※「読書感想メモリスト4」カテゴリー内[土偶・古墳]参照
予録のまとめ見シリーズ
【内容抜粋メモ】
縄文の美が国宝として認められるのは、わずか20年あまり前のこと
上野で開かれた縄文の大規模な展覧会
「縄文時代 前期の土器」
縄目文様が縄文の由来
色々な縄を使って 色々な方向から文様を織りなしている
関山式の時が一番バリエーションが多い
表面の黒い部分はすすの後
土器は煮炊きに使われていたことが分かっている
この土器こそが縄文時代を象徴する道具
当時は動物を狩り、木の実を拾う「狩猟・採集」の暮らし
土器の発明で調理だけでなく、食べ物を保存できるようになり定住が進んだ
縄文土器のおかげで豊かで安定した暮らしがおよそ一万年にもわたり続いた/驚
「縄文時代中期の土器」
新潟県十日町で出土した火焔型土器(王冠型土器)
前期の縄目模様は、粘土を貼り付けた立体的なものに変わった
燃え盛る炎、王冠のような姿が名前の由来
建築史家・建築家・藤森:彫刻を見てるようだね これは洗ったりしないんだろうなw
中でも特に優れているとされるのが国宝火焔型土器
藤森さんはこの立体的な模様の背景には「狩猟文化」があると考えています
藤森さん:
日常的に動物を食べていたわけですよね
当然食べる時に腹を切るわけで
内臓的なもののほうが外よりも大事
農耕ではない美学ではないかと思います
こうした 縄文の装飾的な的な土器は世界に類を見ないもの
同じ時代の中国の土器
これは メソポタミア文明で使われていました イラク出土
どれも形がシンプルで 実用的なものです
藤森:
面白くないよね 植木鉢みたい
おそらく(縄文時代は)すごく安定してたんだと思う
尚且つ豊かな中でああいうことを繰り返した 珍しいと思う
さらに縄文時代には土器と並ぶ美的な出土品があります 土偶です
国宝中空土偶
土偶とは、人をかたどった土の焼き物
足先から頭まで、中が空洞で作られ、最も薄い部分は厚さわずか2 mm です
その身体全体には、精緻な文様が施されています
縄文の人々の技術力の高さを示しています
土偶は何のために作られたのか?
狩りの成功のため、安産のため あるいは死者の再生復活のため 諸説あります
縄文の人々が様々な願いを託した「祈りの道具」ではないかと推測されています
国宝 縄文の女神
高さ45 CM 重さ約3 kg 最大級の土偶です
くびれたウエスト 側面から見たほうが人気の土偶です
現代アートのようだとも言われたりしている
藤森:顔を表現しないというのはとても面白い
合掌土偶
座った形の土偶 胸の前で手を合わせる姿から名付けられました
胸には乳房があり、出産する女性の姿であるとも言われています
足や腰の割れ目には、天然のアスファルトが接着剤のように塗った跡があります
縄文の人々はこの土偶を修復しながら使っていたと考えられています
藤森:
やはり「再生」という 死んで、生きて 魂は再生する
そういうことのために作られたのではないかと思いますけど
見ていると、祈りというのがちゃんと土偶にも感じられる
精神的、あるいは宗教的な対象としての造形をしている
もう1人のゲストは、今回の展覧会を企画した品川さん
藤森:縄文というと、ただ元気よく作ってるように見えますが、基本的な秩序みたいなのがある
小野:1万年前と言うと、単純化して考えがちですけれども、非常に繊細な心遣いがある
品川:
火焔型土器も上から見ると綺麗な円の形 粘土を貼り付けて装飾している
そのはみ出しを綺麗に直している
縄文は1万年も安定した暮らしを行っていた
これはとても大きな理由だと考えられます
縄文時代は日本の歴史の中でも海外と交流が少ない時期なので独創的な美が生まれたと理解されております
小野:実用性はどうなんですか?
品川:
煮炊きに使う
取っ手ですくう時に邪魔だなと思うんですが
縄文人にとっては使い勝手よりも装飾のほうが第一
そこが我々の今の食器と違う点だと思います
小野:なんて素敵な生活!
藤森:この土偶は明らかに今の祈りと同じですよ
小野:何を祈ってるんですかね?
