メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

『風と木の詩』8巻(小学館叢書)

2015-06-26 11:59:54 | マンガ&アニメ
『風と木の詩』8巻(小学館叢書)
竹宮惠子/著

「マンガ感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。


分かってはいたけれど、最後の2巻は、なにがなくても涙が出る。

そうだよ。
私たちに必要なのは「自由」なんだ。
他には何も要らない。


【内容抜粋メモ】

[第7章 アニュス・ディ(神の子羊)]
ジルベールは、人が変わったように勉学に励み、試験結果では11位に入った。
そんな2人をやっかむ同級生らを諌めるA棟監督ジュール。

ピアノを弾くセルジュに合わせてジルベールが歌い、「自分の曲を創って。光の曲がいい」と言われ、
初めての作曲に感動で震えるルーシュ教授とルネ。

一方、ボウは、ロスマリネに、ジルへの学費も、学院の援助も差し止めると脅し、なんとかマルセイユの家に連れ戻そうとする。



ロスマリネは残虐で有名なアダムにその役を言いつける。
アダムは、自分の言うことを聞かなければ、セルジュを痛めつける」とジルを脅す。
ジルはアダムの後ろにはロスマリネ、その後ろにはボウがいると分かる。

“人を愛するということは、自分が犠牲を払うのではない。相手に払わせるということだ。
 そしてそれが自分にとても手痛いということなのだ”

セルジュは、ジルのキスマークを見て、裏切られたと罵り、友だちとムリに日常を過ごす。
そんな様子を見て、セバスチャンはセルジュのピアノを聴きたいと言い、
パスカルはカールに「弟がジルベールのライバルに立候補だ」とからかう。



パスカルはカールに「週末、お前の下宿に泊めて、酒を飲ませてでも眠らせろ」と助言。
酔ったセルジュは、カールにジルと寝たことを言う。

「懺悔はしない。罪だってことは十分知ってた。ボクが苦しいのはそんなことじゃない。
 そうやっても、彼を捕まえておくことができなかったってことだ!」


“溶けあってしまえたら 一つに溶けあってしまえたら 悩むこともいらないのに”


カール「彼の行為は、背信ではなかったのだ」

セルジュは酔っていて、前の晩の発言を覚えていなかった。
カールは、アダムらが、セルジュをジルから遠ざけるために乱暴していることを知ってしまう。

ジルはセルジュに真相を話さない。“恋の告白は、負けを認めて相手の前にひれふすのと同じこと”
セルジュをからかったと言い、「もう振り回さないでくれ」と言って去る。
“怒りで胸が破裂しそうだ! それなのに・・・愛しているという事実は少しも変わらない!”
セルジュは、ジルを決して見まいと決心する。

パスカル「結局、あの2人は表裏一体なのさ。片肺ではもう満足に飛べなくなってる。
     忘れたのか? セルジュが転入してきた時、ワッツ先生とお前(カール)とで、
     なにもしならないセルジュをジルと同室にしちまったんだぞ。
     セルジュは少しもその期待を裏切ってはいない。今も彼は状況をすべて引き受けているよ

林の中でアダムらに暴行されて放心しているジルを見つけるジュール。


ジュールにも抱かれるジル。


“ぼくはジルベールをオーギュストのところへ帰れと説得するつもりでいた。
 だがこうなってはもう遅い。ジルベールは恋の毒に染まってしまった。
 今、彼の心の底には激しく熱いひとつの希求があるだけ。
 彼とは正反対の人物。セルジュ・バトゥールへの。火と水の恋。救いようのない不幸だ”


ルネ“恋の熱情が彼(セルジュ)を成長させている。苦しい恋なのか?
   音楽家たちも皆そうして育まれたのだ。そこから巣立っていきたまえ。
   私に足りなかったのは、結局、そんな経験かもしれぬ”

「ワッツ先生に部屋替えを頼む」というセルジュに、カールは事情を話す。ショックで目がくらむセルジュ。
乱暴されているジルのもとに走り、数人に暴行を受けて、全身打撲、腕は骨折してしまうセルジュ。

 

