飛び上がりました。
地上では怪物が6本足をもぞもぞ動かしてひっくり返っています。
「あれはアリだス、艦長アリの行列が続いているだス」
ぐうすかが言いました。
「あぶないところだった」
艦長がアリの行列を見下ろしながらひとりごとを言いました。
もう少し遅かったらスケール号はアリの大軍に踏みつぶされていたかも知れません。
艦長達の初めての仕事は、そんなふうに始まりました。
スケール号はアリよりも、もっともっと小さなばい菌の大きさにちぢみながら空を飛び続けているのです。
9 クリームの森へ(1)
ばい菌の大きさになったスケール号は空を飛んでいます。
さっきまで目の前にあった世界探査同盟の白いビルはもうどんな形をしているのか分らない砂漠のような世界に変わってしまいました。
壁と思っていたところは無数の洞窟が大きな口を開けて並んでいるように見えます。
まるで宇宙の果てに来てしまったような世界なのです。
「艦長、ここはどこなんです?どこに来てしまったんです?」
ぴょんたがおろおろして言いました。
「どこにも来ていないよ。ここは世界探査同盟のビルに違いない、ただスケール号がばい菌の大きさに縮んでしまっただけなんだ」
艦長はスケール号のナビゲータを見て言いました。
ナビゲーターはスケール号の操縦席についている画面で、今どんな大きさになっているかを教えてくれるのです。
そのナビゲーターに一箇所赤い×印が点滅していました。
そこに目的のスリームソーダ―があるのです。
「ばい菌はいつもこんな風景を見ているのでヤすか。ビルの壁にこんな洞窟があるなんて信じられないでヤす」
もこりんはうれしそうに言いました。
もこりんは穴掘りが大好きなのです。いつも両手につるはしを持っていて、穴を見るとつい手に力が入ってうきうきしてくるのです。
突然現れた見しらぬ世界を見て静かなのはぐうすかだけでした。
艦長が振り返るとぐうすかは床に転がって居眠りをしているのでした。
ぐうすかがいつも枕を頭につけているのはいつでも眠るためなのかもしれません。
鼻ちょうちんが膨らんでパチンとはじけました。
「よし、あの洞窟から中に入ろう」
艦長はスケール号に命令しました。
「ゴロニャ―ン」
スケール号はジェットコースターのように洞窟の中に飛び込みました。
洞窟の中に入ると、スケール号の目がひかり前の方を照らし出しました。
その光の中に、突然カマキリのような怪物の姿が現れたのです。怪物はかまのような腕を振り上げてスケール号に向ってきます。
「あぶないでヤす!」
「スケール号、攻撃をかわせ」
艦長が叫びました。
スケール号はくるりと体をねじって怪物の攻撃をかわしました。
同時にくるくる尻尾を回し始めました。
最初の攻撃をかわされた怪物は反転してスケール号の後ろから襲い掛かってきます。
「恐いよー」
ぴょんたは耳をたらして震えています。
「スケール号、怪物の目をねらえ」
ケンタはいよいよ艦長らしくなって来ました。もうどんな危険なめにあっても落ち着いて命令できるのです。ケンタは自分でカッコイイと思いました。
スケール号はケンタの命令を聞いて、くるくる回していたしっぽをむちのように伸ばして、襲い掛かってくる怪物の目をピシャリと打ちました。
「ギエー」
怪物は目を押さえて闇の中に落ちていきました。
「やったやった!」
ぴょんたは長い耳をはためかせて喜びました。
「やったでヤす」
「艦長、ぐうすかのやつまだ寝ていますが、どうします?」 ぴょんたが床に転がっているぐうすかに気付いて言いました。
「ほっておけ、それよりクリームのたっぷり乗ったクリームソーダ―を用意してくれないか」
艦長がもこりんに言いました。
「わかりヤした艦長」
もこりんはうれしそうに答えてすぐに台所に歩いて行きます。
「サクランボも忘れるなよ」
「わかってヤす艦長」
もこりんは食事係です。この時ばかりはつるはしを手から放して腰につけているのです。
クリームの森へ(2)
「クリームソーダを飲むんですか、艦長、気がききますね」
ぴょんたがニコニコ顔で言いました。
「これからクリームソーダ―の世界に入っていくんだ。その前にたっぷり飲んでおかなければ途中でつまみ食いされると困るからね」
艦長が腕組みをして答えました。
そのときもこりんがおいしそうなクリームソーダ―を運んで来ました。
さっそくみんなはテーブルをはさんでクリームソーダ―を飲み始めました。
もちろんそのときにはぐうすかも起きて来ました。ぐうすかは居眠りと食べる事が大得意だったのです。
みんながクリームソーダ―を飲み終えたころには、スケール号は長い洞窟を抜け出しました。遠くの方にクリ―ムソーダ―がまるで富士山のようにそびえ立っているのが見えました。
実際には部屋のすぐそこに置いてあるのに、ばい菌の大きさになっているスケール号には何キロも遠くにあるように見えるのです。それでもスケール号はぐんぐんクリームソーダ―に近づいて行きました。
「でっかい、これが本当にクリームソーダ―でヤすか」
もこりんは目を丸くしています。
