なでしこ
(季節の花300)より
楢葉町に帰りたい
少女は遠い目をした
でもシンクロを続けたい
澄んだ瞳がキョロキョロと揺れた
少女の名は優花
優花は透きとおった夏の花
なでしこのように親思い
小さな胸で希望と諦めが交錯する
避難してからもう何年たつだろう
魔物を詰めたタンクが爆発し
空気中にヤリを持ったコビトが乱舞した
逃げるしかなかったあの日が宙に浮いている
楢葉町は避難先からの帰還を呼びかけた
学校も再開するから戻って来て欲しいという
「優花はどうしたいの?」と母親が問う
どうしていいか迷いの頂点で目が泳ぐ
楢葉町には自然があるから帰りたい
だけどシンクロの仲間とも別れたくない
中学校とスイミングクラブの両方に通うのは
お母さんに辛い送り迎えをさせるからしたくない
「この子は親のことばかり心配するんですよ」
母親がインタビュアーに複雑な笑顔を見せる
「優花ちゃんは避難生活に慣れちゃったのかな」
慣れてはいけないことに慣れてしまいました・・・・と少女
「優花は楢葉町もシンクロも両方好きなんですよ」
子供らしくどっちも好きと言ってくれたらいいのに
母親は大人びていく娘を眩しそうにみつめる
「お母さんシンクロをやめろっていう選択肢もあるんだよ」
優花のことばにインタビュアーが息を呑む
中学生をこれほど大人にしてしまったのは何者だろう
少女に迷いの果ての言葉を見つけさせたのは誰なんだ
汚染された空気も汚染された水も片棒担いでいるが・・・・
夕方のニュースは行きずりの僧に似て無常
避難指示解除の計らいは心の配慮に欠けて無情
映像のなかで透きとおった少女は
なでしこの町でふるふると咲けるだろうか
* 平成27年9月某日NHK夕方のニュースを見て
(参考) 東京電力福島第一原発事故でほぼ全町民が避難している福島県楢葉町について、政府は、8月のお盆前としていた避難指示解除の時期を、9月5日に遅らせることを決めた。原子力災害現地対策本部長の高木陽介・経済産業副大臣が6日午後、松本幸英町長に伝えた。<朝日新聞デジタル>より
その間にみんなそれぞれ新しい生活事情が出来上がっているでしょうし。
罪作りな原発事故の底知れなさが・・・
除染の限界もあきらかですし、壊れてしまったコミュニテイの回復も決して元通りにはならないでしょう。
一度事故を起こすと、すべてが変容してしまう。
底知れない恐ろしさが、いろいろな場面で顕在してくる気がします。
やはり原発はいけませんね。
被災地の皆様にかける言葉が見当たりません。