古事記にヤマタノオロチ伝説は「高志之八俣遠呂智」と記述してあり、現在の出雲地方では奥出雲の製鉄民との闘いの記憶や、大山噴火の記憶と解釈されているようだが、古志(越)という部分の説明がなされていない。
東宝映画「日本誕生」は、1954年封切りの古事記を元にした豪華キャストによる上映時間3時間の超大作だが、三船敏郎演じる須佐之男の八岐大蛇退治の場面しか盛り上がる部分がないのだが・・・。
糸魚川市早川区には「八龍淵の主」というヤマタノオロチを連想する口碑伝承があり、概要は「八口山(ヤツクチヤマ・新潟県唯一の活火山である焼山らしい)に八口という悪者が住んでおり・大穴持神に征せられ大蛇と化し・八色の血を流して八龍淵に入った・この池から流れる川が八口川(現在の早川)である」というのがある。
また「出雲国風土記」にも「・・・大穴持命、越の八口を平け賜ひて・・・」と対応する記述がある。
ヤマタノオロチ伝説が、出雲東征の際に抵抗して戦った奴奈川の荒ぶる神・まつろわぬ神との抗争の記憶だとしたら私は誇らしく思う。
全国区の強い悪者が糸魚川の祖先なのだから。
「日本誕生」は特撮部分を円谷英二が担当しているのだが、肝心の八岐大蛇が・・・・。
他にも松本の神・能生地区の夜星武命(エボシタケルノミコト)が、奴奈川姫を娶らんとする出雲と戦ったとの口碑伝承もあり、夜星武命を悪い鬼とする民話にもなっている。
夜星武命が出雲を撃退して喜び踊った場所は「鬼舞」であり、八千鉾神が懐柔策に出て沢山いる妃を夜星武命に娶らせて弱体化を図ったのか、再び戦って敗れて降参した場所が「鬼伏」という地名の由来で、今もこの地名は残っている。
また能生地区平には、出雲と戦った奴奈川長者という悪者の伝説もある。
これら荒ぶる神・まつろわぬ神の戦いの口碑だけでも、奴奈川姫と八千鉾神の求婚譚の実態が窺えるのではないか?
だとすると現在の糸魚川におけるラブロマンス一色の奴奈川姫伝説キャンペーンでは、奴奈川姫のみならず郷土のために戦い散っていったご先祖たちも浮かばれない。
「日本誕生」に登場するヤマタノオロチがショボ過ぎて、ショパン猪狩の「レッドスネーク・カモン!」を連想するのは、私だけではあるまい(笑)