【写真】あざやかな黄金色、まるでバラみたい!八重咲きのヤマブキ
【山吹(ヤマブキ)】江戸城をたてた太田道灌の運命の花。歴史に名を残すきっかけは、農家の娘が渡した1本の切り枝だった(田中修 2022/05/29 14:00)
日本の草花を四季に応じて紹介する『日本の花を愛おしむ 令和の四季の楽しみ方』(著:田中修 絵:朝生ゆりこ 中央公論新社刊)から、いまの季節を彩る身近な植物を取り上げ、楽しく解説します。
今回のテーマは「【山吹】」です。
英語名は、「ジャパニーズ・ローズ」
いくつかの植物が、「日本のバラ」を意味する英語名で、「ジャパニーズ・ローズ」とよばれます。この名称は、ツバキ、ノイバラ、ハマナスに使われるのですが、5月ごろに花を咲かせるヤマブキも、この名前でよばれることがあります。
春に、この植物には、あざやかな黄金色の花が咲きます。この花がバラのような印象をもたらすのです。
この植物の学名は、「ケリア ヤポニカ」です。「ケリア」という属名は、スコットランドの植物学者ウイリアム・ケリの名前に由来し、「ヤポニカ」は、日本生まれを意味しています。
太田道灌は蓑を貸してと頼んだはずが
この植物では、江戸城を建てた太田道灌(おおたどうかん)が勉学に励むきっかけになったという、次のような逸話が語り継がれています。
室町時代、武将であった太田道灌が、鷹狩りの下調べのため山に入りました。季節は、春でした。ところが、山道でひどい雨が突然に降り出してきました。彼は、山道沿いにぽつんとあったひなびた農家の軒に身を寄せて、雨が止むのを待ちました。しかし、雨はいっこうにおさまる様子はありません。そこで、家の中に人の気配がしていたので、彼は声をかけました。
戸が開き、一人の娘が静かに姿を現しました。道灌は事情を説明し、「雨よけに、蓑(みの)を貸してもらえないか」と頼みました。蓑は、雨をよけるために身に着けるものであり、現在なら、「傘かレインコートを貸してほしい」と頼んだことになります。
© 婦人公論.jp 太田道灌の像
応対して話を聞き終わった娘は、黙って一礼をして、家の奥に姿を消しました。道灌は、蓑を貸してもらえるものと思いました。ところが、しばらくして、再び現れた娘の手には、蓑ではなく、一本の切り枝が握られていました。
枝には、あざやかな八重(やえ)のヤマブキの花が咲いていました。娘は、道灌に丁寧に一礼をして、黙ってヤマブキの枝を差し出しました。道灌には、意味がわかりませんでした。「なぜ、蓑を借りたいと頼んだのに、ヤマブキの花の枝なのか」と合点がいきませんでした。
八重咲きのヤマブキは実をつけない
しかし、娘の落ち着いた立ち居振る舞いと、毅然とした風情に、気持ちが圧倒されてしまい、道灌は、黙って差し出された枝を受け取り、その場を立ち去らざるを得ませんでした。彼は、どしゃぶりの雨の中を、城まで濡れながら急いで帰りました。
道灌は、持ち帰ったヤマブキの一枝を部屋の花瓶に生け、訪ねてくる人ごとに、その枝を見せながら、できごとの一部始終を語りました。それを聞き終わって、多くの人は、道灌と同じように、「どういうことなのか、わけがわからない」という様子でした。
ところが、あるとき、詩歌に秀でた歌人であった客が、話を聞き終わったあと、筆を手に取り、すらすらと和紙に兼明親王(かねあきらしんのう)の歌を書いて、道灌に差し出しました。「七重八重(ななえやえ) 花は咲けども 山吹の 実の一つだに なきぞ悲しき」と書かれていました。
この歌には、詠んだ人の深い気持ちが込められているのでしょう。その気持ちはさておき、この歌には、「八重咲きのヤマブキの花は、実をつけることがない」というヤマブキの性質が詠み込まれていました。
多くの植物で八重咲きの品種がつくられていますが、多くの場合、八重咲きの花は、オシベやメシベが花びらに変化したものです。だから、オシベがなかったり、メシベがなかったりすることが多いのです。
八重咲きのヤマブキも、オシベが花びらに変化して八重になっており、メシベが退化しているために、実をつけることがありません。
娘の差し出した花の深い意味
道灌は、差し出された歌を読んで、ハッとしました。合点のいかなかった話のすべての意味がやっとわかったのです。娘の差し出した八重のヤマブキの花が咲く一枝には、「実の一つだに なきぞ悲しき」に「蓑一つだに なきぞ悲しき」の意味が込められていたのでした。
娘は、この枝に「せっかく頼まれたのに、お貸しする蓑は一つもないほどの貧しい暮らしぶりであることを悲しく思う」との気持ちを込めていたのです。一本の枝に、「自分の貧しい暮らしぶりを悟ってほしい」との思いを託して、道灌に丁重に断りを告げていたのです。
道灌は、そのような娘の気持ちを理解することができなかった自分のあまりの無学さを、ひどく恥じました。切り枝に託した娘の気持ちに思い至らず理解できなかったことに、申し訳ない思いで胸がいっぱいとなりました。腹を立てるように、娘の前から立ち去ってきた自分の浅はかさを情けなく思いました。
娘の教養の高さに感服した太田道灌は、その後、懸命に勉学に励み、江戸城を立てるほどの人物に出世しました。また、歴史上、学問、文学に造詣が深く、和歌、連歌などの詩歌に長じた人物として歴史に残るまでになりました。
ヤマブキは、人間を発奮させる力をもつ植物なのです。
ヤマブキ(山吹)
[科名]バラ科
[別名]オモカゲグサ(面影草)
[原産地]日本、中国
[花言葉]気品、崇高、富裕
【山吹(ヤマブキ)】江戸城をたてた太田道灌の運命の花。歴史に名を残すきっかけは、農家の娘が渡した1本の切り枝だった
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