会社に3日間泊まり込んで仕事を続けた挙げ句7階から転落した死体で発見された建設会社営業職の死の真相をめぐって、過労自殺を主張する妻とそれを否定しようと組織ぐるみの隠蔽工作を続ける会社側の戦いを軸に、談合や行政との癒着を進める建設会社と、そこに勤める従業員の苦悩を描いた小説。
基本的には陰謀体質の企業・管理職とそれを暴こうとする者の確執を描くという社会派的な作品のはずですが、語り手が死んだ社員の幽霊という設定がとぼけ味を出してユーモラスな印象になっています。タイトルは、その幽霊の語り手が、家族や自分の味方となってくれる同僚たちに語りかける様子から取られています。
過労死についてはそれなりに取材した跡が見られますが、終盤の軸になる裁判シーンが、あんまり。おそらくはアメリカの刑事裁判ドラマか、それを安直に模倣した日本のドラマのイメージで書いたのでしょう。民事裁判の法廷で終始、公判とか弁護人とかの刑事裁判用語が用いられ(民事裁判ではそれぞれ口頭弁論、代理人)、準備書面や証拠説明書もなくいきなり法廷で主張を始め、それに相手方の弁護士が(証人尋問でもないのに)「異議あり」と叫んだり、それに裁判所が異議の理由も言わせずに異議を認めたり(238~239ページ)、次の期日を決めるのに裁判長が弁護士を近くに呼び寄せたり(244ページ)、証人尋問中に予告なく突然新たな証拠を出したり(268ページ)、事前に申請していない「在廷証人」を尋問したり(325~329ページ)と、日本の民事裁判ではまず見られないか、少なくともやってはいけないとされていることのオンパレードです。面白くするために敢えてやっているのか、単に無知・取材不足なのかわかりませんが、これだけ実情からかけ離れられるとまじめに読んでられません。
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江上剛 実業之日本社 2009年1月25日発行
月刊「J-novel」2007年11月号~2008年8月号連載
基本的には陰謀体質の企業・管理職とそれを暴こうとする者の確執を描くという社会派的な作品のはずですが、語り手が死んだ社員の幽霊という設定がとぼけ味を出してユーモラスな印象になっています。タイトルは、その幽霊の語り手が、家族や自分の味方となってくれる同僚たちに語りかける様子から取られています。
過労死についてはそれなりに取材した跡が見られますが、終盤の軸になる裁判シーンが、あんまり。おそらくはアメリカの刑事裁判ドラマか、それを安直に模倣した日本のドラマのイメージで書いたのでしょう。民事裁判の法廷で終始、公判とか弁護人とかの刑事裁判用語が用いられ(民事裁判ではそれぞれ口頭弁論、代理人)、準備書面や証拠説明書もなくいきなり法廷で主張を始め、それに相手方の弁護士が(証人尋問でもないのに)「異議あり」と叫んだり、それに裁判所が異議の理由も言わせずに異議を認めたり(238~239ページ)、次の期日を決めるのに裁判長が弁護士を近くに呼び寄せたり(244ページ)、証人尋問中に予告なく突然新たな証拠を出したり(268ページ)、事前に申請していない「在廷証人」を尋問したり(325~329ページ)と、日本の民事裁判ではまず見られないか、少なくともやってはいけないとされていることのオンパレードです。面白くするために敢えてやっているのか、単に無知・取材不足なのかわかりませんが、これだけ実情からかけ離れられるとまじめに読んでられません。
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江上剛 実業之日本社 2009年1月25日発行
月刊「J-novel」2007年11月号~2008年8月号連載