温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

川浦温泉 山県館(前編 せせらぎ之湯)

2021年05月01日 | 山梨県
(2021年5月現在、日帰り入浴は中止しています)


(2020年8月訪問)
山梨県は知る人ぞ知る名湯の宝庫。私は甲州での湯めぐりが大好きなので、年に数回は山梨県へ出かけます。さて今回は国道140号「雁坂みち」に沿って位置する老舗旅館「山県館」で日帰り入浴を楽しんでまいりました。ちなみに宿名の山県とは武田の家臣なんだそうで、こちらは武田信玄の隠し湯の一つとされています。以前も拙ブログで申し上げたことがありますが、信玄の隠し湯と称する温泉や鉱泉は山梨県を中心に各地に点在しており、その多さにちっとも隠していないのではと疑い深い私は下衆の勘繰りをしてしまいます。


敷地内には温泉スタンドが設置されており、ホースが2本あって、それぞれに別の源泉名が付けられています。つまり源泉が二つあるんですね。どんなお湯に出会えるか楽しみです。

さて、玄関入って下足し、まっすぐ歩いて正面に構えるフロントで日帰り入浴をお願いしますと、スタッフの方が快く受け入れてくださいました。湯銭と引き換えにレンタルのフェイスタオルを手渡してくださいます(なお、タオルが不必要でしたら受け取らなくても構いません)。


フロントは2階、お風呂は1階です。フロントで受付を済ませたら、階段かエレベーターで1階へ下りましょう。
館内の内湯には「薬師の湯」と「せせらぎ之湯」の2種類があり、男女入れ替え制となっています。階段を下りてすぐのところにある「薬師の湯」は、私の訪問時には女湯の暖簾が下がっていましたので、さらに進んで「せせらぎ之湯」を目指しました。


廊下の途中には水琴窟が設えられていたので、足を止めて耳を澄ませ、美しい音色を楽しみました。


廊下を延々歩いた最奥から一旦屋外へ出て、露天風呂「信玄岩風呂」への分岐を通り過ぎると、大浴場「せせらぎ之湯」にたどり着きました。なお信玄岩風呂については次回記事で取り上げます。


「せせらぎ之湯」は見晴らしの良い場所に位置しており、出入口の前にはちょっとした小庭があって、周囲の景色を展望することができます。


「せせらぎ之湯」の引き戸を開けて中に入ると、このような畳敷きの休憩部屋が広がっているのですが、一旦ここを通過して・・・


脱衣室へ向かいます。室内はとても綺麗で清掃もよく行き届いており、気持ちよく使うことができました。広い室内には貴重品用ロッカーのほか、籠もたくさん用意されており、ドライヤーも4台ほど備え付けられているので、多客時でもあまり混雑を感じることはないでしょう。私の訪問時は猛暑の只中で、街中では35℃近い地獄のような暑さだったのですが、奥秩父山塊の山麓に位置するこちらの温泉には冷涼なそよ風が吹いているため、設置されているエアコンを運転させなくとも、窓から入る風と扇風機だけで十分快適な環境でした。
暑い日には都会で冷房漬けにならず、標高の高い場所へ避暑すべきですね。


浴室も広くて明るく、高いところにあるので見晴らし良好です。主浴槽も大きな造りをしており、その寸法は目測で2m×6.5mほどでしょうか。大きなお風呂にザバンと浸かると、浮世の憂さも忽ち霧消することでしょう。




洗い場にはシャワー付きカランが一列に7基並んでいます。館内掲示にもあるように、シャワーのお湯には源泉が使われており、お湯からは弱い卵感(硫黄感)が得られました。頭からタマゴ感を有するお湯を被ると、とっても幸せな気分に浸れます。私なんて他にお客さんがいなかったことを幸いに、シャンプーを終えた後も、口を半開きにしながら、ひたすら頭からシャワーの温泉を被りつづけ、全身で感じる温泉由来の硫黄の味や匂いに恍惚としていました。もしその光景を他人が見たら、相当訝しく思うに違いありません。


「せせらぎ之湯」の内湯浴槽では、2つある源泉のうち昔から使われている1号泉を使用しており、浴槽の中央に据え付けられている南瓜をかたどった石の湯口から、ポコポコとふんだんに投入されていました。永禄4年(1561年)5月10日に武田信玄が開発を命じたとされるこの源泉は、分析表によれば湧出温度は38.9℃と表記されているのですが、私が実際に入った時には42℃近くあったように記憶しています。湧出温度が上がったのか、あるいは加温しているのか、いずれかでしょう。

ところで、冒頭でこの温泉は信玄の隠し湯と称されていることをご紹介しました。一般的に、信玄の隠し湯と呼ばれている温泉は、ぬるいか冷鉱泉のいずれである場合が多いのですが、上述の通りこちらは珍しく40℃前後で湧出しており、季節によっては加温することなく浴用に供用できるでしょう。


湯船を満たしたお湯は、浴槽の縁から惜しげもなくオーバーフローしています。加水循環消毒のない純然たるかけ流しの湯使いです。お湯の見た目は無色透明で、湯舟に浸かるとヌルヌルというほどではないにせよ、アルカリ性泉らしいツルツルスベスベの滑らかな浴感が楽しめます。歴史のある1号泉は、実に気持ち良い極上の名湯です。


浴室の角には飲泉場もあり、お湯を飲むこともできます。いかにもアルカリ性単純泉らしい微収斂とほのかな苦味が感じられたのですが、タマゴ感は得られませんでした。浴槽の1号泉ではなく、後述する2号泉ではないかと思われます。


内湯の網戸を開けると露天風呂です。約2.5メートル四方の浴槽には若干ぬるめで長湯しやすい湯加減のお湯が張られていました。内湯ほどではありませんが、湯船のお湯はしっかりとオーバーフローしています。


石樋の湯口から注がれるお湯は平成2年に発掘された新しい2号泉です。1号泉と同じくアルカリ性単純泉であり、無色透明という見た目の特徴も同じなのですが、味、匂い、浴感、そのいずれも1号泉より若干薄いような気がします。特に硫黄感(タマゴ風味)はほとんどありませんでした。とはいえ、基本的な知覚的特徴は1号泉とほぼ同様です。


この露天風呂自体は建物の内側へ入り込んでいるのですが、高い場所にあるため、眺められる景色はなかなか良好で、奥秩父山塊の山深さを実感できます。何しろ渓流から離れた高い位置ですから、夏の露天風呂の大敵であるアブが来ませんし、そよ風も吹くので、実に快適です。

次回記事ではお宿ご自慢の露天風呂である「信玄岩風呂」を取り上げます。

次回に続く
コメント
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