岩手県西和賀町の旧湯田町域には点在するいくつかの温泉地によって形成されている湯田温泉郷があります。JR北上線に「ほっとゆだ」という変わった名前の駅があり、駅舎には温泉浴場が併設されているので、その異色な駅によってある程度は知名度があるのかもしれませんが、いずれも地味でひっそりとしたところです。
ほっとゆだ駅から県道215号線を南下し、廃山になった土畑鉱山を左に見ながら進んでゆくと、やがてたどり着くのがに湯川温泉です。湯田温泉郷の中では最も歴史があるとされており、それゆえか、湯川温泉は湯田温泉郷の中で最も多く旅館を擁しているのですが、ならば外湯はないものかとウロウロしていたら、温泉街の手前の集落に架かる橋の下にそれらしき小屋を発見。一見すると農機具小屋のようですが、ホースが導かれているので湯小屋であると想像がつきます(温泉巡りを繰り返してきた私の勘です)。
左:30年ほど前に廃山となった土畑鉱山
右:橋の下の川端に建っている湯小屋
扉を開けようとすると鍵がかかっていたので、一か八か、その小屋に隣接する民家に伺ってみることにしました。声をかけると中から初老の奥さんが出てきてくださり、曰くあの小屋は地元民専用の浴場であるとの返答。やはりそうでしたか。入れていただけないかと切り出してみると、快く承諾してくださいました。100円と引き換えに鍵を受け取り、改めて川端の小屋へ。鍵を開けて中に入ると、コンクリ製方形の浴槽だけという極めてシンプルな浴室がそこにありました。渋い共同浴場が好きな温泉マニアの方にはたまらない雰囲気です。
お湯は無色澄明無臭で薄らと硫酸塩的な味が感じられ、お湯の中では茶色い小さな粒状のちらほら湯華が浮遊しています。地元民専用の共同浴場にしては大きめな湯船で、5~6人は入れそう。肌に優しく癖のないお湯で、いつまでも長湯していたくなる絶妙な湯加減。余計なものは何一つなく、すぐそこを流れる川面すら眺めることはできません。薄暗い小屋の中に据えられた浴槽へ、絶え間なくお湯が注がれ、その音が響くだけの静かな空間。お湯を堪能するためだけにある質素な小屋です。
塩ビのパイプから注がれるお湯。「許可なく勝手に排湯栓及び給湯パイプ等を抜き取らないで下さい」と書かれた札が立てかけられている。
お湯からあがり、鍵を返しに先ほどのおばさんを訪ねると「(お湯は)どうでしたか。また来てください」と仰ってくださいました。どこの馬の骨だかわからないような者にもかかわらず、快く入湯を許して下さり、その上再訪ウェルカムな言葉まで頂戴できるとは、まさに予想外で、非常に感激し、心の底から感謝しました。この集落の浴場がいつまでも地元の方に愛され続けることを願ってやみません。
温泉分析表の掲示なし
岩手県和賀郡西和賀町湯川
地元の方専用の浴場なので、詳細な場所は記しません。ヒントとして以下のキーワードを紹介しておきます
・旅館「四季彩の宿」先にある集落
・橋の下、小さな神社の近く
・出戸の湯バス停そば
100円 入浴可能時間は昼間だそうです(昼以外は地元専用)
必ず湯小屋隣の民家を訪ねて許可を得てください。
私の好み:★★★