パスカル「教授に話したら、2人の関係も全部打ち明けることになるぜ」
セルジュは暴行した連中の名前をワッツらに明かさない。
その日から、上級生から守るために、パスカルらは交代で2人を警護することにする。

“とにかくアダムは絶対に陽のあたる場所で悪事はしない。普段はことさら真面目な学生だ”


ルーシュ教授も心配で寝込んでしまった。

セルジュ「爵位も名ばかりになりつつあります。新しい時代ですよ。
     後悔したくない。父のように堂々と死ねたらいい。いつもそう思ってました



セルジュは、ロスマリネにこの計画を立てた張本人と知らずにかけあう。
セルジュの信用を失いかけてうろたえるロスマリネ。

ジュール「いくら保護者の依頼でも、これがいかに非人道的か君にはよく分かっているはずだ。
     保身行為もそこまで行けば悪徳だよ。君が腰をあげないなら僕がやる」

以来、アダムの影はウソのように消える。

セバスチャン「絶対ジュールだよ。総監が彼と組んでるから。ここの総監制度は、昔、番長だった人がつくったんだ」

セバスチャンは兄カールに「兄さんも素直に認めればいいのに、セルジュに恋してるってさ」!!

 

“溶けてしまいたい。なぜいっそ相手の中へ溶けこんでしまえないのだ。
 かくしてセルジュ ぼくをかくしてよ 君のなかに・・・”



ジルのもとにボウから手紙が届き、退学させるという。
セルジュのもとには、叔母から手紙がきて、ボウからすべてを聞いて、アンジェリンとの婚約も危ういから帰ってこいと書いてあった。

ジル「言ってやる。腐った学院の、腐った校長! 僕には今まで翼がなかったんだ。だから言いなりになってやった」
“でも今は生えてる! あとは飛んで逃げるだけ!”


ジルを退学させ、マルセイユに連れ帰るつもりで来て、「勝手は許さない。私はお前の父親だ」と明かす。
ボウは、約束通り、ロスマリネを今期を最後に総監を降り、代わりにジュールに任せると言う。
「私が君の学費をみてあげよう。その中から君が母上にいくら仕送りをしようと自由だ」
ジュールは申し出を受ける。

“ボウは僕を君のように扱うまい。彼は僕に似ている。乾杯だ、母さん”
 

ジュールは、セルジュとジルが駆け落ちするかもしれないから、セルジュを監禁させたほうがいいと提言する。

「院長室へ呼んで、詰問するだけです。彼はウソがつけない子だ」
「同性愛事件としてかね」
「ウイ、ムッシュ。セルジュと対決する気がおありなら」

狙い通り、セルジュはジルと同衾し、同性愛も認めた。

「ジルベールが罪を犯す価値のある相手だったからです。
 それに彼は、肌と肌を触れ合う以外に他を信じる術を知らなかった!
 そう教えられていたからです、ボウ、あなたに!」

ロスマリネは、セルジュに1週間の謹慎を言い渡す。
セルジュは、院長らの前でジルとボウが父子関係だと明かす。
セルジュ「もうジルベールはあなたのものじゃない。神をおそれぬ教育を施されようと、人間は成長するんです!」

謹慎中、レオや、ブロウまでが見舞いに来てくれる。

ロスマリネ「君も・・・オーギュストの汚れた手管の餌食になった一人か?」
セルジュは、ロスマリネもボウにレイプされたと悟る。
ロスマリネ「ありがとうセルジュ。これで気持ちが定まったよ」

ボウは1人になったジルを再び暴力的にレイプする。
ジルはセルジュに2本のナイフを渡して「もう死ぬんだ。やってられないよ」と言って去る。

 

ジュールがジルを見つける。
「もう始末してしまいたいんだ。僕の体。どんなにイヤでも抱かれてしまう。誰にでも。振り回されるのに飽き飽きした」

セルジュは駆け落ちすることを友人に話す。
セルジュ「ジルベールと僕の名誉のために、あくまでも自分の意志でここを出て行きたいんだ」
パスカル「成功する確率は一分しかない、それでも?」

