温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

草津温泉 群龍館

2022年05月01日 | 群馬県

(2021年7月訪問)
前回記事に引き続き、草津温泉の和風村「湯めぐり手形」を使って旅館のお風呂を巡ります。前回記事で取り上げた「山本館」から西の河原通りを奥の方へ進んでゆくと、まもなく見えてくるお宿が今回取り上げる「群龍館」です。老舗旅館とはいえ、外観は昭和40〜50年代の中小規模旅館そのものであり、草津温泉というよりも、山形県の赤倉温泉や岩手県の鶯宿温泉に立ち並ぶ旅館を彷彿とさせるようなファサードです。


実際に玄関から中へ入りますと、館内には家庭的な雰囲気が漂い、老舗ならではの敷居の高さや入りにくさはあまり感じられず、親戚が営むお店へお邪魔するかのような気兼ねない感じで尋ねることができるかと思います。こちらのお宿は基本的に日帰り入浴を受け入れていないのですが、和風村「湯めぐり手形」を使えば入浴のみの利用も可能になります。私が手形を提示しながら入浴をお願いしますと、お宿のご主人が実に丁寧に対応してくださいました。あまりに腰が低いため、こちらもついつい恐縮してしまいますが、嫌な顔せず歓迎してくださるので、とてもありがたいですね。


ご主人に案内されながらエレベーターで下のフロアへ移動します。
お風呂は3室あり、いずれも、日帰り利用の場合でも貸切で使用します。今回は最も手前側に浴室を案内してくださいました。
まずドアにかかっている上画像の札を・・・


裏返して「入浴中です」を表示させてから、いざ入室です。


お風呂は最近改修したのでしょうか、ウッディーな温もりが伝わる室内は、シンプルな作りながら、とても綺麗で明るく清潔感にみなぎっています。


洗い場にはシャワーつき混合水栓3つ並んでいます。水圧良好です。


浴槽はタイル張りで4~5人サイズでしょうか。注がれているお湯は前回記事の「山本館」と同じ白旗源泉なのですが、「山本館」のお風呂と比べると濁り方が若干弱いような気がします(気のせいかも)。一方、湯加減はこちらの方が入りやすく、じっくりと湯浴みでき、後を引いてなかなか出られなくなってしまうほど良い湯です。しかも貸切なので他の人に気を遣う必要もなし。良泉を独り占めしながら、たっぷり堪能させていただきました。おすすめ。


白旗源泉
酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉(硫化水素型)
50.8℃ pH2.1 湧出量測定せず 溶存物質1.66g/kg 成分総計1.76g/kg
H+:8.91mg(36.30mval%), Na+:54.4mg, Mg++:37.4mg(12.63mval%), Ca++:76.5mg(15.67nval%), Al+++:43.9mg(20.24mval%),
F-:9.5mg, Cl-]310mg(35.19mval%), SO4--:651mg(54.61mval%), HSO4-:195mg(8.11mval&), Br-:1.5mg,
H2SiO3:216mg, H2SO4:4.4mg, CO2:88.0mg, H2S:7.7mg,
(平成25年5月15日)
加水加温循環消毒なし

群馬県吾妻郡草津町大字草津394-2
0279-88-2079
ホームページ

日帰り温泉は和風村「湯めぐり手形」利用時のみ可能

私の好み:★★★
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草津温泉 山本館(日帰り入浴)

2022年04月23日 | 群馬県

(2021年7月訪問)
前回に引き続き草津温泉の老舗旅館を巡り、日帰り入浴を楽しみます。今回訪ねるのは、湯畑の目の前に建つ老舗旅館「山本館」です。こちらのお宿も草津温泉「和風村」の「湯めぐり手形」をつかって日帰り入浴することができます。


玄関は西の河原通りに面しているので、そちらへ廻って玄関を入り、手形を呈示しながら入浴をお願いしますと、快く受け入れてくださいました。こちらのお宿は建物が重文指定を受けており、重厚感のある外観もさることながら、中へ上がってから伝わってくる館内の雰囲気が素晴らしいのです。


