伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

サーペントの凱旋 となりのナースエイド

2025-02-28 23:58:05 | 小説
 前作「となりのナースエイド」から引き続きジャーナリストの姉の死の真相を追い、姉の死に関係するとみた全身多発性悪性新生物症候群:シムネスの謎とその治療方法と見込む万能免疫細胞:火神細胞を駆使した新治療方法オームスのオペレーションにいそしむナースエイド兼外科医桜庭澪と、前作で外科医師免許を剥奪され海外にわたり3年経った天才外科医竜崎大河が、シムネスの謎に迫る続編。
 医療技術の発展への夢と、巨大な利権が絡むビジネス、医師の使命と責任感、生き様が錯綜する大きな物語です。その大きさ故に、しかしあるかも知れない謀略と偶然・奇跡への予感・懸念も併せ、理念と夢の方に思いが寄せられます。


知念実希人 角川書店 2024年12月2日発行
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となりのナースエイド

2025-02-28 23:57:00 | 小説
 あらゆる臓器に同時多発的に悪性腫瘍が生じるという奇病に罹患した新聞記者の姉の新聞記者としての活動を続けたいという希望を満たすことができなかったことの無力感、トラウマから、医療行為ができなくなり、元外科医であることを隠して看護助手として勤務している桜庭澪が、勤務先の星嶺大学医学部附属病院のエース外科医竜崎大河と、患者の気持ちへの配慮をめぐって対立したことを契機に竜崎と絡むようになり、姉の死の真相を探り始めるという医療ミステリー小説。
 技術的合理性を追求する竜崎と患者に寄り添うことを目指す桜庭を登場させ、超絶技巧とヒューマニズムを描き、医療とは何か、手術はどうあるべきかなどを考えさせています。
 私には、ブラックジャックとタイガーマスクを合わせたようなテイストに思えました。


知念実希人 角川文庫 2023年11月25日発行
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早稲女、女、男

2025-02-28 00:40:04 | 小説
 脚本・演出担当の長津田啓士が脚本を書けないため一度も公演したことがない演劇サークル「早稲田チャリングクロス」のメンバー早乙女香夏子の中高時代からの親友で同じ女性専用マンションに住む立教大学の立石三千子、長津田に思いを寄せるサークルのマドンナで日本女子大学の本田麻衣子、香夏子と同居する妹の学習院大学生早乙女習子、香夏子が内定した大手出版社永和出版の営業部のマドンナで慶応大学出身の慶野亜依子、香夏子と卒業旅行のメキシコ行きで一緒になった青山学院大学の青島みなみ、そして早稲田大学→永和出版の早乙女香夏子が語り手の6つの短編連作、なんですが、結局どれもが早乙女香夏子と長津田、あるいは永和出版の先輩の早稲田大学出身者吉沢洋一のことを語っている上、ふつうなら語り手が変わると人物評価が大きく変わる、別の面が見えるのですが、そうでもなく、早乙女香夏子のエピソードが続いているという作品です。
 各大学の特色というか先入観というかが、それぞれの大学の学生・卒業生という設定の者から語られ、そうだなと思う面がありそういう趣向なのですが、男はこう女はこうという議論と似て、もっともらしい故にうさんくさくも、また乗りたくない気分でもあります。
 全体テーマは早乙女香夏子の不器用さ、愚直さ、居場所のなさというところですが、まぁ、なるようにしかならないし、開き直るしかないよねという話かなぁと思います。


柚木麻子 祥伝社 2012年7月30日発行
「Feel Love」連載
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源氏物語 生涯たのしむための十二章

