温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

大分市 いかりやま温泉 家族風呂

2020年09月04日 | 大分県
日本で一番低い山は宮城県仙台市の日和山で、その標高はわずか3メートルです。東京に限れば浅草の山谷堀と隅田川が合流する待乳山で標高は10メートルになるようです。翻って、山海の自然に恵まれた大分県で最も低い山は大分市内にある標高56メートルの碇山。仙台や東京に比べればはるかに高く、しかも神武天皇にまつわる伝説や松平忠直のお墓など、標高の低さに反して歴史的エピソードが多いので、数値的に低いと言っても決して侮れない山なのです。さて、この山の名前を冠する温泉入浴施設「いかりやま温泉」が次なる目的地です。


幹線道路から狭い路地を進んだ先にある、昭和な香りを強く放つ建物が「いかりやま温泉」。中央の丸い螺旋階段部分が特徴的です。一見するとアパートのようにも見えますが、その理由は後ほど。


建物の裏手には大きな貯湯タンクが設置されていました。自家源泉のお湯をここで一旦ストックしてから、館内の浴場へと供給しているのですね。


「源泉掛け流し」と書かれている玄関を入ると、館内は意外とこぢんまりしており、入ってすぐに番台がありました。私が訪問したのは夕方。駐車場の状況から推測するに、おそらく大浴場は混雑しているのだろうと考え、今回は家族風呂を利用することにしました。番台でその旨を伝えて900円(35分間)を支払い、部屋の鍵をもらって螺旋階段で2階へと上がります。


今回あてがわれたのは205号室です。2階には家族風呂が並んでいるため、外から見るとアパートのように見えたのでした。


室内はそこそこ広く、私のように一人で利用するとスペースを持て余しちゃう感じ。脱衣室には扇風機のほかエアコンも設置されているので、四季を通じて快適に利用できます。


室内には、なぜかヘルスメーターではなく台貫が置いてあったのですが、ばねが狂っているのか針はヘンテコな数字を指していました。


浴室も家族風呂にしては広い方かと思います。


シャワー付きカランは一つのみですが、カランから出てくるお湯は温泉です。一方、冷水は水道ではなく、地下150メートルから汲み上げた地下水なんだそうです。


タイル張りの浴槽は2人サイズ。私のような一人利用でしたら、セレブ気分でゆったり入れます。


貸切風呂には、常時お湯が張られている施設と、使用の都度にお湯を張り替える施設がありますが、こちらは前者。浴槽には常時温泉が投入されており、湯船に入ると勢いよくザバーッと音を立ててお湯が溢れ出ていきました。とっても豪快です。


浴槽の横にはお湯に関する説明が掲示されていました。これによれば当温泉は地下670メートルから汲み上げており、全てかけ流しの湯使い。約6500万年~1億3000万年前の堆積岩や古代植物の発酵(ママ)によって生まれた温泉で、大深度地熱温泉と呼ばれているんだとか。いわゆるモール泉と称されるタイプのお湯であり、浴槽のお湯は淡い琥珀色を呈しており、お湯をテイスティングするとほろ苦い味とともにアブラ臭のようなモール臭が感じ取れます。なお塩気はありません。湯船に浸かるとツルツルスベスベの滑らかな浴感が強く得られ、うら若き乙女はもちろん、むさ苦しいオッサンを含めた誰しもが美人になれること請け合いです。純粋な重曹泉であることのほか、炭酸イオンが30mgも含まれていることが、この滑らかな浴感をもたらしている要因かと思われます。しかもお湯が常に大量投入されているので鮮度感も良好。実に素晴らしいお湯です。

碇山は確かに県下で最も低い山かもしれませんが、極上のお湯に浸かれたおかげで、私の気分は富士山を上回る高さまで高揚しました。おすすめです。


ナトリウム-炭酸水素塩温泉 46.5℃ pH8.6 130L/min(動力揚湯) 溶存物質1.273g/kg 成分総計1.273g/kg
Na+:326.3mg,
Cl-:108.6mg, HCO3-:684.0mg, CO3--:30.0mg,
H2SiO3:95.0mg,
加温・循環・消毒なし
夏季に地下水を加水することあり