さて、帳場で料金を支払った後は、帳場の前に伸びる廊下を歩き、暖簾のところで階段を下ります。


すると、岩室のような半地下の入浴ゾーンへとたどり着きます。こちらのお風呂は「若の湯」と称しているんですね。岩で囲まれた薄暗い空間には外から光が差し込み、また小さな祠も祀られていて、得も言われぬ神々しさがあります。


祠で手を合わせてから男湯へ。


総木造の更衣室は浴室とガラス窓で隔てられており、お風呂の様子がよくわかる構造です。このガラス窓のお蔭で実際の床面積以上に広く感じられるだけでなく、両室の明るさも確保でき、更には入浴中も更衣室の動きが目視できますから、いろんな意味で安心して利用できるかと思います。


浴室も総木造なのですが、和風な外観や廊下とはやや意趣が異なり、洋館を思わせる形状の窓が並んでいるのです。和洋折衷と言うべきなのか、いまいち自信ないのですが、風格を保ちつつも趣向を凝らした造りにうっとりします。また天井がそこそこ高く、明るさも確保されており、木のぬくもりもたっぷり伝わって、実にブリリアントな入浴空間です。
しかも目の前が湯畑という立地でありながら、不思議にも静かな環境が保たれており、落ち着いてゆっくり湯浴みできるのです。入室した瞬間、私は感激のあまり思わず「こりゃいい」と声に出してしまいました。他にお客様がいらっしゃらなくて良かった・・・。


湯船もステップ以外は総木造。
湯船に腰を沈めてもたれかかると、木ならではの柔らかな感覚が伝わってきます。


湯畑至近という立地ながら、こちらのお風呂では白旗源泉を引いています。その証と言うべきか、湯畑源泉や万代鉱源泉のように透明ではなく、湯船のお湯は弱い緑色を呈しつつも白濁しています(底が見える程度の濁りです)。湯面からはツンと鼻孔を刺激する硫黄臭がはっきりと感じられ、また口に含んだ時の酸味は勿論、えぐみも強く、白旗源泉らしい個性がはっきりと現れています。源泉から来るお湯をそのまま供給しているためか、私が入浴した時の湯加減はやや熱かったのですが、むしろその熱さが気持ちよく、お湯がしっとりと体に馴染み、極上の湯あみを楽しむことができました。


白旗源泉
酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉(硫化水素型)
50.8℃ pH2.1 湧出量測定せず 溶存物質1.66g/kg 成分総計1.76g/kg
H+:8.91mg(36.30mval%), Na+:54.4mg, Mg++:37.4mg(12.63mval%), Ca++:76.5mg(15.67nval%), Al+++:43.9mg(20.24mval%),
F-:9.5mg, Cl-]310mg(35.19mval%), SO4--:651mg(54.61mval%), HSO4-:195mg(8.11mval&), Br-:1.5mg,
H2SiO3:216mg, H2SO4:4.4mg, CO2:88.0mg, H2S:7.7mg,
(平成25年5月15日)
加水加温循環消毒なし

群馬県吾妻郡草津町草津404
0279-88-3244
ホームページ

日帰り入浴11:30~15:00
1000円(和風村「湯めぐり手形」使用時は700円)

私の好み:★★★

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草津温泉 大阪屋

2022年04月16日 | 群馬県

(2021年7月訪問)
前回記事に引き続き、上州・草津温泉「和風村」の「湯めぐり手形」をつかって、加盟旅館のお風呂を巡ります。今回訪ねるのは、湯畑から大滝の湯へ向かう通り沿いに建つ「大阪屋」です。通りに面した横に長い立派な建物で、フロントも非常に大きく、普段から中小規模の宿を愛好する私は、その規模に圧倒されてしまいました。
帳場にて湯めぐり手形を提示して日帰り入浴をお願いしますと、仲居さんが私をお風呂まで案内してくださいました。


導かれるまま1階の奥へ進んでゆくと、廊下の先に男女別の大浴場があり、廊下のどん詰まりに男湯の暖簾がかかっていました。


建物自体が大きかったので想像に難くなかったのですが、案の定更衣室も広く、エアコンも効いていて快適です。
なお旅館のお風呂にはよくある話ですが、更衣室内にロッカーはありませんので、貴重品類は事前に帳場へ預けましょう。