B棟では大規模なカンパが集まる。

“支配するもの。学校というカゴ。
 疲れを知らぬ少年たちの反発のエネルギー。
 今、それをセルジュが吐き出そうとしている。だまって見ている者はいない。
 自分の代弁者へ向かって、ひたすらに目に見えぬエネルギーを送る。
 これは一つの、見果てぬ夢”

ロスマリネに2人の脱走の密告文が届き、嘲笑する。

セルジュは何も言わず、最後の演奏を教授たちに聴かせる。


“だれも問わなかった。なぜなのだと。問われれば言ってしまったろう。あの時、だれも問わなかった涙の意味”

ボウに睡眠薬を飲ませ、ジルは具合が悪いと言って外に出る。
セルジュの見張りはロスマリネで、これで失敗だと観念すると、なんとお金を渡して逃がす協力をする。
「予定の行動はとらないほうがいい」

父同様、アルルからチロルに行こうと思っていたセルジュだが、ロスマリネの言葉を思い出す。
ジル「パリへ行きたい。パリはきれいで、とてもやさしい街だった」

 
1週間が過ぎ、2人がどこに行ったか分からず捜索は打ち切られた

「パリはどっちなの?」「えーと・・・」




[第8章 ラ・ヴィ・アン・ローズ]
パリに来て1カ月。ホテルを転々としてお金が減っていくが、気にしないジルに、仕事を探さなければと苛立つセルジュ。

ケンカした後にあの切ないラヴソング♪ラ・ヴィ・アン・ローズ が流れるなんて、なんて刹那な!
ここには なにより素晴らしいものがある それは愛 そして自由

掃除の仕事を見つけたセルジュは、汚い路地裏に部屋を借り、娼館のカミイユと会う。
 

カミイユは、インテリの支配人がいる場末のビストロの職をセルジュに紹介する。
そこを仕切っているクアドロらに「トンビ」と呼ばれ、肌の色で差別を受けるセルジュ。

 

セルジュは父同様、3つも仕事を掛け持ちして、ジルを養うが、
仕事で疲れて帰るのを待つだけの生活に耐えられないジルは、ギャルソン(ウェイター)として同じ店で働きはじめる。




[巻頭のカラーページ・巻末イラスト集]
 
まさかのロスマリネ!


*************

エディット・ピアフの代表曲として有名な♪薔薇色の人生 だけど、
ネットに載ってる歌詞とは全然違った解釈で、本作のほうがよっぽどいい。なにかと混ざっているのだろうか?

La Vie en Rose

あのひとが
わたしを胸に
抱いてくれる瞬間(とき)

そっと
話しかけてくれる瞬間(とき)

すべての事が
忘れられる

あのひとさえ
わたしを満たしてくれるなら

あなたの愛のことばが
わたしの薔薇色の人生

あなたゆえに
わたしが在(い)て

わたしゆえに
あなたが在(あ)る

あのひとは
そう言って
やさしく誓ってくれた

だから
あの人の姿が見える
その瞬間(とき)に

いつも わたしは感じる
この胸がときめくのを

それだけで
すべての事が
忘れられる


ほかにもカミイユが歌う歌謡曲がある。

♪かもめ かもめよ
 なぜ啼き騒ぐ
 それでも心が重いのか

 愛しているのに
 心はふたつ
 なぜにひとつに
 溶けあわぬ

 人生(ラ・ヴィー)さ
 それが人生(ラ・ヴィー)

 愛(ラムール)
 それが愛(ラムール)

 日々の不安を
 不確実さを
 愛の巣の中で消す
 かもめたち



♪運命は人には
 測り知れぬもの

 たとえ死という極限のように
 見えるものさえ

 永遠からすれば
 小さなさざなみ

 悲しみの箱に閉じこめないで
 さざなみは
 永遠のなかへ還(かえ)して



コメント

『風と木の詩』9巻(小学館叢書)

2015-06-26 11:58:00 | マンガ&アニメ
『風と木の詩』9巻(小学館叢書)
竹宮惠子/著

「マンガ感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。


【内容抜粋メモ】

[第8章 ラ・ヴィ・アン・ローズ]
セルジュ“生活を辛いとは思わないが、ジルベール、君には生活を感じない 存在すら感じさせない!”