2025-02-26 22:55:51 | 人文・社会科学系
 源氏物語を読む喜びを語り、味わうための見方や情報を記して勧める本。
 よく知られる恋愛・栄光の物語としてよりも第2部の源氏の試練(源氏への批判)が読みどころであること、主要な登場人物の紹介、数多ある現代語訳の紹介と原文の魅力、物語の背景としての紫式部と藤原道長、当時の政治と社会の情勢、文化・風俗、他の文学作品との関わりや関連する絵巻・芸能、ゆかりの地の紹介などの12章になっています。
 まえがきとあとがきで述べられているように、学者・専門家ではなく、一読者として自分が源氏物語にのめり込んでいった様子や読み返しまたさまざまなことを知ることで新たな発見をし別の読み方ができたことを紹介して、ともに追体験しましょうという姿勢で書かれていることが、初学者にも読みやすくなっていると感じます。
 源氏物語に多数配されている和歌が読める(読解できる、味わえる)と、より深く読める/楽しめるのだな(というか楽しめるのだろうな)と、古文(というか語学全般)苦手意識の強い私は、やはり特にその和歌部分が説明されても今ひとつよくわからない無念さを新たにしましたが。


柳辰哉 論創社 2025年1月15日発行
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君のクイズ

2025-02-12 23:49:23 | 小説
 賞金1000万円の生放送クイズ「Q-1グランプリ」のファイナルで対戦した本庄絆が、最終問で問題文が1文字も読まれないうちに正解したことに疑問を持った三島玲央が、本庄が過去に出場したクイズ大会の資料を集め、それを検討しながら番組の録画を再生し、推理をして行く展開のミステリー小説。
 クイズの1問1問を再現しながら、そのときの解答に至る思考プロセスと回答者の人生経験を語る構成・構想は、いかにも「ぼくと1ルピーの神様」を思い起こさせ、好みの問題でしょうけど、同じような趣向であれば先に読んだ(って18年前ですが)「ぼくと1ルピーの神様」のときの方が新鮮味もあり、明るさもあってよかったように、私は思いました。
 終盤、ひねりを入れるなどしてミステリーらしくしているところで印象が変わりますが、そちらのテイストが好きな人には評価されるのでしょうけれど、私はちょっと馴染めませんでした。最初の段階で「ぼくと1ルピーの神様」との対比にこだわってしまったためかと思いますが。


小川哲 朝日新聞出版 2022年10月30日発行
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ふたりの窓の外

2025-02-11 01:56:57 | 小説
 広い人脈でのコネによる細切れの頼まれ仕事を器用にこなして生活する売れない芸能人塔野壮平こと鳴宮庄吾が不仲だった父の葬儀の日、恋人だった渋井正則が交通事故で死んだ葬儀の席で渋井が大学の後輩と二股をかけ続けていたことを知らされ当の相手から詰られていたたまれなくなって抜け出してきたふつうの事務職藤間紗奈と、火葬場の喫煙室で出会い、渋井が予約していた1泊2日のキャンセルできない温泉旅行に同行することになって…という設定で始まる恋愛小説。
 4つのパートを鳴宮視点と藤間視点で交互に展開し、距離を置いた2人の心理を相互に観察する読み物になっています。すれ違いではなく、相対しつつの焦らしというか、あるいは気長さ、ゆっくりした時間の流れへの志向を味わう作品というべきかも知れません。


深沢仁 東京創元社 2024年11月29日発行
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家で死ぬということ ひとり暮らしの親を看取るまで

2025-02-09 00:11:17 | ノンフィクション
 一人で大丈夫といって、入院も透析も拒み在宅医療と在宅死を希望する80代の慢性腎臓疾患の父親を伊豆の実家に通いながら介護・看取りをした経験を綴ったノンフィクション。
 慢性腎臓疾患で、次第に腎機能が落ちて行き、さまざまなことができなくなって行く父親の姿は、身につまされます。
 腎臓の数値が悪化し大腿骨骨折で入院中で要支援2、88歳で重度の貧血で倒れて救急搬送されるような状態で「非該当」となって介護保険打ち切り、死んでから要介護3の認定が降りたという経過は、本人の意地っ張りとか主治医や周りの不手際もあるとはいえ、今の日本の社会福祉の貧困を如実に感じさせます。
 訪問看護師、訪問医、ヘルパーの人柄や心遣い、プロ意識に著者も感心し、読んでいて勇気づけられる面がありますが、そういった個人の献身でなりたつ現状は、やはりもろく先行きに不安を持たせます。


石川結貴 文藝春秋 2023年8月30日発行
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最新テーマ別実践労働法実務4 労働者が円満退職するための法律実務

