茶ァなど嗜む身分じゃねえが
垣根に紛れ咲く一重の椿にゃ気をひかれる
侘助やい
おいらはお前ほどシャイじゃないが
植木職人の親方として
生垣づくりの作法は心得ているよ
お屋敷の仕事を請け負って二十年
垣根の全部が椿じゃつまらねえと言ったんだ
シラカシの渋さはいいよ
飽きも来ねえし品もある
だけどちったァ飾りが欲しいじゃねえか
地味さの中にきらり輝くものがよォ
侘助やい
おまえは真っ白な真珠だ
奥さまの首に春を招く小粒の真珠
海の匂いと鎮守の森を記憶する椿の仲間
艶葉樹(ツヤバキ)変じて椿と気取るのもいいが
潮騒に聞き耳立てる純朴さが似合っている
はるばる海峡を越えてきた一重の種族
太郎冠者とも縁つづきの役者志望・・・・
ひと差し舞ってみよと所望され
「御前にィい」と罷り出る
奥ゆかしい所作を愛でられて
お前は舞台の隅に据えられる
侘助やい
おいらの気持ちを汲んだかい
目立たぬように目立つのだ
寂しげに見せて華やかであれ
狂言役者の末裔らしく
トトンと床を打って白足袋の底を見せるのだ
(『侘助やい』2013/04/12より再掲)
江戸っ子のきっぷの良い口調にのせて、侘助に対する思い入れの深さと愛を感じました~~
侘助の清楚な感じはいいですよね。
花木の中でも昔から多くの文人に愛された、気品に満ちた花だと思います。
植木職人の伝法な口調も取り上げていただき、嬉しかったです。
今日は梅雨晴れ間の厳しい暑さに見舞われていますが、元気に乗り切りましょう。