古物市で古い譜面を見つめるセルジュ。ジルは少ない生活費も気にせずにそれを買ってしまう。
それを見て、ビストロの支配人は「店でロハで弾いてくれ」と頼み、歓喜するセルジュ。
店でクラシックを弾くと固いと怒られ、カミイユが歌う俗曲(流行歌など)を弾く。
美形のギャルソン&トビ色のピアニストのビストロは、若い女性の間でまたたく間に評判を呼ぶ。

その噂を聞いて驚くパトリシア。


ピアノ教師の娘・マレリーはすっかりセルジュが好きになり、父に伝えて、ピアノ教室の助手の職を頼む。


一方、ジルは、この界隈の元締めで男色のダルニーニに目をつけられ、支配人にも誘いを断るなと命令される。
また誰かに暴力を受けて戻ってきたジルを見て、セルジュは支配人に店を辞めると言う。

 


パトリシアは2人と再会。


「これからは女性も立派に働く時代なのよ。男の人ばかりに人生を任せていてはダメ。
 そのほうが人間としてどんなに生き生きと輝けるか。
 身を墜とさなければ女性が生きていけない時代は終わったのよ。私、新聞記者になりたいの」

2人は月に1度、公園で会おうと約束する。

嫉妬したジルとケンカしてタバコを吸うセルジュ。なんだか急に大人びた・・・


ピアノ教室はあっという間に大盛況となる。
ジルはセルジュとパットが会っているのを垣間見てしまう。
慰めるカミイユと寝ているところを見るセルジュ。



“相手のウソが見破れないのは 愛していない証拠。
 気づかないうちに君は僕をズタズタにする。愛という牙と爪で”

ジル「女なんてみんな自分のカラッポな部分を埋めてくれるものなら何だっていいんだから!」
カミイユに言った言葉はジルにも当てはまるね・・・

マレリーの父に投げ文があり、ジルとの同棲のことが書かれていた。
「マレリーをめとるつもりで、うちの養子にならないか。そうすれば遠慮なく音楽院に行ける」
「彼と別れることは、彼を殺すのと同じことなんです」と断るセルジュ。

 

 
ボナールと再会するジル(そうなると思った)/ルノーもすっかり大人びて

すっかり贅沢な暮らしに戻って、笑顔を取り戻すジル。
セルジュは、ダルニーニの根回しでなかなか仕事を見つけられない。
「お前が連れてるあのキレイなのと別れな。そうすりゃ簡単に見つかるぜ」

公園に来なくなったセルジュを心配して、パットは宿代を肩代わりする。

“僕には彼をふつうの人にする力がない。空しく泡にしてしまう。
 それくらいならいっそここに置いていこう。彼を守る幻想の宮殿に”

セルジュは、ボナールの元にジルを置いて家に帰ると言い残す。


“彼(ジル)にとって愛は至上だ。自分を愛する者がどんな貢物をしようと当然と思っている。
 セルジュがここで暮らすのをどんなに苦痛に感じているか分かるはずもない。
 ジルベールは、育つことができない永遠の少年。生き残ることを知らない。だからこそ輝いている

ルノー「生き抜いていくには不適格な子だ。死にますよ、放っておいたらね。
    昔もそうだったけど、今はもっと影が薄くなった。
    立派に生き抜くなんてジルベールには拷問でしかない。
    なのにセルジュは彼に生き抜くことを教えようとしている。絵に描いたような不幸ですね」

ジルにセルジュが家に帰ったと言うと、セルジュ同様、来た時のコートを着て去るジル。

 
“来ない。彼はもう二度と来ない・・・”

「ジルベールはもう自由な鳥ではいられない。籠の中で自由に焦がれているからこそ、あの脆い美しさが輝くのか」

家で迷うセルジュ。追いかけるジル。

“繰り返し、繰り返し、戦いが始まる。黒と白の戦いが”


