どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

ポエム(302)『ジュリアン・ソレルと彼岸花』

2021-09-27 17:07:39 | ポエム

     (画像はブログ『黒ラブのいる生活』ベルさん提供)

 

不倫という恋があるわけではない

死につながる純愛があるだけだ

ジュリアン・ソレルよ

あなたは それを体現した

 

十九世紀の半ば

フランスの小説家スタンダールが

後世に残る名作『赤と黒』を発表した

野心に満ちた青年を主人公にして

 

美貌で聡明なジュリアン・ソレルは

ナポレオンに憧れて軍人〈赤い軍服〉を目指したが

時代が変わって 志敵わず

やむなく聖職者〈黒の僧衣〉になろうとした

 

平民出身の身で高みを目指すにはこれしかない

司祭のもとで語学や神学を学んだが

聖職者には向かないと判断され

町長レナール家の家庭教師に推薦された

 

黒揚羽よ 美貌の青年ジュリアン・ソレルよ

他の蝶があまり近寄らない彼岸花からなぜ吸蜜するのだ

根茎の毒の噂をものともしない野心からか

それとも微かなアルカロイドに恍惚を求めたのか

 

彼岸花にしがみつく姿の何という美しさ

背徳を隠した黒揚羽の視線の先には

ふるふると震える花弁の恍惚

進んで迎え入れようとする貴婦人の輝き

 

つかの間の王政復古に浮かれる貴族たち

ブルボン王朝の幻影に酔い痴れる女たちの前には

ジュリアン・ソレルの野心さえ色あせるほど

町長夫人ルイーズは今華やかに花開く

 

レナール町長夫人がねっとりと黒揚羽に絡む

雄しべと見紛うアゲハチョウの脚に手が伸びる

誘惑するのは美貌の青年か貴婦人ルイーズか

不倫が発覚し貴族社会から追放される運命なのに

 

出世の足掛かりにと思った野望は潰え

青年の未練が町長夫人ルイーズに残る

ブザンソン神学校でのいじめに耐え

校長の薦めでラ・モール家の秘書に落ち着く

 

ラ・モール家の令嬢マチルドはジュリアンにぞっこん

ジュリアンの子を宿したことを告白して結婚に至る

噂を聞いた町長夫人ルイーズの嫉妬の告発状

愛はひそやかに沈潜し 嫉妬はめらめらと燃えあがる 

 

黒揚羽よ あなたは結局何を手にしたのだ

破談した結婚と恨みのピストルか

レナール町長夫人を糾弾したつもりが

負傷させた挙句の死刑判決とは

 

ジュリアン・ソレルは潔く死を受け入れる

貴婦人ルイーズの愛と 夫人への純愛に気づき

野望の形骸を神の御前に差し伸べる

不倫と見えた真実の愛に報いるために

 

 

 

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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは(^^♪ (のり)
2021-09-27 18:20:18
ベルさんの写真と詩が見事に響き合っていますね・・・
返信する
クロアゲハ (ベル)
2021-09-27 19:03:10
こんばんは
写真使ってもらいありがとうございます
いい記念になります
たった1枚の写真でこのような詩が書けるんですね
アゲハしか近寄らない彼岸花不思議な蝶です

私は文章書くの苦手なので一瞬で撮ってしまえる写真しかできないですね(笑)
返信する
こんなきれいなお花が・・・ (紅ママ)
2021-09-27 19:24:39
皆さんのブログでは彼岸花がとても綺麗に掲載されています。
私 見た事無いのです。
北海道では無理なのでしょうか?
こんな綺麗なお花が不吉な意味合いを持っているなんて
でも不思議な花ですね、花弁より雄蕊が長く一本一本がまとまったお花の様で・・・
茎が長く葉が無いの? 不思議な花。

ベルさんのところで拝見していましたが
黒揚羽が物語の主人公だったなんて とっても素敵な展開ですね!
返信する
画像に感謝 (tadaox)
2021-09-27 21:56:54
〈のり〉さん、ありがとうございます。
ベルさんの写真と響きあっていますか。
うれしいです。
この一枚を見た瞬間、黒揚羽の姿が「赤と黒」の主人公に重なりました。
一本一本の脚や口元が鮮明にとらえられた、ベルさんの画像に感謝です。
返信する
あらためて御礼を (tadaox)
2021-09-27 22:16:44
〈ベル〉さん、こんばんは。
素晴らしい写真を使わせていただき、ありがとうございます。
この写真には、物語がありますよね。
なんとか応えたいと言葉を選びましたが、どうだったでしょうか。
アゲハ蝶しか近寄らない彼岸花、蜜の中に何か謎があるのでしょうか。
ぼくはアルカロイドを匂わせましたが、果たして?
不思議ですね。
返信する
不思議な花 (tadaox)
2021-09-27 22:48:13
〈紅ママ〉さん、こんばんは。
北海道では彼岸花を見かけないのですか。
気温に敏感なんでしょうかネ。
そういえば、この時期たくさんのブログで彼岸花を取り上げていますね。
それだけ身近な花なんでしょう。
それぞれにきれいにアップしていますが、ちょっとずつ印象が違ったりして・・・・。
雄蕊をやたらに長くして、花粉の運び屋さんを待っているみたい。
不思議な花ですよね。
葉は花が終わった後に青々と出てくるんですよ。
そうそう、黒揚羽を物語の主人公にしたくなるほど、彼岸花の赤は魅力的なんですね。
コメントありがとうございました。
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潜在意識の深間に… (知恵熱おやじ)
2021-09-30 12:39:01
普段はほとんど意識することもなかったような心の何かに触れてくるような、いい詩だなあー

樺太生まれ北海道育ちの私の、自分でも言葉に出来なかったどこか深みに隠れていたような何かを見せてく入れたような・・・

読ませていただいてとても嬉しかったです
ありがとうございました!
返信する
毒の (知恵熱バカ)
2021-09-30 12:48:58
分かっていながら・・・

毒の魅力逆らい難しで・・・人生面白し・・・かな
むにゃにゃだなあー
返信する
毒の魅力 (tadaox)
2021-09-30 16:48:16
(知恵熱おやじ)様、この画像の黒揚羽と彼岸花の絡みは魅力的でしょう?
ジュリアン・ソレルを登場させるしかないシチュエーションなんですよ。
実際に、蜜に毒があるかどうかはわかりませんが、他の蝶が寄らない花なので、きっと何か秘密があるのだと思います。
そのわからなさを、根茎のアルカロイドにゆだねたのですが、もどかしい愛に翻弄される青年と貴婦人の関係は、やがて死を招く運命にあるんですね。
ぼくも知恵熱おやじさんも、むさぼるように読んだはずですから、ひときわ印象深い画像でした。
コメントありがとうございました。
返信する
一番面白い小説 (ウォーク更家)
2021-10-03 09:10:54
学生時代に、ストーリーの面白さに惹かれて一気に読み終えたスタンダールの「赤と黒」。

野心家のジュリアン・ソレル、彼をとりまくレナール夫人とマチルド嬢。

当時の読み終えた興奮が蘇りました。

一番面白い小説だと思いました。
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