「一生かかっても食べ切れないだス」
ぐうすかはクリームソーダ―を食べたばかりと言うのにまだよだれをたらしています。
白いクリームがまるで雪山のようです。
その頂上に真っ赤なサクランボがのっています。
スケール号が近づくとそのサクランボは地球ほどの大きさなのがわかって来ました。
「スケール号、サクランボの上に着陸だ」
艦長が言いました。
スケール号はサクランボにむかって高度をさげていきました。
窓はもう赤一色になって周りにクリームさえ見えません。
サクランボの表面には近づくにつれて山や谷が見えてきました。
まるで地球とそっくりです。やがて谷間に町が見えて来たのです。
「あの町に下りるぞ」
艦長がスケール号に言いました。
「ゴロニャ―ゴ」
スケール号は音もなく赤一色の町に下りて行きました。
静かに町に着陸したスケール号は、一瞬目を見張りました。
それというのも、すぐに町のあらゆるところからばい菌たちがやって来てスケール号を取り囲んだからです。
手に持った槍があちらこちらで光っています。
まるでスケール号を捕まえようとしているようです。
「よし、外に出るぞ」
艦長は隊員たちに言いました。
「危険すぎませんか」
ぴょんたが言いました。
「敵でないことを説明すればわかってもらえるだろうが、念のため武器は持っていこう」
艦長の命令でみんなは武器を持ってスケール号の外に出ました。
するとそこにばい菌たちが押し寄せて来ました。
「サクランボの国の皆さん、私たちは敵ではありません。私たちは人間の国からばい菌Xという悪ものを追ってきたのです。
早くばい菌Xを捕まえないと大変な事になるのです。どうか協力してください。誰かばい菌Xを知りませんか」
艦長はそういってばい菌Xの似顔絵をばい菌たちの目の前にかざしました。
(つづく)
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本日はたぶん作品の壁掛けに手間取ってます
はるひ美術館による北籔和展(ナウイズムの夢)開催します
2017/2/8~2/26
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写真を添付できないのが残念なのですが、はるひ美術館は壁面が大きな弧を描いているので、フラットな壁面に比べて、思ったより難しい。
21mの組み作品は、実質上下2列に壁がけするのですが。なかなか思うようにあわず。何度も釘を打ち直す。
そんなこんなで、壁にびっしり90センチの絵を44枚掛けるのは大変な作業で、丸々半日かかりました。
それでも、何回か落ちるハプニング。一枚でも落ちたら信用できないので、再度すべての絵を確認して、一枚ずつ固定していく。
床に寝転がって、キャンバスの足元までテープで固定。
そして照明の調整。最後は誰も冗談口をたたかない無言の作業。
そして完了。
円形の壁面に、21mの壁画は確かに迫力満点。自分で言うのもなんですが、自分が宇宙の中に漂っている
ような臨場感。
本当に、心底、皆さんをこの場に立たせてあげたいとしばらく見入っていました。
私自身が始めてみる風景
もはや、自分で描いたとは思えない五次元宇宙です。
自画自賛でもなんでもいい。
とにかくいい空間ができました。
今、一畳の部屋で備え付けのPCに向かっておりますが、これから瞑想に入ります。
お休みなさい。
いよいよ今日からですね。
艱難辛苦を乗り越えて到達した目的地(美術館)。
しかしそれはゴールではない。
勇者⁉のしてんてんのクエストは、まだまだ続く……つうびい こんてにゅう(笑)。
おはようございます!
さすがにナウイズム旗揚げ展☆
ハプニングの連続による皆さんの緊張と喜びの劇的波動が、
はるひのしてんてん五次元宇宙を産み出したのでしょう^ね^
もはやハッピーハプニングと連結しているのではないでしょうか
祝!のしてんてん画伯
ナウイズム旗揚げ展
おめでとうございます♪
あらためまして、ナウイズム旗揚げ展のご盛況を
五次元宇宙心魂よりお祈り申し上げます。
アーティストトーク、お楽しみください^ね^☆
づっと、この時間までとっておいてよかった。しっかり対峙して読む価値のある作品だと思いました。
細かいところで引っかかるところがありましたが、全体を通じて高いクオリティーを保ったまま読み終えることができました。
またゆっくりと。
おめでとう!むっちゃん。
アーティストトークも無事終了、とのこと。
おめでとうございます。
次なる冒険の旅、出かけましょう❗
……私も。
いろいろおいしい食べ物など、紹介してくれるのですが、夜のネオンにまったく興味を示さず、美術館と宿のラインから一歩も出る気も起こらず、コンビ二弁当と牛丼です。
出不精お宅の証明^で^す^
ハプニングはどうやら、そんなところから起こるのかも知れない^で^すね。。
それにいたしましても、いつも励ましの言葉、ありがとうございます。
そう、そう、昨日の初日、自然に心のデッサンまで話が及んで、皆さんよく聞いてくださいました^よ^