大分県大分市大字片島577-3
097-569-5648

14:30~22:30 第1火曜定休(祝日は営業)
一般入浴380円
家族風呂900円/35分、1200円/1時間、延長30分500円

私の好み:★★★
コメント (8)
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みやざき郷温泉

2020年08月28日 | 大分県

大分県で温泉が多い街といえばまず別府や湯布院を思い浮かべますが、県庁所在地である大分市だって街のあちこちに温泉浴場がある温泉都市なのです。今回取り上げるのは、ロードサイド店舗が建ち並ぶ国道10号線から細い路地を入った先に位置する「みやざき郷温泉」です。車一台通るのがやっとな感じの狭隘な路地を進み、看板に従って角を曲がって更に奥へ向かうと・・・


路地の右手に上画像のような小さい木造湯屋が建っています。湯屋の前には駐車場があり、3~4台は止められるスペースがあったように記憶しています(もう少し狭かったかな)。また駐車場の片隅にはに源泉があり、揚湯ポンプの音を辺りに響かせています。この音を耳にして「ここで汲み上げたお湯に今から入るんだ」とワクワクしちゃうのは温泉マニアゆえの性でしょうか。
こちらの施設は2015年にオープンした比較的新しい温泉。事前に調べた情報だとこの湯屋は無人であり、100円玉3枚を機械に投入して出入口のドアを開ける(開錠)するとのことでしたが、訪問時には玄関前の受付小屋にスタッフの方(オーナーのご家族?)がいらっしゃり、入館しようとする私にスタンプカードをすすめてくださいました(でも旅の身ですから丁重にお断りしました)。


男女別の入口から中へ上がってすぐのところにある檜造りの脱衣室はこぢんまりしていますが、扇風機・ドライヤー・松竹錠付きロッカーと、狭いながらもありと備品類は充実しています。お客さんに対するオーナーさんの温かい心遣いが伝わってくるようです。


建物の外観から想像できるように浴室もかなりコンパクト。タイル張りの室内は3人も入ればいっぱいになってしまいます。まるで民宿のお風呂みたい。洗い場にはシャワーが2つ並んでおり、カランからはボイラーの沸かし湯が吐出されます。入浴料金300円という安さにもかかわらず、こちらの洗い場にはちゃんとボディーソープが備え付けられているのですから感心してしまいます。脱衣室の備品同様にオーナーさんの気持ちが表れているのでしょう。


浴槽は石板張りの2人サイズ。上述の源泉で汲み上げられたお湯は、塩ビの先から浴槽へ投入されており、私が湯船に入るとお湯は勢いよくザバーっと豪快に洗い場の床へと溢れ出てゆきました。実に贅沢な感覚です。小細工は一切ない完全かけ流しの湯使いです。湯口の先には異物を漉し取るための布が巻き付けられていますが、それでも湯舟の中には褐色の浮遊物ちらほら舞っていました。適温のお湯は淡い黄色の透明で、塩味がある一方、匂いはあまり嗅ぎ取れません。分析表によれば食塩と重曹がこの温泉の主成分ですが、炭酸イオンが37.8mgと多く含まれているため、ツルスベ感の強い滑らかな浴感が大変印象的です。

小さい湯屋ながらも随所からオーナーさんの温かい心遣いが伝わってきますし、且つお風呂では完全かけ流しの素晴らしいお湯に浸かれるという、実に素晴らしい温泉浴場でした。観光地とは無縁の住宅地ですし、その上わかりにくい立地ですから、利用客は地元住民の方がメインかと思いますが、もし界隈を訪ねることがありましたら、お立ち寄りになってください。おすすめです。


ナトリウム-塩化物温泉 43.0℃ pH8.5 湧出量測定せず(750m掘削動力揚湯) 溶存物質2.760g/kg 成分総計2.760g/kg
Na+:879.0mg(95.29mval%), Ca++:15.6mg,
Cl-:833.0mg(59.74mval%), Br-:2.0mg, HCO3-:886.0mg(36.91mval%), CO3--:37.8mg,
H2SiO3:69.2mg, HBO2:16.5mg,
(平成27年3月25日)

大分県大分市大字宮崎1042
097-569-2040

14:00~22:00 休業日不明
300円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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大在温泉 ビジネスホテルニューおおざい(公衆浴場)

