どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

自薦ポエム㊱ 『惜別の白いサザンカ』

2020-09-06 00:16:57 | ポエム

キーを下げたカラオケの伴奏で

きみは「夜明けの停車場」を よく歌ったね

石橋正次ふうに 声を曇らせて

ヤンヤの拍手に 含羞みながら

Vサインを小さく掲げたものだ

 

たった5人のナックル・フォア仲間だったが

人生の荒波を 共にオール一本で漕ぎきり

戦友として肩を組んだりハイタッチしたりする

リクエストは いつも青春歌謡が中心で

2年前のヒット曲が 堂々の新曲だった

 

岬の突端に近い観光ホテルの一室で

ワインと伊勢海老の活き造りを堪能したあと

年に一度の誕生会を催した

去年は きみの古稀に合わせて

奮闘を称える横断幕を張り出したのだったが・・・・

 

「我らがコックスよ ありがとう!」

体は小さいが小回りの利くきみは

仲間のスケジュールや 宿との交渉で

何度でも調整をやり直してくれた

あの心地よい眺望も きみの配慮の賜物だった

 

まさか人妻との不倫旅行の場所じゃないよね

岬の突端に近いホテルに着いたとき

漕ぎ手仲間がいっせいに冷やかした

初冬の垣根に隠れていた一輪の白いサザンカに

照れ笑いした男の面影が 寂しく重なるのだ

 

急に逝くなんて 聞いちゃいないよ

幹事が先に降りるなんて プログラムには書いてない

肝心のコックスが居なくなったあと

この艇はどこへ行ったらいいのか

ヴォルガの舟歌みたいに 悲しみを曳けというのか

 

エイコーラ エイコーラ もうひとつエイコーラ

友の死を悼み 残された4人で舟を漕ごう

アイダダアイダ アイダダアイダ

去年と同じホテルの娯楽ルームで

思い出に白いサザンカの花を添え 惜別の川に流そう

 

(『惜別の白いサザンカ』2014/11/16より一部修正して再掲)

 

 


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