浅間に雪が降る頃は
「やった でかした 母さんよ」
浅間の山に 手を合わせ
祈った甲斐があったよと
旧家の父が ニコニコと
産婆ともども褒めそやす
満州事変だ 盧溝橋
ABCなら 真珠湾
声高 威気高 資源高
世は 「大東亜」一色で
赤紫に染まる頃
チンチン確かめ 有頂天
「大きくなったら何になる?」
迷わず答えた 幼子の
鸚鵡返しの大声は
「大将、大将・・・・」と木魂する
国旗掲揚 金の玉
提灯行列 白だすき
勝った勝ったと 下駄鳴らし
号外連発 新聞社
南方戦線 転々と
前進 転進 逃げまどう
こんなはずではなかったと
指揮官逆上 八つ当たり
戦い済まずに 日が暮れて
悲喜こもごもの 自主判断
誇りを捨てての バンザイが
誇りを持っての 「万歳」を
凌いで生きて 帰還船
「父よ あなたは偉かった」
仏間の遺影に 手を合わす
男子の本懐 子に示し
国と家族の繁栄を
信じて逝ったと 信じたい
だけど オイラも母さんも
ひもじさに耐え 飢えに耐え
おかげで 強く生きられた
浅間に雪が降るころは
雄雄しき姿に励まされ
父の言葉を 思い出す
ああ 恨むまい 嘆くまい
立ち止まらずに いたいから
思考は いつも七五調
「よくぞ男に生まれけり」
そんな思いは まるで無し
「大将」目指した少年は
時代変わって 飲み屋のおやじ
「タイショウ タイショウ」と呼ばれるが
大将ちがいに 苦笑い
落ち着くところに 落ち着いて
軍歌聴いては 涙する
韻を踏むだけでなく、古い人間には懐かしい常用句や単語がふんだんに盛り込まれ、
落ちるところは、飲み屋のタイショウというところが泣かせますね。
前回に続いての詩文に読者は目をシロクロさせていますが、
もとより歌心・詩心を備えた筆者でしょう。
あたかも軽やかにご自分の「陣地」も匂わせての、物語性のある詩、これからも期待しますよ。
浅間山を眺め、146号沿いの「開拓者の碑」に触発された言葉が詩になりました。
北軽井沢が「陣地」とは、意表を衝かれました。
戦争の本質は、過ぎてから分かるもののようです。
困るのは、分かっていてもエイリアンのように増殖することです。
国というものは本来国民の平安な生活を守るためにあるはずなのに、刻に人々を戦争などに駆り立て国民を苦しめる装置として働くことが少なくない。
余裕のユーモアをこめた独特のアイロニーを漂わせるこの詩には、そういう歴史の事実に対する窪庭さんの深い怒りが込められているようで・・・強い共感を覚えました。
まだ若いころ長野県の山間の村々を歩き回ったことがあるのですが、多くの村に同じような記念碑があってとても複雑な思いに駆られました。
村の人たちが国策のもと満州開拓団を組織して彼の地にに向かったことを記念する、昭和前期の碑でした。
そのうちの何人が生きてお帰りになられたのか・・・。
もう乗せられないぞ、という窪庭さんの気持ちが詩から伝わってきました。
知恵熱おやじ
人を信じることは大切ですが、人が作り出す妄念にはよくよく気をつけねばならないようです。
注意深く周囲に意識を向けていた(知恵熱おやじ)さんのコメントに感謝。
すみません!
正確には「満蒙開拓団」でした。
山国で譲られるべき耕作地の少ない次三男が、国策に誘われて行かれたのでしょうね。
村々の人たちは今、どんな思いでそれらの記念碑を守っているのか。
辛いような哀しいような複雑な気持ちになります。
知恵熱おやじ