「今度彼に誘われたの、どうしたらいい?」
それは芹里奈の辛そうな声だった。
二人の人生を分けてしまった、忘れようにも忘れられない言葉が悲哀をしみこませて私の中に棲みついている。
「今度彼に誘われたの、どうしたらいい?」
再び芹里奈の声が聞こえた。
行くな!行くなら俺を殺してから行け!私はそう言いたかった。
私を野の花のように愛しているのねと芹里奈は私をなじったが、私の欲望はその花を根こそぎ引き抜いて自分のものにしたかったのだ。
「今度彼に誘われたの、どうしたらいい?」
三度芹里奈の声が聞こえてきた。
「やめてくれ!」私は両手で耳を塞いだ。
すると芹里奈の声の調子が変わった。それはまるで母親が子供をあやすような甘くやさしい声だった。
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