(7)2009.10.18(塗り絵)
朝出遅れてお昼過ぎになった。部屋に母の姿がない。それで集会室に行って見ると、円卓に座って塗り絵を楽しんでいる一団があった。その中に母もいる。私は興味を持って、しばらく母の姿を眺めていた。
輪の中にいながら、ぽつんと淋しそうに座ったままだ。どうも塗り絵が嫌で療法士さんの勧めにも応じず、車椅子の上で視線を曇らせているようだ。周りの人たちはみな楽しそうに話しながら、色鉛筆を動かしているのに、母のところだけがスイッチが切れたように動かない。私はわざと元気に手を振って、母の視線に入った。みなに挨拶をして、母の車椅子を押しながら集会室を出た。
「なんでおばあちゃんも絵描かんのなら?」
「あがなもん 面白ない」 結局塗り絵は一枚も描いたことがないらしい。
「そうやなァ、あがいに決められた絵を塗るだけは面白ないわなァ」
私は妙に納得する。そしておどけたように続けた。
「ほいじゃ、いつもの絵描くかい」
母は返事の代わりに肩をすぼませて、いたずらっぽい顔をした。ところがマーカーを持って紙を見つめたまま動かない。何を描いていいのか分からないのだ。出だしのスイッチを押してやる。
「じゃあまるを描いてみようか。」
「そうやの」ひらめいたように返事をして、同時に手が動き出した。きれいな丸が一つ出来た。するとその横に次々いくつもの丸が生まれてくる。色とりどりの丸が、運動会のように拡がった。
「おばあちゃん、これ、この前の運動会やな」
「ほにな、ちっちゃい子ら上手におどっとったなァ」
生まれた絵にあとから言葉がついてくる。塗り絵は先に言葉(形)があって、その枠の中に縛られる。それが面白くないのだろう。二人のお絵かき教室は実のところ私が生徒なのかも知れない。教えられることが多いのだ。
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この日、私は母の姿に少なからず驚きました。集会場では利用者の皆さんが丸い大きなテーブルに向き合って、塗り絵をしていたのですが、なぜか母だけがその輪から少し外に飛び出してあらぬ方向を向いていたのです。
私はその様子をしばらく眺めていたのですが、なにか集団からのけ者にされているような、いじめられているような、そんな雰囲気だったのです。
すこし暗い気持ちになって、近づいたら記事のような事情だったのですが、あとから私は気付いたのです。
つまり母は塗り絵の囲われた線の中にうまく色をぬれなかったのだと。それが嫌だったのではと今は思います。
考えを膨らませれば、塗り絵は社会のようなもので、そこにうまく自分をあてはめていくのが優秀な人ということになります。そこでの母はいわゆる落ちこぼれだったのでしょう。
心のデッサンは、そんな母を救ってくれました。
それだけではなく、母のデッサンは、塗り絵を超えて自由に自分を表現しました。私はここに大きな意味を見出したのです。
心のデッサンは誰もが自分を自由に表現する手段になりうるのです。
絵の嫌いな人や、へたくそと自分で思い込んでいる人ほど、心のデッサンは救いとなると確信できた一日でした。
円は
始まりがあって
それを円く囲んでいき
始めたところに戻る作業であるから
お母様は
そのことを具体的に
まだできているーことを自覚なさって
またそれを再現できているーということを
見せてくださっていると思いました。
その始まったところに戻れる状態を
必死に守ろうとしている様子が感じられます。
お母様に私も遠くで応援していると伝えてください。
ピカソを連想しました。
キュピズム( のしてんてんさまに教わった言葉 )ですねっ、この◯◯( まるまる )の群像。
絵・・それは、技術の上手い下手を決める事じゃなく、己のむき出しの心のスタンプを押したかどうか・・なのかなぁと思いました。
名前を忘れたカナリヤでございます ♪
勝手な思い込みと言ってしまえばそれまでですが、「空」を己と思い定めると、この空は母と共にある空。
私の中にある母の思いでは、私の思い出としてあるのではなく、「私と母」が我として存在していると思えるのです。
ですからもう、桂蓮様の応援は母に届いております^よ^
ありがとうございます。
円を完成させた母は今、空間に充足していることと思いま^す^
花一輪さえ描けない一介の老婆でさえ、ピカソたりうる。
「己のむき出しの心のスタンプ」
名言です^ね^
むき出しの心=今この瞬間に動いている心=感情・感性=笑いのツボのあるところ=一閃一刀=へたくそな絵
つながりますね!(無理やりかい)
違うように見えて共通してつながる一閃、それが己の最善として受け入れるということなのですよ^ね^
受け入れないと己を笑うことなどできませんけれど、私の記憶の中には母の笑顔が一番大切な宝物になっておりますから、きっと間違いのない連鎖だと思いま^す^。。