バラ
五月の連休さなかに亡くなった義姉よ
あなたは最後まで自分を貫きましたね
世間が浮かれているときに
いたずらっぽい笑いを携えて逝ったのでしょうか
身体のあちこちに幾つもの病巣を抱え
アガリスクやフコイダンやプロポリスを飲みつづけ
霊力を持つという先生の教えを終生信じて
見事に術後十年を生き延びました
若い頃は小説を愛しサガンを諳んじた人よ
あなたの愛はセーヌの流れに逆らっていなかったか
巴里まで追いかけて振られた男に
夢をつなぎ過ぎたのではなかったか
和歌を愛でるようになって名のある夫を得た
生活の妥協はこころの反逆
家庭を顧みないからといって不満を蓄積し
偽りの芝生の上で一粒種を溺愛した
惚けて息子にマッチを取り上げられ
ことばの檻に閉じ込められた義姉よ
料理もできず外出もできず
あなたは人生をどのように振り返ったのか
落ちぶれて香典にも事欠く僕は
あなたの舟賃がわりに薔薇の花を贈ろう
三途の川の船頭は現し世から持ってきた品を検め
向こう岸へ渡してやらぬと喚くだろうか
そうしたら装束を脱ぎ捨てもう一度甦ろうよ
見てきた花園の美しさを語るのもいい
円のレートに一喜一憂する川守に
今度は空から彼岸入りするぞと脅してみたらいい
すごすごと焼き場をあとにする僕に
背後から追い抜きざまに初夏の風がささやく
なんのかんのと世迷言を並べても死は時空の穴
お前なんぞに解る「死者の書」など売ってはいないのだ
* 「死者の書」はエジプトやチベットなどに古くから伝わる死生観を記したもの。
取り急ぎ失礼しますが
地震大丈夫だったでしょうか?
お伺い申し上げます
余震がまたあるかも知れませんので
どうかお気をつけ下さい
また夜にでもお邪魔いたします
身構えたのですが、すぐに揺れが収まりほっとしました。
ご心配ありがとうございました。
敗れてから子どもとの生活人へ
老いてボケ息子にマッチを取り上げられる哀しみも味わい
それでも宿痾を10年もしのぎきってみんなが浮かれる連休のさ中を逝った義姉
喜びにも哀しみにも満ちていてなんと豊かな人生だったろう
その人の三途の川の渡し賃にと一輪の薔薇を手向け、これで渡れなかったら戻って来いよ語りかける人の哀切さよ
この詩がどこまで事実に基づくものか、なかなか見極めがつかないところ、このように胸に沁みいる言葉を贈っていただき感謝に堪えません。
人間は喜びや哀しみに出会うたびに、有頂天になったり煩悶したりする凡なるものと思っていましたが、それらをひっくるめて「なんと豊かな人生」と言っていただき何よりの手向けになりました。
ともすれば暗くなりがちな題材なのに
明るい光が差し込むかのように
清々しく感じました
お金じゃなく花を手向けるシーンは
作者の優しい心がこもっており
それを受け取ってもらえなかったら
帰っておいでと願う気持ちは
切なさを誘います
フィクションでもノンフィクションでも
「時空の穴」は永遠のテーマ
何度も行ったり来たりしているのに
何処かで忘れているのでしょう
もう体調は戻りましたでしょうか。
考えてみますと、人の命はこの溢れんばかりの日常の中から、秒針の動きそのままに刻々と消えていく気がします。
一つの死は、無数の死の中の一つに過ぎないのですが、ほんの一瞬時間を共有したことで、特別の感慨をもたらすもののようです。
今回もまた嬉しいコメントをいただき、ありがとうございました。
これからもよろしくお願いいたします。