どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

ポエム31 『ヤドヴィガの長い髪』

2013-10-19 02:41:11 | ポエム

 

      ルソー『夢』

 

 

この絵を初めて見たのはいつだろう

ジャングルにそっと運ばれたヤドヴィガを

原始の地球はルソーの夢

永遠の住処に似つかわしいカンブリア紀の植生

 

旺盛すぎるジャングルを死の静謐が支配する

湧きたつ緑と蓮華の翳りなき影

多肉植物とたわわな果実の間で交わされる

時を超えた不審な会話・・・・

 

ヤドヴィガって本当はだれ?

貧しさに笑みをなくした洗濯女

それとも誰彼かまわぬベテラン娼婦

ルソーが絵を贈り続ける憧れの女は居たのですか

 

ヤドヴィガの起源はポーランドの王妃の名

その国を代表する女性の愛称だと

原始の密林にヤドヴィガをソファーごと運んだのは

『夢』への切実な評価の期待でもあったのでしょうか

 

みんなよく観てよ 長い髪のヤドヴィガを

束ねたのか縺れたのか少女なのか年増女なのか

密林に潜む鳥も虎も蛇も測りかねてぼんやりしている

カンブリア紀の獣たちにヤドヴィガを喰うことはできない

 

欲望に命を吹き込む暗黒からの調べ

黒い女は魔法使いとも蛇使いとも・・・・

無邪気な獣たちを手なずけたつもりのルソーだが

ヤドヴィガは笛の音をどのように聴いていたのか

 

さあヤドヴィガよ ルソーの愛は無限だと気づけ

日本の女流作家が描くように 贈られた絵はやがて輝く

後のピカソが言うように二束三文で売り払うな

しかし生活費がほしいヤドヴィガを誰も責められぬ

 

洗濯女も娼婦も王妃も みな女というジャングルの住人

ヤドヴィガとはルソーにとっての切実な希望・・・・

獣にも魔法使いにも聖性の光を放つ樹間の満月

緑と死がともに匂い立つ 真昼間のような闇・・・・

 

 

 

  参考=『楽園のカンヴァス』 (原田マハ著)

  参考=「夢のための銘刻」

 *ルソーは、見る者のなかには絵を理解しないものもいるのではないかと疑って、それに添える詩を書いたそうだ。

   Yadwigha dans un beau rêve
   S'étant endormie doucement
   Entendait les sons d'une musette
   Dont jouait un charmeur bien pensant.
   Pendant que la lune reflète
   Sur les fleuves [or fleurs], les arbres verdoyants,
   Les fauves serpents prêtent l'oreille
   Aux airs gais de l'instrument.

 

  美しい夢のなかのヤドヴィガは、
  やさしく眠りにおち、
  善意の〈ヘビ〉魔法使いが奏でる、
  リード楽器の音が聞える。
  月が川〈または花〉、
  樹に映るにつれ、
  野生のヘビは楽器の
  楽しくなる音に耳を貸す

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« (超短編シリーズ)94 『... | トップ | どうぶつ・ティータイム(1... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ポエム」カテゴリの最新記事