ダルニーニは、セルジュに職を与え、ジルが一人で部屋にいる間を狙って、阿片漬けにする。
セルジュとパットはまた公園で会えるようになる。


「女たちは、きっと自由になっていくわ。
 窮屈な服からも、窮屈な家からも解放されていくのよ」
(なかなか実現は難しいね・・・


 
ちょっと見分からない程度にクスリ漬けにしていく

パットは異変に気づき、パスカルを呼ぶ。

「栄養失調で目の焦点もしっかりしてない。
 カールは今でも立ち直れないほどの打撃を受けたよ。あいつは神学校へ移るそうだ。懺悔のために。

 2人とも救うにはもう他に方法はない。ヤツ(ジル)にはヤツの処し方がある。
 このままじゃヤツを本当にメチャメチャに壊しちまう。離して自由にさせてやれ。
 自惚れるな! おまえの与え得る愛情より、求めるほうが、ずっと熱くて激しいんだ。
 満たされずに苦しむのはヤツのほうだぞ」

パスカルはパットをセルジュにやりたいと言う。「どちらもはとれないさ。どちらかをとるんだ」


ジルはクスリを求めてダルニーニの元へ行く。
「わしのきれいなプリマヴェーラ(春の精)。その名で売ってやる。お前を愛したがる者は何百人もいるさ」

パットからセルジュの実家が当主が行方知れずで存続が難しく、叔母は病気で倒れたと聞いてショックを受ける。
(18歳で正式に子爵家を継ぐシステムなのね
パットはセルジュに帰省するよう薦めるが「彼といるだけで叔母やアンジェリンの迷惑になる。帰れないよ」

ジルはセルジュに売春や麻薬常習がバレないよう、稼ぎを全部酒代に代えて、アル中のようになる。
カミイユ「アル中ね。そのうちきれいな顔が台無しになるわ。何人も見たもの、ああいう風にダメになっていく人」

「ジルベール、チロルへ行こう。そしてもう一度初めからやり直そう。この街が君を腐らせるんだ」
「いやだよ!」“チロルにはクスリがない!”

阿片煙草も吸うジル。
仲間の一人に「別のところに移る気はないか? お前を買いたいという大物がいるんだ。
故郷へ連れてって、客に売ったりはしないとよ。シチリアさ」

ジルは海と聞いて「海の天使城」を思い出す。
「いいよ。僕が死んだら、海へ投げ込んでくれる?」

パスカルが秋に来て、まだ別れていないセルジュを説得する。
「麻薬だよ。阿片さ。ヨーロッパでも中毒患者が増えてるんだ。密輸で」



案の定、大量の阿片が見つかり、「力ずくでも養護院へ。やむを得んさ。なまじなことで抜けられるもんじゃない」
それを聞いたジルはダルニーニのところへ戻る。


“手が届かない もうセルジュ・・・”

クスリの大量摂取で自殺を図ったジルを雨の中、馬車に乗せ、別のパトロンに売ろうとする仲間。
しかし、ジルの様子を見て「無理だ。あの子は諦める」と去る馬車。
それをオーギュと間違えるジル。

“連れて帰って、海の天使城へ
 まだ だれをも知ることのなかった あのころ 花咲き誇る春へ”

 

“どこでそんなに汚したんだい”




パスカル「参った。ミシェルの時以来だ。いや、あいつの時よりもっと酷い。
     オレがこの手でヤツを地獄に送った・・・そんな気分だ。
     どこかで聞いてたのかもしれない。そういう奴だったよ」

    「人間には考える場所が2つある。頭と心と。ジルベールに振り回される彼を見て、
     ついオレは頭で考えたんだ。結果は悪く転びすぎたよ」

パット「お願い悪く考えないで。結果はここで出るのじゃない。もっと遠い未来かもしれないのよ」

パスカル「“罪を犯すまいとして真実を見誤るな”か。セルジュのオヤジさんが書き残した言葉さ。皮肉だな」

セルジュ“失敗シタ 彼ヲ愛スルコトニ失敗シタ 育チニクイバラヲ 培養室カラ引キダシテ 枯ラシタ”


セルジュを外に連れ出すパット。
パスカル“女ってやつは時々、とてつもない才能を発揮する。女なしには世界は回らんよ、実際”
(哲学者のパスカル、いまさら気づいたの?