藤森:
おそらく生命の循環
無事出産するようにとか 亡くなった後 もう一度再生するようにとか そういうことだと思いますけど
品川:
顔がない
けれども頭に二つの穴が開いているのは
頭に髪飾りをつけていたという解釈もあります
国宝に指定されているものは6件
意外と最近 20年少しの間に国宝に認められた
一番最初は1995年の「縄文のビーナス」
縄文のビーナスが国宝として認められるまでには様々な困難があった
その経緯をご覧いただきましょう
長野県茅野市
1986年の夏 縄文のビーナスがここで発掘されました
当時、その発掘に立ち会った 学芸員・守矢昌文さん:
この一面の畑の中に遺跡があったんですね
「棚畑遺跡」は大正時代から知られていた
茅野市ではこの場所に工業団地を造成するために改めて発掘調査を行なっていました
守矢昌文さん:
「あれ、変なものがあるね」っていう話から始まって
「土器にしては変だな これはもしかしたら大変なものかもしれない」と盛り上がった
縄文のビーナスは、ほぼ完全な姿で見つかりました
壊れた状態で見つかる土偶が多い中、それはとても珍しいことでした
守矢さん:
次の日に掘り出した時には 光の中に輝くような素晴らしい姿 これはすごい
ヴィーナスという名前は、発掘時の造形の美しさから自然にそう呼ばれるようになりました
どっしりとした脚、豊満な腰、突き出たお腹があり 妊婦の姿を優美な曲線で表現しています
しかし、この美が国宝に認められるにはいくつもの壁がありました
縄文遺跡の発掘は、明治時代の東京大森貝塚から始まった
大森貝塚の発掘現場
・町歩き@品川歴史館など
縄文の人々が食べた貝の残骸や、出土した土器は
当時の文化や生活を知るための研究資料とみなされてきました
考古学には美術的な視点がなかったのです
(こんなに美しいのに?
そうした状況の中、縄文の美に注目したのが芸術家・岡本太郎です
1951年 四十歳の岡本は東京国立博物館で偶然縄文土器に出会い衝撃を受けました
川崎市 岡本太郎美術館 学芸員・佐々木さん:
四次元的な感覚を持った
狩猟民族ならではの人々が作ったに違いない、ということに気づきまして
その造形力の豊かさに感動した
『日本の伝統』より
「激しく追いかぶさり重り合って、隆起し、下降し、旋廻する隆線紋
これでもかこれでもかと執拗に迫る緊張感
しかも純粋に透(とお)った神経の鋭さ
この圧倒的な凄みは、日本人の祖先が誇った美意識だ」
・「作家別カテゴリー」内「岡本太郎」参照
・岡本太郎“太陽の塔”~井浦新が見た生命(いのち)の根源~@日曜美術館
国宝の要件
そもそも国宝は、昭和25年の「文化財保護法」によって指定されるようになりました
その要件は、世界文化の見地から価値の高いもので類ない国民の宝たるもの
つまり、美術的に優れているだけでなく、学術的にも価値が高いことが必要となるのです
縄文のビーナスが国宝に認められるには「学術的な価値」が必要
当時、発掘責任者だった鵜飼幸雄さん
鵜飼さんは学術調査である妙案を思いつきました
鵜飼さん:
中央病院に行けばレントゲン写真があるということで
役所の関係の方にお話をしたところ、撮ってくれると
調査チームは病院でレントゲン写真と CT スキャンを撮ってもらうことができました
素晴らしい成果だった 作り方がこれでわかるという写真が撮れましたので
縄文のビーナスのレントゲン写真
足、胴、両腕 首に見える白い筋
これによって、土偶がパーツごとに作られ、組み立てられたことがわかりました
縄文のビーナスは、設計図があるかのように計算して作られていたのです
当時鵜飼さんの部下として調査に関わった守屋昌史さん:
(ミニチュア土偶シリーズかわいい!
製作者の高い技術に驚いた
手と首のソケットの仕方
わざわざ右と左と腕を別に作って首を差し込んでいる この作り方だと壊れづらい
逆に言うと、壊れないように作るための一つの芯棒が入っている
そして組み立て方が手馴れてるんですよね
あまり乾かないうちに首をソケットしなければ接合しませんので
そのタイミングをよく熟知した人間が作り上げているとしか言いようがない
また製作者は火の扱いにも習熟していたことがわかりました
ヴィーナスの足の CT 写真
右側の黒く見える部分には空気が入っています
通常は焼く際にこの空気が急激に膨張して爆発してしまいます
しかしヴィーナスはなぜ壊れずに焼けたのか?