手入れが行き届いた綺麗で広い浴室内には、草津の湯の香が漂っています。大きなお風呂は非日常の雰囲気を堪能するのに最適ですね。入室した瞬間、仕事の憂さが雲散霧消するかのような気分になれました。
中央には浴槽が据えられ、その左右に洗い場が配置されています。


切り出した御影石を組んで作られた浴槽はやや浅めの設計で、湯口から滔々と湯畑源泉が注がれています。入りやすい41℃くらいの湯加減が維持されており、非常に心地よく、広さから来る寛ぎ感も相俟って、ついうっかりウトウトと寝そうになってしまいました。


露天風呂はちょうど急な法面の直下にあり、建物と法面の間に挟まれているため、正直なところあまり開放感は無く、また場所柄薄暗さも否めないのですが、そよ風が入り込んできますので、火照った体を優しくクールダウンするには良いでしょう。
こちらには長方形の浴槽が据えられていますが、内湯に反し、こちらの湯加減は43〜44℃というやや熱めの湯加減でした。
ぬる湯好きな方は内湯、熱いお湯でシャキッとしたい方は露天、というように使い分けるのも良いでしょうね。


内湯・露天とも、湯口から注がれるお湯は草津ではおなじみの湯畑源泉のお湯。湯中では強酸性泉らしいヌメリを伴うツルスベ浴感がしっかりと肌に伝わり、口に含むと草津らしいストレートな酸っぱさと明礬味が感じられ、その酸味により口腔内がきゅっと収斂します。このキュっとする感覚こそ草津らしいところですよね。


お風呂上がりにはサービスの冷水で喉を潤しました。入浴の際の水分補給は大切です。
お宿のお風呂にはこうした心配りがあるので有難いですね。

湯畑源泉のお湯は温泉地内のいくつかの共同浴場でも入れますが、地元民向け共同浴場の湯船は得てして熱くて入るのに躊躇われる場合もあるため、外来のお客さんに合わせて湯加減を入りやすくしている旅館のお風呂は安心して入浴できます。
親戚やご友人などには中小規模より大きな旅館を好む方が一定割合いらっしゃるかと思いますが、そんな規模重視の方にはもってこいなお宿かもしれません。いや、規模のみならず日帰り入浴では決してわからない魅力がたくさんあるはず。今回利用した大浴場のほかに貸切風呂もあるので、私も機会があれば宿泊利用してみたいと思っています。


湯畑源泉
酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉 51.3℃ pH2.1 自然湧出 溶存物質1.65g/kg 成分総計1.69g/kg
H+:8.91mg(36.54mval%), Na+:56.0mg(10.06mval%), Mg++:36.3mg(12.33mval%), Ca++:73.5mg(15.16mval%), Al+++:43.8mg(20.14mval%), Fe++:17.5mg,
F-:9.9mg, Cl-:311mg(35.63mval%), Br-:1.3mg, SO4--:640mg(54.16mval%), HSO4-:192mg(8.04mval%),
H2SiO3:216mg, H2SO4:4.3mg, CO2:36.7mg, H2S:7.1mg,
(平成25年5月15日)
(館内には平成15年の分析表が掲示されていましたが、私の手元にはそれより新しいデータがありましたので、この記事では新しいデータを掲載いたします)
加水あり(温度を下げる時のみ)
加温循環消毒なし

群馬県吾妻郡草津町356
Tel:0279-88-2411
ホームページ

日帰り入浴13:00~15:00(和風村「湯めぐり手形」利用時は12:00~16:00)
1000円(和風村「湯めぐり手形」利用時は700円)

私の好み:★★+0.5
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草津温泉 旅館たむら

2022年04月11日 | 群馬県

(2021年7月訪問)
今回記事から連続して上州の名湯である草津温泉を取り上げます。
まずは地蔵の湯に隣接している「旅館たむら」から。
以前、何も知らない丸腰の状態で日帰り入浴をお願いしたところ断られてしまったのですが・・・


