『イレーヌ・アモワールの肖像』
イレーヌの顔(肖像)が中央の鏡にある。美しくも厳しく、何か底の底をのぞき込むような鋭い眼差しである。
三つの鏡、炎(情熱)・馬の鈴(お喋り・論争)と中央の肖像、これらは手鏡であるが不思議に立っている。それゆえ倒壊の恐れと裏腹であり、危険・消滅は時を待たない。
これら三つの鏡に隠された水平線(真実)は切れ切れにしか見えない。
描かれた人物は実在のモデルらしい。不思議に怪しくまた辛辣に描かれても、納得するような懐の深さをも持ちえた人物だったのかもしれない。
恐怖をすら感じる彼女への尊敬と敵意を隠蔽した、何かを対等に分かち合う関係を描いたのだと思う。
写真は『マグリット』展・図録より