宿にいることが戒めでしかないと気づいたパットは、今はバトゥール家を管理しているアンジェリンに手紙を書く。
アンジェリンはすぐにやって来た。



「私の婚約が破棄されて以来、母はもう子爵家の後見からは身を引いています。
 だからどうかセルジュにあなたからおっしゃって、戻る家はここにあると」


パットとパスカルはセルジュを実家に連れてくる。
執事のクロードほか、子どもの頃の使用人も、アンジェリンは呼び戻して待っていた。

 



“キミハ知ッテル 肌ノ熱サト ヤサシサ ボクガキミニアゲタ 永久ニ 消エナイ”

♪ホザンナ が聴こえてたどり着いたのは、セルジュがずっと欲していた父の形見の鍵盤と日記、そしてピアノだった。




♪ホザンナ
主の御名を讃えん
高きところより
見おろしたもう
我らが主よ

学舎(まなびや)の灯(ひ)をともし
我らが足もとを照らしたまえ


  


“きみは わがこずえを鳴らす 風であった
 風と木ぎの詩が きこえるか
 青春のざわめきが
 思い出すものも あるだろう
 自らの青春の ありし日を・・・”



[巻頭のカラーページ・巻末イラスト集]
  



****************

“美しい死”というものがあるのか、私は知らないけれども、
極貧で、未来もない2人の未熟な青年が、街で生きることは、こんなに難しいものか?

2人の別れは、随分前からはじまっていた。
パリに移ってもたいした喜びもなく、ただただ生活に追われ、すれ違って。
だから、死の場面には、悲しみより、胸が悪くなった。

ものすごい後味の悪い映画を観た後みたいで、
目を閉じてみたり、本を数回閉じる必要さえあった。


外はジメジメと雨が降りつづき、冷たい夜気が入りこんで、
時間も忘れて2巻分を読みつづけていた。

1巻目で「1人が死ぬ」と予告された事に文句を言ったけれども、
心構えができた分、逆に今では感謝したい。

あまりにのめりこみ過ぎて、我を忘れてトラウマになりそうだったから、
いったん外の雨の音を聴きながら、コレを書いた。


セルジュの父の死とは真逆。
あの時は、強い母の愛があったし、少年の未来には無限の可能性と希望があった。

なぜ最上の美がここまで貶められなければならないのか。作者の意図は?!

夢中になって読みつづけ、ラストの2冊を待ち焦がれていたのに、
ここにきて、これほど強烈な毒を飲むんじゃなかったと後悔すらした。

芸術にだけは傷つけられるのはごめんだ。
音楽も、映画も、本も、本物の芸術だけは、
勝敗がなくて、金がらみもなくて、
たとえ悲劇であっても、一筋の希望が残るような。

実際、この世は50-50なのだから。
天上は耐えられないほどの苦しみは与えないから。


今の私ですらこの有様なのに、当時の少年少女の読者は
コレを一体どう読みくだしたんだろうか。

もっとも柔らかくて、不安定なココロに、どう突き刺さったのか。
まだ現実社会がボンヤリしていた頃なら、1つの物語りとして通過できるだろうか?


でも、彼らはやっと解放されたんだな。
鳥にも、風にも、海にもなれる。
なににも縛られない姿となって。
美しい思い出を残して、純粋なまま。
それは有機体ではムリだった。

あまりに浮世離れした美しい天使は、地上では嫉妬され、
弄ばれ、畏れられ、墜とされるしかなかった。


ラストの数ページを、何度も何度も繰って見た。自分を癒やすために。

唯一の救いはパットの強さ。
やっぱり女性のほうが強いんだ。

2人はこれでやっと永遠にいっしょだ。父も、母も。
そして、なによりピアノが彼を救うだろう。

私が思っていたとおり、冒頭のセリフに戻り、
この物語りが、大人になった彼の回想だったことを思い出させる。

彼のそばにはパットがいるかもしれないし、
全く別の人生があったかもしれない。


この9冊は、あくまでも青春の一瞬を切り取ったもの。
思い出がどれほど美しく、悲しくても、
現在という時間は、過去とは全く関係なく、
どんどん過ぎてゆく。ひたすら前へ、前へと。

コメント (2)