秋の日の 控えめな挨拶を交わし
長生きしてねと 別れを告げた
なんだか 不器用な労わりのようだが
救命ヘリの お世話になった人だから
あながち 的外れではないと思うのだ
けっして 予断を持って言ったわけではない
秋に別れを告げて 都会に引き上げる
切り替えの 時期だったから
高原にとどまる 老人のすぼめた肩が気になり
来年また会えることを 望んだのだ
手を振ったら ほほえみを返された
老人の半生は輝かしく 誇りに満ちていたはずだ
欠けたのは 妻のおしゃべりだけ
ことばを探して 森の中へ分け入り
野鳥のさえずりに 出合ったかもしれない
後ろ姿が 見えなくなって
足もとに 目を落とす
しなやかな水引の枝が 風の中で擦れあった
プチプチと連なる ビーズのような紅い花の
下から覗く白い花弁が 忘れないでと目配せをした
一つながらに 紅白を持つ野花
祝い事に用いられ どれほど人生を寿いだか
金水引は 鄭重にお断り
つつましい白と 紅の抱擁を写真に収め
冬越しの老人に 送ってやろうか
もしもし お元気ですか
電話では伝えられない あえかなメッセージ
何もせずに 来年を待ち
たとえ逢えても 逢えなくても
季節になったら 水引の一枝を献上しよう
(『水引に寄せて』2012/10/11 より再掲)
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