ある男が女の心を盗んで逃げた
盗まれた女は盗まれたとは気づかずに
あちらこちらの波止場をさがし回った
マドロスさんが咥えるパイプの煙を追って
女は男のキャプテンハットに惚れていた
長崎の港で男の特徴を並べると
あんた船員帽とセーラー服を捜してるの、と
声の潰れた酒場の女に呆れられた
あんたの好きな海軍の制服を着た人は
神戸にいるかもしれないわよ
酒場の女に励まされて夜汽車に乗った
着いて見ると白亜の街は居心地が悪かった
あの人は 本当は場末の街が好きだった
言葉に多少の訛りもあったし
土産によくシウマイを買って来てくれた
元町の話をする時うれしそうだった
女は横浜の街をさがし回った
ポパイの看板はあったが煙草をくゆらす男はいない
波止場のあたりをうろついていると
姐ちゃんここは男の宿場町ださっさと消えな
荷揚げ人足の男に一喝されて
女の迷いは粉々に吹き飛んだ
マドロス姿の男はいっとき女の港で休んだが
今頃は別の港で憩う船のようなもの
あたしの名前を二の腕に彫ってと頼んだが
俺はおまえが思うほど強い人間じゃない
タトウは痛いから真っ平ごめんだ
じゃあまた来るよとそれっきり
おとぎ話のような本当の話
みちこ命と男の腕にタトウをせがんだ女は
断られ逃げられ追いかけて見失った末に
自分の背中にカモメを彫った
誰でもが好きなようにふらりと旅に出られる時代になって、すたれてしまいましたが・・・何となく懐かしいですね。
映画も、小林旭や宍戸錠が活躍し、浅丘ルリ子や中原早苗が絡んで、毎回のように観に行きました。
覚えていますか。
下田のスナックで出会った女性のことを・・・・。
ぼくは、この時女性の身の上話を聞いて、『背中のカモメ』という掌編小説を書き、ブログにも投稿しました。
今回は、波止場・マドロス仕立てで詩にしてみました。
少し飛躍しすぎかもしれませんが、われわれの時代へのオマージュとしてご理解いただければありがたいです。