草津温泉の一部旅館で構成されている「和風村」協賛宿に宿泊すると購入できる和風村の「湯めぐり手形」を使えば、こちらの宿でも日帰り入浴することができますので(別途要入浴料金)、その手形を入手してから改めて訪ねることにしたのでした。なお、どの宿に泊まったのかについては、また後日記事に致します。
帳場で手形を提示し、入浴のみの利用をお願いしますと、丁寧に快く受け入れてくださいました。


お宿には露天風呂もあるそうですが、手形利用の日帰り入浴ですと入浴可能なのは内湯のみです。
帳場の斜め前にお風呂があり、男女別のほか、貸切風呂が2つ並んでおり、計4つのお風呂の入り口が等しく並んでいるように見えます。


脱衣室は小さいながらとても綺麗で気持ち良く使えます。なお扇風機はありますが、ドライヤーは見当たりませんでした。草津という場所柄、ドライヤーなど電化製品は温泉の傍に置いておくと劣化が激しいので、敢えて脱衣室には備え付けないのかもしれません。


お風呂もコンパクトながらモダン和風といった素敵な雰囲気で、ドアを開けた瞬間に思わず「おぉ、良いじゃん」と口から言葉が出てしまいました。全体的に御影石が多用されており、窓の外には岩を配した坪庭が設えられています。


浴槽の手前左右に、シャワー付き混合水栓がひとつずつ設置されています。


浴槽が3人サイズでしょうか。
湯口から注がれるのは、草津温泉で湧出する数ある源泉の中でも誉れが高い「地蔵の湯」源泉。お宿に隣接している「地蔵の湯」共同浴場でこの源泉に入れるのは皆さまご存知の通りですが、この源泉を引くお宿は少ないので、大変貴重なお風呂と言えるでしょう。アツアツの「地蔵の湯」を手を加えず浴槽へ落としているので、湯船の湯加減はちょっと熱いのですが、身も心もキュッと引き締まり、それでいて全身を駆け抜ける爽快感もあり、若干遅れて肩のあたりを優しく撫でてくれるような安らぎが湯中の体を包んでくれます。酸性泉ならではのぬるつるすべ。グレープフルーツのようなフルーティな酸味と明礬味。素晴らしいお湯です。


私の入浴時、湯船の底には粉状の湯の花がたくさん沈殿していました。他にお客さんがいらっしゃらないのをいいことに、沈んでいる湯の花を手で掻きまぜ湯船のお湯を湯の華だらけにして、全身湯の華まみれにして地蔵の湯を楽しみました。
最高です。

コンパクトながらも品の良さが伝わってくる素敵なお風呂で、極上な「地蔵の湯」を味わえる、実にブリリアントなひと時でした。次回訪問の際には是非宿泊し、貸切風呂も利用しながらゆっくり過ごしたいものです。


地蔵の湯源泉
酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉
48.4℃ pH2.1 蒸発残留物1.45g/kg 成分総計1.67g/kg
Na+:52.9mg, Mg++:36.4mg, Ca++:70.5mg, Fe++:18.5mg, Al+++:44.8mg, H+:8.91mg,
F-:9.2mg, Cl-:292mg, SO4--:647mg, HSO4-:194mg,
H2SiO3:214mg, H2SO4:4.4mg, CO2:36.6mg, H2S:6.9mg,
(平成25年4月24日)
加水加温循環消毒なし

群馬県吾妻郡草津町草津305
0279-88-2045
ホームページ

日帰り入浴不可(ただし和風村「湯めぐり手形」を使えば可能。700円)

私の好み:★★★
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利根川唯一の水上県道 赤岩渡船

2021年11月14日 | 群馬県
※今回の記事に温泉は登場しません。悪しからず。

前回まで青森県の温泉を取り上げた記事が連続しており、まだまだこれからも続く予定ですが、ここでちょっと青森県と温泉から離れて小休止をしましょう。

日本のみならず世界各地の温泉をメインにたくさん取り上げている拙ブログですが、今までの閲覧数を確認してみますと、なぜか温泉以外の記事も多く閲覧されていることに気づきます。代表例は海外におけるレンタカー利用体験を How to 形式にして書き綴ったものですが、日本国内の地域交通ネタもちらほら閲覧されており、例えば北九州の「若戸渡船」を取り上げた記事は、公開から数年経った今でもコンスタントに読まれているようです。渡し船というノスタルジー溢れる前時代的な交通機関には、単なる船舶以上の魅力を感じ、しかも全国的に数が激減しているため、拙ブログをご覧くださるような旅好きな方の琴線を揺さぶるのでしょう。

