温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

台湾南投県 福興温泉エリア(廬山温泉移転先)の現状

2023年02月10日 | 台湾
以前に拙ブログで何度か取り上げたことがある南投県の廬山温泉は、日本統治時代に富士温泉と呼ばれており、戦前から温泉地として有名な場所でした。しかし、急峻な地形が災いして何度も水害や地滑りなどの災害に襲われており、このまま営業を続けると甚大な被害が発生してしまうため、2012年には南投県政府が廬山温泉の廃止を決め、当地で営業している温泉旅館は、同じく南投県埔里近郊にある復興里の福興温泉エリアへ移転するよう、行政によって働きかけが行われました。しかし実際のところ、2023年1月の今日に至っても、旅館の移転は全く進んでいません。廬山温泉で経営する旅館の多くが許認可を受けていないため、移転に際して補償など一切受けられないためです。このあたりの事情は以前に拙ブログで取り上げていますので、よろしければ2013年の記事もご参照ください。2013年当時、廬山温泉で旅館を経営する27業者のうち、行政からの認可を受けて営業しているのはわずか6軒にすぎず、他21業者は無認可(台湾では非合法と称している)経営であるため、移転にあたっての補償が得られず、多くの業者は温泉街の閉鎖に反対していたのでした。廃止が決定されてから10年が経った2013年1月現在も廬山温泉の各温泉旅館は営業を続けており、行政サイドの掛け声はどこ吹く風といった状況です。

では、移転先として地元自治体が整備を進めているはずの福興温泉エリアは、現在どのようになっているのでしょうか。疑問を抱いた私は、実際に現地へ赴いて自分の目で確かめてきました。


まず場所を確認しましょう。
福興温泉エリアは南投県埔里の郊外北部に位置しており、街の中心部にある埔里バスターミナルから車で10分強(6km強)ほど離れています。徒歩だと1時間半弱といったところでしょうか。後述しますが、周囲にはまだ何も無く、観光需要はまだ全く見込めないため、福興地区へ行く路線バスは一日3便しか運行されていません。


私はレンタカーで当地へとやってまいりました。一応、遊客中心(インフォメーションセンター)は建てられているのですが・・・


ドアは固く閉ざされており中に入ることはできません。ドアの窓から館内を覗いてみると、観光の説明プレートが数枚置かれているだけで、観光客を相手に何か業務しているような形跡は全く見当たりません。


遊客中心の周囲は荒涼とした空き地が広がるばかり。単なる空き地ではなく、道路が整備されていますから、行政によって区画整理が実施された後の空き地であることがわかるのですが・・・


遊客中心に隣接する産直物販所も使われておらず・・・


建物前には立派な案内図こそ立っていますが・・・


遊客中心の前に置かれていたはずの車止めがひっくり返ったままになっていたり・・・


急須をイメージしていると思しきキャラクターが色褪せてボロボロになっていたりと、この荒れた有り様が福興温泉エリアの現状を端的に物語っているようでした。つまり完全に放置されているのです。


案内所からちょっと離れたところには、本来ならば足湯を楽しめるはずの公園が整備されているのですが、肝心の足湯は空っぽの状態で・・・


せっかく整備されているのに利用する人は皆無。


足湯の前に設置されている温泉の効能を説明するプレートの文言が妙に虚しく見えてしまいました。しかもこの写真を撮っていると、近所で放し飼いにされている犬が大声で吠えながらこちらを威嚇してくるので、仕方なく早々に退散せざるを得ませんでした。


とにかく空き地ばかりが広がっています。
現時点(2023年1月)で、福興温泉エリアで営業している温泉宿や施設は一軒もありません。


一部の区画は塀で囲まれていましたが、何か工事が進められているような状況ではありませんでした。意外なことに、地元の方のお話によれば、行政によって整備された福興温泉エリアの土地のほとんどは買い手がついているそうですから、単に荒れた空き地ではなく、将来的には土地所有者かもしくはその転売先によって、何かしらの施設が建てられるのでしょうね。オーナーたちはタイミングを見計らっているのでしょうか。


道路も綺麗に整備されていますが、誰も通らないのでエリア内の信号の多くは消されていました。なおこの福興温泉の開発整備のために投じられた金額は33億元(約132億円)なんだとか。


ここまで何も無いと、本当にこの地は温泉郷として利用されるのだろうかという疑問が湧いてきますが、どうやらこの地では本当に温泉が湧いているようなのです。エリアの端っこの方を散策していると、自来水、つまり上水道の施設に行き当たったのですが・・・


その施設内には上画像のような巨大タンクと、タンク上部へ設置された4本の配管があり、配管には左から「4號温泉井」「2號温泉井」「1號温泉井」「3號温泉井」と書かれているのを発見したのです。日本と同じく当地でも地下深くまでボーリングすることによって温泉を掘削することができ、少なくとも福興温泉エリアでは4本の源泉井の掘削に成功しているものと推測されます。上画像のタンクはポンプアップした温泉をストックするための貯湯槽かと思われます。上述の足湯公園の他、空き地に建てられるであろう温泉施設には、ここで汲み上げられて一旦ストックされた温泉が供給されるのでしょう。でも、その日が来るのは果たしていつになることやら・・・。

ちょっと古い記事ですが、2018年6月8日付「民報」では試掘に成功して実際に44℃の温泉が出ている様子を撮影した画像が掲載されています。
2022年12月14日付「自由時報」の記事によりますと、温泉用地として整備された土地は55ヘクタールを超え、4本の源泉井からは日量2600トンの温泉が汲み上げられるんだとか。
また、ネット版「聯合報」2022年12月1日付の記事によれば、地元自治体は「能高温泉ホテル」という名前の施設に当地としては初めての建設許可を与えたとのこと。この「能高温泉ホテル」は地下1階・地上4階建で客室数は計39部屋、1階に露天風呂が設けられる計画だそうです。

でもほとんど手が付けられていない広大な空き地を目にした私の実感としては、本当にこの地が温泉郷として花開くのか大いに疑問です。周囲にこれといった名勝等が無く、市街地から中途半端に離れているのに自然が豊かというわけでも無く、しかも公共交通機関の便は良くないので、観光地として人を集める要素に欠けるのです。

もっとも、付近には中台禅寺という巨大な寺院があり、コロナ禍の前はこの寺院へ中国大陸から大量の観光客がやってきていましたから、コロナ禍が落ち着いて中国大陸からの観光流入が再開すれば、高速道路のインターチェンジから比較的近いという立地を生かし、バスでやってくる中国人団体客を受け入れることによって、将来的には意外にも商売が成り立つのかもしれませんね。
ただ一方で廬山温泉の移転は全く進んでいないので、福興温泉エリアは本来の目的である廬山温泉の移転とは無関係に整備が続けられてゆくのかもしれません。

拙ブログでは引き続き廬山温泉と福興温泉の動向を追跡してまいります。

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