2020年08月21日 | 大分県

大分市東部の大在駅周辺へやってきました。豊後水道を臨むこのエリアには住宅地が広がっているほか、沿岸部は臨海工業地帯となっている一方、特段これといった観光名所は無いため、私のような県外の観光客が物見遊山で来るような場所ではありません。しかしながら、このような場所でも温泉が湧いているのが温泉県を自称する大分県のすごいところ。このエリアで今回私が訪ねたのは「ビジネスホテル ニューおおざい」です。その名の通りビジネスホテルなのですが、公衆浴場も併設しており、かけ流しの温泉に入れるらしいので、公衆浴場を利用すべく足を運んでみました。


ホテルと公衆浴場の玄関は別になっています。上画像に写っている温泉マークの玄関が公衆浴場用。
玄関に設置されている券売機で料金を支払い、発券されたチケットをカウンターに差し出します。このカウンターはホテルのフロントを兼ねているようでしたが、訪問時、受付のおばちゃんは常連さんとのお話に夢中で、私の来訪には気づいていないようでした。お喋りの邪魔をするのは忍びなかったので、声を掛けずに券を出してそのまま浴場へ移ってしまったのですが、果たしてそれで大丈夫だったのかしら。

築年数がかなり経っている建物らしく、外観もさることながら、脱衣室は輪をかけて草臥れています。とはいえ及び腰になるような状況ではなく、棚と洗面台があるだけのシンプルな室内ですので、さっさと着替えて浴室へ移動しちゃえば特に気になることはないでしょう。


当然ながら浴室も古さが露わで天井も低く、しかも窓外のすぐ目の前には隣家の壁が立ちはだかっているため、圧迫感は否めません。一方、浴室内にはサウナがあり、水風呂も用意されていますので、苦悶の表情を浮かべながら汗を流したいマゾなお父さん達にはうれしい設備と言えましょう。


洗い場は島のようになっていてシャワー付きカランが計4つ取り付けられています。


シャワーから出てくるお湯は温泉ですよ。なお備え付けのボディーソープやシャンプーはありませんので、あらかじめ用意しておきましょう。


浴槽は石造りで10人は入れそうな大きさを有しています。浴槽のお湯は薄い黄色を帯びながら微濁しており、浴槽まわりは温泉成分の付着によりアイボリー色に染まっていました。湯加減は適温。浴槽縁からしっかりオーバーフローしています。


岩組みの湯口から温泉が落とされており、その周りはトゲトゲした析出で覆われていました。大分市内の温泉はモール泉かそれに近いタイプのお湯が多いのですが、市街から離れた沿岸部だからか、こちらのお湯は毛色が全く異なる海水由来の泉質です。湯口のお湯をテイスティングしてみますと、しっかりとした塩味の上に少々の苦汁味も確認でき、またアブラ臭が少々感じられました。しょっぱいお湯ですので、入浴後はパワフルに火照ります。

観光とは縁遠い場所ですので、わざわざ旅行の際に立ち寄るような温泉ではないような気もしますが、とてもリーズナブルに宿泊できるようですから、安く泊まってかけ流しの温泉にも入りたいのでしたらこちらの利用を検討してみるのも良いかもしれません。


ナトリウム-塩化物温泉 47.1℃ pH8.0 湧出量不明(動力揚湯) 溶存物質4.552g/kg 成分総計4.554g/kg
Na+:1493mg(92.96mval%), NH4+:1.6mg, Mg++:2.9mg, Ca++:23.6mg,
Cl-:1951mg(81.68mval%), Br-:1.8mg, HCO3-:747.2mg(18.18mval%),
H2SiO3:164.1mg, HBO2:33.5mg,
(2019年8月1日)

大分県大分市大在北1-4-7
097-522-4181
ホームページ

公衆浴場11:00~23:00
300円
ドライヤーあり、他備品類無し

私の好み:★★
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大分市内 天然町温泉

2020年08月14日 | 大分県
九州をはじめ各地に甚大を被害をもたらした令和2年7月豪雨で被害に遭われた方々に衷心よりお見舞い申し上げます。罹災者の方々に一日も早く日常が戻ることをお祈り申し上げます。
COVID-19の感染が一刻も早く鎮まることを祈念すると同時に、再び九州各地で楽しく旅ができる日が早く来るようにという願いも込めまして、拙ブログでは今回から九州の温泉を取り上げてまいります。なお今回以降で取り上げる九州の各温泉は、2019年12月に訪問致しました。まだ数ヶ月しか経過していませんが、当時と変わらぬ場所もあれば、様子が全く異なってしまった箇所もあるかと存じます。その点につきましては何卒ご了承くださいませ。