かく言う私も「渡し船」と聞くと強い旅情と歴史的な情緒を感じ、機会があれば乗船してみたいと思っております。坂東太郎の異名を持つ利根川にもかつては多くの渡船が運航されていましたが、次々に架橋されることによって廃止に追い込まれ、現在では3ヶ所しか残っていないそうです。その中でも今回は唯一県境をまたぎ、しかもその航路が県道(主要地方道)に指定されているという珍しい特徴を持った「赤岩渡船」に乗ってまいりました。


赤岩渡船は埼玉県熊谷市と群馬県千代田町を結ぶ渡船で、その歴史は戦国時代にまで遡れるんだとか。具体的な場所は上地図をご覧ください。公共交通機関で当地までアクセスする場合、埼玉県側ですと熊谷駅から「葛和田」行路線バスに乗って終点で下車します。一方、群馬県側は館林駅から路線バス「館林・千代田線」に乗り、やはり終点の「赤岩渡船」で下車します。地図で位置を確認しますと、ちょうど熊谷と館林を直線で結んだ中間地点に赤岩渡船が位置していますね。先程航路が県道(主要地方道)に指定されていると申しましたが、その県道の名前は「埼玉県道・群馬県道83号熊谷館林線」。まさに両都市を結んでいるのです。


よく晴れた2021年11月初旬。私は熊谷駅に降り立ち、北口ロータリーから「葛和田」行路線バスに乗りこみました。


路線バスは真っ平らな関東平野を北上し、最終的には利根川の土手を乗り越えて堤防内に乗り入れ、約30分強で終点の「葛和田」に到着しました。バスは河原に立つ小さなプレハブ小屋の前で停まります。


「赤岩渡船」とは群馬県側の呼称であり、埼玉県側では渡船場が位置する地名を取って「葛和田の渡し」と呼んでいるようです。路線バスは数分で折り返して堤防を乗り越え、熊谷駅へと戻っていきました。
それにしても広い河原だこと。小さな頃から今に至るまで、私の生活圏の最寄りにある大きな川といえば多摩川なのですが、こんなに広い河原はありません。さすが日本屈指の大河だけありますね。


さて「葛和田」バス停前に立つこの小さな無人プレハブ小屋は、渡船を待つために設置されたもので、小屋の中には・・・


渡船の利用方法が説明されています。
これによれば、運航時間は4月1日~9月30日が8:30~17:00、10月1日~3月31日が8:30~16:30となっているのですが、特筆すべきは運賃。なんと無料なのです。赤岩渡船は県道に指定されているわけですが、一般的に県道を歩いたり車に乗ったり、あるいは県道に指定されている橋を渡る場合は、当たり前ですが誰でも無料ですよね。これと同じ感覚で、水上県道であるこの渡船も無料なのでしょう。

でも船を運航する以上はどうしても経費がかかります。この経費は県道の管理者である群馬県が負担しており、その運営を千代田町に委託しているんだそうです。このため、船頭さんは群馬県側におり、埼玉県側は常に無人です。群馬県側から客(というか通行者)を乗せた船は、渡し終えるとすぐに群馬県側へ帰ってしまいます。埼玉県側で船は待機していません。
埼玉県側から船に乗る場合、どうしたら良いのか・・・


小屋の前に黄色い旗が下りていますが・・・


掲揚ロープを引っ張って、このように黄色い旗を揚げるのです。そして、この場から対岸をひたすら注視し続けます。対岸の船頭さんがこの黄色い旗に気づくと、おもむろに船に乗り込んでこちらへ出発してくれますので、それを確認できたら、次の人のために旗を降ろします。


私が揚げた旗に気づいてくれたようなので、旗をおろして船着き場へ向かいました。遠くに赤城山がそびえ、上空をグライダーが気持ち良さそうに飛んでいます。この葛和田の乗り場一帯はグライダーの滑空場になっており、かなりの頻度で飛んでいました。後述しますが、どうやらこのグライダーの存在が渡船の存続と関係しているようです。


