伝承されている大岡政談、大岡裁きの事案について、事実であるかはさておき、これが庶民の心を打つものとして伝承されていること自体から裁判官として望ましいあり方とした上で、現在の法制度の下でこのような事案について同様の結論が導けるかを論じた本。
著者は、現在の法律自体がすでに江戸時代と異なり、大岡裁きをしなければ弱者が救われないような不合理なものではなく大岡裁きの心を取り込んでいると論じ、制度上裁判だけでは無理なものも行政上の制度も含めれば同様の結論を導けるという方向で紹介しています。確かに法制度としてはそれなりに合理的なものとなってきているとは思いますが、大岡裁きに見られる事実認定部分での工夫は裁判官の個性・資質・思想に委ねられるところですし、そこでどの程度どういう方向に情が示されるかは制度として保証されているわけでもありません。その部分で、安易に現在の司法は十分と読まれかねないところにやや危うさを感じます。
また、制度としてみても「五貫裁き」「一文惜しみ」の八五郎が毎日一文ずつ支払う科料を徳力屋が受け取ってそれを奉行所に毎日納めよという命令を現行法で出すのは無理だと思います。
「腎臓売れ」に象徴される過酷な取立で有名になった商工ローン「日栄」(現ロプロ:自らは会社更生法適用で過払い金債務を免れた上で貸金業継続中)を「N社」などとぼかしているのも違和感を持ちました(子会社の保証会社「日本信用保証」は実名で出しているのに:138ページ)。
全体として、読み物としてはおもしろいと思いますが。
岸本雄次郎 日本評論社 2011年6月20日発行
著者は、現在の法律自体がすでに江戸時代と異なり、大岡裁きをしなければ弱者が救われないような不合理なものではなく大岡裁きの心を取り込んでいると論じ、制度上裁判だけでは無理なものも行政上の制度も含めれば同様の結論を導けるという方向で紹介しています。確かに法制度としてはそれなりに合理的なものとなってきているとは思いますが、大岡裁きに見られる事実認定部分での工夫は裁判官の個性・資質・思想に委ねられるところですし、そこでどの程度どういう方向に情が示されるかは制度として保証されているわけでもありません。その部分で、安易に現在の司法は十分と読まれかねないところにやや危うさを感じます。
また、制度としてみても「五貫裁き」「一文惜しみ」の八五郎が毎日一文ずつ支払う科料を徳力屋が受け取ってそれを奉行所に毎日納めよという命令を現行法で出すのは無理だと思います。
「腎臓売れ」に象徴される過酷な取立で有名になった商工ローン「日栄」(現ロプロ:自らは会社更生法適用で過払い金債務を免れた上で貸金業継続中)を「N社」などとぼかしているのも違和感を持ちました(子会社の保証会社「日本信用保証」は実名で出しているのに:138ページ)。
全体として、読み物としてはおもしろいと思いますが。
岸本雄次郎 日本評論社 2011年6月20日発行