大分市近郊の住宅地にやってまいりました。周囲には住宅地が広がり、幹線道路に沿ってロードサイド店舗が立ち並ぶ典型的な近郊市街地です。決して観光目的で立ち寄るような場所ではありません。
画像には大きなマンションが写っていますが、画像中央に小さく写っている幟をよく見てみますと・・・


裏返っていますが「天然町温泉」と赤い文字で記されていることがわかります。もちろん、マンションで温泉に入れるわけではありません。ではどこに行けば良いのかと言うと・・・


駐車場の一番奥に小さな湯屋が建てられているのでした。マンションの奥に建てられている湯屋なので、マンションの住民専用や地元民向けの浴場なのかと思いきや、私のような余所者を含め誰でも利用できる一般的な温泉共同浴場です。


温泉巡りを趣味としている方なら、この小さな湯屋を見て察することができるでしょうけど、こちらの浴場は管理人が常駐しない無人の施設です。利用の際にはドア横に設置されているコインタイマーに100円玉を3枚投入して開錠させます。このタイマーが開錠してくれる時間は僅か10秒。ボヤボヤしているとすぐ閉まってお金を無駄にしてしまいますので、100円玉を入れたらすぐにノブに手を掛けてドアを開けましょう。
脱衣室は綺麗に清掃されており、また扇風機やエアコンなどの設備も整っていて、無人なのに備品類が充実しています。


浴室はシンプルな造りで、壁には木材町の樹脂製壁材、床にはお手入れのしやすい樹脂製床材が採用されています。イニシャルコスト優先で作られたと思しきこうした造りは、場所こそ全然違いますが、群馬県吾妻地方の八ッ場ダム周辺に設けられた各所の仮設温泉浴場を彷彿とさせます。男湯の場合、入って右側に洗い場が配置され、シャワー付きカランが3つ並んでいます。シャワーから出てくるお湯は水道の沸かし湯です(湯屋の裏にボイラーがあります)。なお洗い場に石鹸やシャンプー類の備え付けはありません。利用の際は必ず持参しましょう。

浴槽は(目測で)1.8m×2.4mの4人サイズ。簡素なモルタル造りながら縁に石材が用いされており、温泉らしいワンポイントになっています。温泉は塩ビ管から投入されており、浴槽縁の切り欠けよりしっかり溢れ出ています。純然たるかけ流しの湯使いです。


お湯は赤みが強い紅茶色を呈しており、湯中ではベージュの浮遊物が比較的目立っています。湯口のお湯を手に取って口に含んでみますと重曹のほろ苦味が感じられ、インクのような鉱物臭と燻したような香りが鼻へ抜けていきました。大分市内にはモール泉系の温泉が多くみられますが、こちらもその典型例と言えるでしょう。
分析表を見ますと炭酸イオンが多く含まれており、その影響なのか湯船に浸かると全身がツルスベの滑らかな浴感に包まれます。その一方で食塩も含まれているため、しっかり温まります。ツルスベ滑らかと温浴効果を兼ね備えた、実に良いお湯です。常連さんにお話を伺ったところ、こちらのお湯は日によって湯加減が上下するそうですが、タイミングが良かったのか、私の訪問時は非常に心地よい温度が維持されていました。

気兼ねなく良い温泉へ入れる浴場ゆえ、私の利用時も次々にお客さんがやってきました。住宅地の中で小さく佇む知る人ぞ知る素敵な温泉共同浴場です。


天然温泉
ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 51.9℃ pH8.9 湧出量測定せず(掘削800m動力揚湯) 溶存物質10.34g/kg 成分総計1.034g/kg
Na+:257.0mg(90.60mval%),
Cl-:160.0mg(37.55mval%), OH-:0.1mg, HS-:0.8mg, S2O3--:0.4mg, HCO3-:339.0mg(46.29mval%), CO3-::35.4mg,
H2SiO3:181.0mg,
(平成26年10月20日)