その秘密は発掘写真から読み解くことができます
右の足のかけた部分には生焼けの粘土が見えます
つまり縄文のビーナスは、急激に空気が膨張しないように
絶妙に火加減がコントロールされていたのです
守谷:
そういう火加減を調整しながら、粘土の造形をちゃんと崩さないように
作っている技を熟知した最高峰がこのヴィーナスと考えています
調査チームは5年かけて1000ページを超える報告書を作成
縄文のビーナスが学術的に価値が高いことを明らかにしたのです
しかし、美術的価値の認識はまだまだ低いものでした
国宝を選定する文化庁の元職員で考古学の研究者でもあった土肥孝さんは
縄文のビーナスは国宝に値すると思っていました
土肥孝さん:
かなりバカにされました
なんで美的に見えるんだ そんなことありえない話だと
研究資料だから あんた研究者辞めたのか、とまで言われたわけですけれども
そうじゃなくて、やっぱり美的なものを美的として見ることは非常に重要なことなんだけど
そういうことは今までほとんどされてなかった
縄文の出土品の美術的価値を証明するため、土肥さんは意外な作戦を思いつきます
海外で展覧会を開くことでした
(海外で評価されれば何でも受け入れるって言う姿勢が日本人らしい
日本人の美的感覚は縄文時代から相当衰えてしまったんだな
アメリカでの展覧会の図録 1990年
ベルギー、アメリカで展示された土器や土偶は「美術的に素晴らしい」と絶賛されたのです
土肥孝さん:「ピカソが何人いるんだ!」と喋っていました
日本の研究者はそれまで土偶というのは全て同じものだと見ていた
みんな同じものじゃないよっていうこと それが大事だった
それが日本の研究者はまだ思っていなかった
(海外は海外で、美術批評家や高い値段で売買される美術だけが「価値が高い」という評価なのか・・・
海外で評判を呼んだ土器や土偶は、日本でも美術的に高く評価されるようになりました
そして1995年 文化庁の専門委員会は、縄文のビーナスを全会一致で国宝に指定するよう答申したのです
(そもそも文化庁に美的感覚がないのでは?
国宝の解説文にはこう書かれています
「美しい曲線でまとめられた 安定感溢れる姿形
光沢ができるほど 磨き上げられ 均整の取れた 伸びやかな表現
質量感 洗練された造形美
本土偶は、縄文時代の精神文化を語る 傑出した遺品として 国宝にふさわしい価値を持つものである」
(えらい変わりようだな
土肥さん:素直に嬉しかったです それだけ変わったんでしょうね 世の中が
小野:
身近なものの美しさって分からなくなりがちですね
外の視点から再発見してもらって、我々もまたその美を認識し直す
ということが起こるんだなと思いました
品川:
人間の体と一緒で X 線写真を撮ることによって構造が分かる
構造が分かると作り方が分かりますし、当時の扱い方さえ分かる場合もありますので
ああいう調査は欠かすことができない、と改めて思わせるものですね
藤森さんは茅野市の出身
藤森さん:
今でも覚えています
小学生の時、遊んでたら、中学生が帰ってきてリュックを見せるんです
「これが土器だ」
その説明を今でも覚えていますけれども
「村の人たちがまだみんな裸で暮らしている頃に作ったものだと」w
いくつか間違いがあって 裸じゃなかった
それに本当に村の人たちと直接繋がってるかどうか
1万年前なので分かりませんけれども それからみんな宝探しですよ
アナウンサー 茅野市では もう一つ 国宝の土偶が出土しています 仮面の女神
2000年に発掘された国宝 仮面の女神
藤森:
ニュースになったのは知ってます
見た時に、縄文のビーナスとまるで違う ちょっと怖い感じなんですよね
小野:仮面をかぶってるという理解でよろしいんですか?
品川:
頭の後ろに紐を縛ったような跡があります
仮面をつけている土偶ということで「仮面の女神」と呼ばれています
小野:出身者として、どんどん土偶が出てどうですか?
藤森:
ひとつ出たのはあり得るだろうと思ったんです
でも、二つも割と近くで出て、当然この先も出るんじゃないかと
アナ:他にも可能性がありますかね?
