子供の頃からの大好物のひとつが、久星(キューボシ)のカリントウ。
久星は長野県松本市のカリントウ製造専門の小さな会社だが、昔から糸魚川の食料品店で売っていたごく普通のカリントウで、高校生の頃など晩メシ前に一袋食ってしまった事もあるくらい好きだった。
姉貴からは「カリントウ少年」と呼ばれていたのだよ。
ところが、ごく普通のカリントウだと思っていた久星が普通じゃなかったことに気が付いたのが、18歳で上京してからである。
カリントウ好きだから、首都圏、そして黒糖の本場である沖縄の食料品店やスーパーで売っているカリントウは片っ端から食ったし、有名な浅草の老舗カリントウも食ったが、なんか違う。
東南アジア、中国、韓国、インドを旅した時にもカリントウを探してみたけど、小麦粉を油で揚げた菓子類はあってもカリントウ自体は無かった。
わずかな苦みを残す黒糖特有の甘味、表面はシットリしつつも内部はカリッとした食感・・・。
噛み砕くと口中に広がるシットリ感とカリッと感の渾然一体となった食感と、揚げた小麦粉と黒糖の香ばしさが入り混じった異種格闘技戦。
即ち、それが久星カリントウが織りなす味覚のワンダーランド。
久星カリントウは凸凹していて、表面に大きな孔があいている。そこに黒糖が溜まっている部分を「トロ」と呼んで珍重しておりました(笑)
私は断言する、久星のカリントウは世界一美味い!
国内やアジア各国をカリントウ行脚してきて分かったことは、私はカリントウではなく、久星のカリントウが好きだったのだと気が付いた。
作家の森村誠一さんも「サライ」という雑誌で、「私の大好物は久星のカリントウ!」と書いていた。
大手メーカーでもなく全国的にはほとんど無名のカリントウだけど、熱烈なファンがいるのだ。
首都圏在住時に都内でも売っているのか?と久星本社にメールで問合せたら、品質を落とさずに大手スーパーの高額なバックマージンを払うと駄菓子の値段じゃなくなるからと、販路は昔ながらに長野や新潟などの小売店に限られているとのこと。
エライ!流石は世界一のカリントウ!見上げた料簡である。
因みに、この時にメールでやりとりしていたのが、マスコットキャラクターのモデルになった二代目の社長であった。
サッカーボールを蹴っている少年は、創業社長が作ったマスコットキャラクター「久ちゃん」で、この夏に亡くなった二代目社長の子供時代がモデル。
Uターン帰郷してからは再び何時でも久星を食えるようになったが、久し振りに何時もの食料品店に買いに行ってみたら・・・。
嗚呼無情!・・・なんと久星廃業の知らせ!
なんでもこの夏に社長が急逝されて、従業員だけでカリントウを作ってみたけれど、「あの味」を再現できずに廃業する事態になったらしい。
店頭に並べられた久星カリントウは全部で12袋で、これが最後の在庫分との事。
もちろん全部買いました・・・大事に大事に食うケン。
久星カリントウよ、永遠なれ!
長い間、楽しませてもらってありがとう!