大分県大分市明野北5-1681-77

6:30~10:00、12:00~22:00
300円
ドライヤーあり、石鹸類・ロッカーなし

私の好み:★★+0.5
コメント (2)
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上恵良温泉

2017年03月09日 | 大分県
 
先日取り上げた「院内余温泉」の湯船に浸かりながらお客さん達とお喋りしていると、常連さんから「そういえば、上恵良温泉って最近行ってないなぁ」「俺もだよ。どうなってるんだろうね」という話題が上がりました。曰く、かつて皆さんは同じ院内町にある上恵良温泉へよく行っていたそうですが、お風呂を管理しているおばあちゃんが体調を崩して以来、最近は皆さん足が遠のいてしまったんだとか。その温泉の名前は私も存じ上げており、ネット上でも温泉ファンによって多くのレポートが上がっていることも目にしていましたが、皆さんの言葉が気になったので、実際に訪れてみることにしました。
国道387号から県道409号に入って南下してゆくと、程なくして沿道の左手に上画像の大きな湯屋が目に入ってきました。駐車場の片隅には球体の大きなタンクも建っており、切妻のおでこに温泉マークを掲げる木造の湯屋と相まって、いかにも温泉施設らしい風情を醸し出しています。


 
県道を挟んだ反対側には、食料品などを扱う酒屋さん、そして温泉名を掲示した「休憩所」なる建物が、まるで長屋のように連なっているのですが、この酒屋さんこそ温泉の運営主体であり、「休憩所」は文字通り休憩所としての他、素泊まり専用の簡易宿泊施設としての機能を兼ね備えているんだそうです。しかしながら私が訪問した時、酒屋さんの店内には誰もおらず品数もわずか。休憩所も長い間にわたって閉ざされているような気配が感じられ、現在でも宿泊業を行なっているかは不明です。



湯屋の玄関を入ってすぐのところにある番台にはどなたもいらっしゃいません。しかしながら、カウンターの上には電話機が置かれており「温泉入浴のお客様 電話の受話器を取って1か2を押して下さい」と案内されていましたので、その説明に従って内線電話をかけたのですが、受話器から呼び出し音は鳴っているものの、全く応答が無い…。どうしたものかと酒屋さんの方へ行ってみますと、酒屋さんや休憩所が並ぶ建物の右側に立派な母屋があり、そこからセニアカーに乗ったお婆ちゃんがゆっくりとやってきたのでした。「院内余温泉」の常連さんが話していたように、温泉を管理するお婆ちゃんは本当に体調を崩したそうで、今では元気になったものの、足腰が衰えてしまい、セニアカーのお世話になっているようでした。お婆ちゃんは笑顔で対応してくださり、お風呂まで案内してくださったのですが、そんな事情を存じ上げなかったとはいえ、お婆ちゃんには余計な手間をとらせてしまい、申し訳ないことをしてしまいました。お婆ちゃん、ごめんなさい。なお、お婆ちゃん曰く、お風呂に入るだけなら、わざわざ呼び出さなくても番台の上に湯銭を置いて勝手に入って良いんですよ、とのことです。


 
板の間の脱衣室はまずまずの広さ。独立した部屋というより、後述する浴室の一角をパーテーションで仕切っただけのような造りですが、ロッカー・洗面台・ドライヤー・扇風機など、ひと通りの備品も揃っており、使い勝手に問題ありません。


 
浴室は外観から受ける想像をはるかに上回る広さがあるのですが、そもそも内湯として建築したというよりは、大きな露天風呂の上に屋根を載せたような感じで、しかも手作り感が強く、浴室全体にそこはかとないB級感が漂っています。広い室内の床はコンクリ打ちっ放し。浴槽の向こう側には田園風景が広がっているのですが、浴室と屋外を隔てているのは、窓ガラスではなく、畑の温室で使うような農業用の透明ビニールシートが用いられており、このビニールシートがB級感をより一層高めていました。季節によってシートを取り払って露天風呂っぽくするのかな?
この窓ガラス代わりのビニールシート下には、広い空間を活かした大きな浴槽が据えられており、浴槽自体はコンクリ造ですが、岩で縁取られており、いわゆる岩風呂のような風情です。そして後述するように三分割されており、それぞれ温度が異なっていました。


