伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

わたしたちは銀のフォークと薬を手にして

2018-02-27 02:05:17 | 小説
 三十路を迎えた藤島知世が、業務上知り合った年配バツイチでHIV感染者のWEB制作者椎名と、戸惑いながら恋に落ちる様子を、知世の女友達3人組、そりが合わない妹などを交えながら綴る短編連作小説。
 最初の方、雑誌連載らしく説明がダブルのを、単行本にするとき直さないかなぁと感じつつ、あくまでも知世側から見る椎名の年下女性に対するもの+HIVを抱えた引け目と困惑を抱えながらの大人ぶり・包容力を心地よく味わいながら、知世の心がほどけてゆく様に引き込まれていくところ、やはり巧いと思う。HIV感染者の現実がそうなのかは、よくわからないけれど。
 「大人になるって、この人を好きになるとは思わなかったっていう恋愛が始まることかもしれない。」という3編目「雨の映画館、焼き鳥、手をつなぐ」の書き出し(24ページ)、地味に夢を持たせてくれて、いい感じ。「世界が暮れなずむ。なぜか、絶望みたいだ、と思った。なにも欠けたものがない。ゆるぎなく、無理もなく、満たされて、だけど私たちは確実にいつか死んでいく。それを自然と想像できるくらいに幸福だと気づき、希望とはなにか足りないときに抱くものなのだと悟った。暖かな胸の中で、純度の高い絶望が揺れていた。」という最終編での記述(230ページ)は、あまりに観念的でついて行けないけれど。


島本理生 幻冬舎 2017年6月10日発行
コメント
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