さて、100メートルほど歩いて船着き場に到着です。


渡し船がやってきました。


下船する人を優先し、下船が終わったら乗り込みます。そしてケースに納められている救命胴衣を自分で取り出して身に着けます。なお船に屋根はありません。




さようなら、葛和田渡船場。


気持ち良い船旅です。


ちょっとわかりにくいのですが、船から見える川底が非常に浅く、頑張れば歩けそうなほどでした。この浅さで操舵するのは、結構大変なのではないでしょうか。


離岸から4~5分で、あっという間に群馬県側の赤岩へ到着しました。


私を対岸へ渡してくれた「新千代田丸」。川舟らしいコンパクトでかわいらしい船体ですね。
なおこの船には自転車や原付バイクも載せることができるそうです。


逆光になっちゃいましたが、上画像の左側に写っているのが船頭さんの待機小屋です。群馬県側から乗船する場合は、旗など上げず、この小屋で船頭さんへ声を掛けるだけでOKです。


赤岩の船着場から目の前の階段を上がってすぐのところに、館林駅行きのバス停があります。本来でしたら、ここから路線バスで館林へ抜けたいところですが、便数がとても少なく、しかも私が訪ねた休日は更に減るため、事前に乗り継ぎ時刻を調べておかないと待ち惚けを食らうことになります。私もこの時は行き当たりばったりで出かけたため、次のバスまで1時間以上待つ必要がありました。どうしよう・・・


埼玉県側は「葛和田渡船場」という標識がちょこんと立っているだけでしたが、群馬県側の赤岩には灯篭のような飾りが立っていたり・・・


昭和30~50年頃の商店街を示した地図が掲示されていました。江戸時代の赤岩には既に100軒の商店があり、その後鉄道の開通によって河岸としての機能が低下しますが、戦後再び盛り返して、昭和40年代後半には約130軒の商店が甍を競ったそうです。でも現在残っている商店はわずか10軒ほど。


赤岩は歴史ある河岸として、かつては大いに栄えていたのでしょうね。しかし今ではそんなことが全く感じられないほど、農家が静かに軒を連ねるごくごく普通の集落です。


県道83号を歩いて千代田町役場方面へ向かってみることに。先程も申し上げましたが、「赤岩渡船」はこの県道83号の水上部分に当たるわけです。



赤岩の集落や県道83号線の沿道には、新しい架橋を求める看板や幟が立っていました。ここから一番近い橋は、上流側だと6〜7km先に架かる刀水橋、下流側だと4〜5km先の武蔵大橋まで橋が無いのですから、地元の方々は渡船ではなく、車で自由に行き来できる橋を求めるのはとても自然なことだと思います。

でも、そもそも架橋するほどの需要があるのか、どの自治体も財政難の今にあって莫大な建設費を要する架橋が認められるのか、などなど架橋には多くの問題が立ちはだかっているのでしょう。そして、上述したようにグライダー滑空場の存在も大きいのだとか。というのも、滑空場を他に移設できる見込みが無い現状で赤岩に橋を架けると、代替措置が無いまま滑空場を単純に閉鎖することになるためです。このような状況のため、架橋される見込みは立っていないそうです。


そんなことをスマホで調べながら歩いているうちに、千代田町の役場までたどり着いてしまいました。役場近くまで来たら、別のバス路線があるのではないかと予測していたのですが、ここまで来ても鉄道駅まで行けるバス路線は渡船場と同じであり、結局1時間待たなければならないため、面倒くさくなった私はタクシーを呼んで館林駅まで向かったのでした。


せっかくここまで来たのですから、近くの温泉で体を温めていきたいもの。
そこで館林駅から東武電車に乗った私は、羽生駅で途中下車し、羽生温泉「華のゆ」で掛け流しの良質な温泉を楽しませていただきました。ここを利用するのは5度目かな。いずれ拙ブログで取り上げたいと思っています。

<<参考>>
「赤岩渡船」(千代田町公式サイト内)

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