どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

自薦ポエム㉟ 『野萱草のつぶやき』

2020-09-03 00:00:23 | ポエム

カンゾー先生 ちょっと往診お願いできませんか

草むらから ノカンゾーの花が声をかけた

このところ体調をくずして 何もしたくないの

もしかしたら 肝臓が悪いんじゃないかと思って

 

先生 わたしの顔をよく見てよ

なんとなく顔色が悪いでしょう

陽のあたる場所に置いてもらったのに

気持ちが晴れないのよ

 

そうかい よく眠れば元気になるさ

たしかに 一番厄介な病気は肝臓炎だが

きみの場合は 気迷い病かもしれんな 

愚にもつかないことで 悩んだりするのは良くないよ

 

先生 ほんとうはわたしのこと好きなんでしょ?

見習看護婦のソノ子が カンゾー先生に抱きつく

無償で体を与える相手は先生と決めた娘が

抑えきれない生命力を モンペからむき出しにする

 

往診のカンゾー先生は 野萱草を前に立ち往生する

夏のひかりは 時として肝臓色

きみの思い込みは 若さの早とちり

GPTもGOTも正常じゃ 草むらが似合う娘には関係ない

 

先生って酷い人

わたしの心は機能不全に陥っているのに

どうして肝臓病だと認めてくれないの

忘憂草などとからかって わたしを辱めないでください

 

七月下旬の昼下がり

ソノ子は鯨に誘われ海に染まる

銛一本をたずさえて カンゾー先生の心臓をねらう

寂寞に耐えかねて ひたむきな愛に歯ぎしりしつつ

 

カンゾー先生!

カンゾー先生・・・・

生きるのは切ないです

わたしの訴えを どうして聴いてくれないのですか

 

 

 

  * 『カンゾー先生』=(坂口安吾の小説・今村昌平監督による映画)

 

(『野萱草のつぶやき』2014/10/27 より再掲)

 

 

  


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