2025-02-08 23:49:16 | 実用書・ビジネス書
 労働者が退職を希望しているときに使用者がそれを認めず退職を妨害する、退職を思いとどまらせるためにさまざまな嫌がらせや脅迫をする、退職後実際にさまざまな請求をしてくるといった事態にどう対応するか、その他退職に際して労働者側で知っておくべきこと考えておくべきことについて解説した本。
 労働者側の弁護士の実務では、使用者側が労働者の意に反して辞めさせようとするのといかに戦うかの方が中心で、労働者が退職したいのに辞めさせてくれないという相談には、なかなか対処できていないのが実情です。そういう場面でいろいろと考えさせられ、参考になります。もっとも、自戒や心構えは必要として、ではどうすればいいかというところはもともと難しい問題、弁護士がどこまでやれるかの限界があり、スッキリ解決とは行かない悩ましさは残ります。
 「労働法実務解説」シリーズ(2016年)のときもそうだったのですが、誤字・脱字・変換ミスが目につきます。意味が反対と思われるところだけ指摘しておくと、55ページ12~13行目の「誰にも強制される」は「誰にも強制されず」、88ページ9行目の「業務性が強く」は「業務性が弱く」か「業務との関連性が弱く」だろうと思います。旬報社のシリーズは、編集者が校正していないのでしょうか。


嶋﨑量 旬報社 2024年10月25日発行
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腎機能を自力で強くする 弱った腎臓のメンテナンス法

2025-02-07 21:55:43 | 実用書・ビジネス書
 腎機能の低下を防ぎ、また弱った腎臓をメンテナンスするための食事、運動等について解説した本。
 腎臓の機能が低下したからといってネガティブになる必要はない、むしろストレスが腎臓によくない、今さらなどと思わずに焦らず諦めずメンテナンスを続けようという姿勢(おわりに:200~201ページなど)が、ホッとする本です。
 加工食品に多く含まれる無機リンを減らすために、加工食品をできるだけ摂らない、食べるときはできるだけ下ゆでする(ゆで汁は捨てる)、塩分を控えめにというのがポイントで、タンパク質や水分は減らさない(むしろあまり減らすと危険)、カリウム制限も神経質になる必要はないなど、厳しくないところがうれしい…って思ってていいのか。
 さほど目新しい情報はないように思えましたが、読みやすさと著者の姿勢の緩さに元気づけられる本です。


髙取優二 アスコム 2024年11月12日発行
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地図と拳

2025-02-02 22:48:13 | 小説
 1899年から1955年にかけての中国東北部の架空の邑→都市・李家鎮→仙桃城を舞台に、さまざまな人・グループ・部隊・軍・国がさまざまな思惑で交錯する様子を描いた群像劇。
 時期が飛び飛びでいろいろな人が新登場して視点も変わるので、流し読みでは理解しにくいし、大部(600ページ余り)を読み通しても充実感よりも疲労感が先に立ちました。
 冒頭ではスパイ行為のために潜入した軍人高木の通訳として登場したひ弱な学生だったがそのまま住み着いて頭角を現す細川、細川に見出されて満鉄のために調査に従事するようになった須野と寡婦となった高木の妻の間の子須野明男が全体を通して軸となり、そのまわりで多数の人が失意のうちに斃れ去って行くという構造です。中盤から比較的重用された中国人丞琳(作者はインタビューで戦う女性を描きたかったとも言っているようですが)も、初期には昏い輝きがあるものの後半では輝きを失いいまひとつに感じます。
 共産党の細胞/キャップだったが特高に捉えられて仲間を売り、徴兵されて自分は人を殺すまい殺されるくらいなら撃たれて死ぬと思い定めていたにもかかわらず死の恐怖に敵を撃ち殺し、志と心を折られ続ける中川が、作者にとっては捨て石のひとつくらいの位置づけなんでしょうけど、実に哀しい。中川の「転向」をではなく、それを強いる権力、そのような権力がのさばる社会と時代をこそ許してはならないと思う。


小川哲 集英社 2022年6月30日発行

 
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