 
浴室の広さに反して洗い場は小さく、シャワー付きのカランが3基のみ。カランから出てくるお湯は温泉です。


 
3分割されている浴槽のうち、最も西側の槽は5〜6人サイズで、この浴槽には水平方向に伸びるパイプから温泉が投入されていました。湯口における温度は54.6℃というなかなかの高温であり、このお湯を直接受けているため、湯船は私の体感で43℃前後の湯加減になっていました。
お湯は淡いジャスミンティーのような色を帯びた透明で、ご近所の「余温泉」と同じくミシン油のような風味があり、塩味は無いものの、少々のほろ苦味を有していました。そして感動するほどではないにせよ、湯中ではしっかりとしたツルスベ浴感が得られました。


 
左(上)の画像に写っている2つの浴槽は、湯口からお湯が直接供給されている熱い槽、そしてそこから流れてくるお湯を受けている真ん中の槽です。熱い浴槽以外には湯口が設けられていないらしく、しかも流量が少ないためか、受け湯オンリーの真ん中の槽では35℃くらいにまで下がっていました。
右(下)の画像は3つのうち最も大きな浴槽なのですが、お湯の流れとしては最下流にあたるため、私の訪問時には思いっきり冷めており、体感でも30℃あるかないかという入浴に適さないぬるさで、残念ながら無用の長物と化していました。



コンクリ打ちっ放しの広い室内には、上画像のような空っぽな浴槽もあったのですが、現在は使われておらず、観葉植物が置かれているばかり。
というわけで、浴室は広く、浴槽も大きいのですが、実質的に入浴に適しているのは、湯口から直接お湯が注がれている5〜6人サイズの浴槽ひとつだけ。せっかくのスペースや規模を持て余しているようでした。


 
湯屋の内部には、上述の大浴場のほか家族風呂もあり、中を覗いてみると立派な岩風呂がお湯を湛えていました。窓ガラス代わりにビニールシートが張られている点は大浴場と同じですが、広い室内には岩が屹立した大きなお風呂が設けられており、家族風呂にしては随分立派です。でも松竹梅とネーミングされた各部屋のうち、お湯が張られていたのは「梅」のみで、他の部屋はカーテンが閉められていました。また、画像には写していませんが、これら松竹梅の他、通路の奥には「めじろ」「うぐいす」といったさらに別の貸切風呂もあったのですが、こちらは空っぽで、しかも長年使われていない様子でした。
お身体が思う通りに動かなくなったおばあちゃんにとって、これら広いお風呂の管理は厳しいものがあるのでしょう。それゆえ、お客が使える範囲を縮小しているのかもしれません。邪推かもしれませんが、「余温泉」でお会いした常連さんの足がこちらから遠のいてしまったのも、そのあたりに理由があるのだろうと推測されます。私が訪問したのは、本来ならば1日の汗を流しに来る客で賑わってよいはずの夕方でしたが、私の他には客が来ず、始終独占できてしまいました。お湯は決して悪くないのですが、斜陽な雰囲気を濃く漂わせているその寂しさに、一見の客の私でも一抹の不安を覚え、この温泉の先行きに暗雲が立ち込めているような感を拭うことができませんでした。是非とも形勢逆転となるような契機に恵まれることを祈っています。


単純温泉 50.0℃ pH8.2 58.2L/min(動力揚湯・掘削700m) 溶存物質0.746g/kg 成分総計0.747g/kg
Na+:224.0mg(90.35mval%), Mg++:2.3mg, Ca++:6.3mg,
Cl-:210.1mg(58.48mval%), SO4--:29.0mg, HCO3-:155.9mg(25.25mval%), CO3--:22.9mg,
H2SiO3:69.7mg, CO2:1.6mg,
(平成10年9月17日)

大分県宇佐市院内町上恵良780  地図
0978-42-5875

夏→11:00〜21:00、冬→11:00〜20:00 木曜定休
300円
ロッカー(有料100円)・石鹸・ドライヤーあり

私の好み:★★
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