品川:
茅野市は良い土地なので、発掘によっては
今後も国宝の2体に匹敵するような土偶がまだまだ発見されるかもしれないですね
「棚畑遺跡」
ここからはヴィーナス以外にも興味深いものが見つかっています
狩りに欠かせない獲物をとるための矢じり
遺跡周辺が矢じりの原料となる黒曜石の産地であることもが分かりました
さらにこの地域の黒曜石の矢じりが北海道にまで伝わっていたのです
ここでは産出しない鉱石も見つかりました
新潟産のヒスイ
千葉県銚子市産の琥珀
棚畑遺跡一帯は、全国の産物が行き交う豊かな交易の拠点だったのです
本州最大の黒曜石の産地は信州
「霧ヶ峰周辺なのでその石が拡散する
そういうネットワークの拠点が棚畑遺跡にあったのではないかと」
さらに、縄文のビーナスについてもさまざまのことが分かってきました
南北2つの集落
発掘調査によって棚畑遺跡には異なる時代に栄えた南北二つの集落があることがわかりました
縄文のビーナスが発見されたのは、後に栄えた南側の集落
ところがヴィーナスは頭の文様や形状などから
南側より古い時代に栄えた北川の集落で作られたと考えられるのです
鵜飼:
これはどういう風に解釈したら合理的な説明がつくかと一つ課題になっていた
私は、北側の集落で作られたヴィーナスが
その後、南側の集落に展開するまで、ずっと使われ続けて
世代を超えて、何世代かにわたって使われ続けた結果
最終的には南側の集落に埋められたのではないかと考えています
鵜飼さんは、縄文のビーナスが使われた期間が300年以上にも及ぶと考えています
縄文のビーナスは、交易の中心地で何世代にもわたって大切に受け継がれた特別な土偶だったのです
茅野市縄文考古館
そして、縄文のビーナスが作られてからはるかに時が流れた現代
この土偶は今もなお、多くの人々を惹きつけています
ヴィーナスが発掘された茅野市で行われている土偶教室は、キャンセル待ちの人が出るほどの人気です
埼玉県から来た男性:縄文のビーナスが好きなんです とても魅力的ですね
女性:歳を重ねるにつれて 可愛くて 作ってみたら もっと可愛くて
鵜飼さん:
この縄文のビーナスは、すごい発信力を持っていると思うんです
現代の我々に問いかけるような素晴らしいメッセージが込められていると思う
だから、この土偶を見て、皆さんこの素晴らしさに惹かれるのではないでしょうか
藤森:
やはり源流と言いますか
1万年かけてできたもので 今までずっと引き継がれてきた
なかなか豊かないい時代だったと思います
小野:
縄文時代というと「遅れた時代」というイメージがある
でも実はそうではないということですか?
品川:
かつてはいわゆる文明に近い文化が良い文化
例えば、農耕を始めている文化が良いということで
縄文は遅れているという風に言われていた
ところが最近は、狩猟・採集を行って
安定した生活を1万年も続けた、自然をうまく使い、持続可能な社会を営んだことが高く評価され始めています
今の我々の自然保護とか、自然の活用、エコとかそういうものとつながる
そういった文化ということで再評価が促されていると言えるかもしれません
品川:
縄文は、元々は考古学者が見つめていたものなんですけれども
岡本太郎さんをはじめ、いろんな人に見てもらうことによって
新たな見方 縄文の美 そういった楽しみ方が生まれてきている
だからおそらく今後もまた多くの人が見ることによって
まだ誰も気づいていない縄文の美が見つかるかなと期待しています
予録のまとめ見シリーズ
【内容抜粋メモ】
縄文の美が国宝として認められるのは、わずか20年あまり前のこと
上野で開かれた縄文の大規模な展覧会
「縄文時代 前期の土器」
縄目文様が縄文の由来
色々な縄を使って 色々な方向から文様を織りなしている
関山式の時が一番バリエーションが多い
表面の黒い部分はすすの後
土器は煮炊きに使われていたことが分かっている
この土器こそが縄文時代を象徴する道具
当時は動物を狩り、木の実を拾う「狩猟・採集」の暮らし
土器の発明で調理だけでなく、食べ物を保存できるようになり定住が進んだ
縄文土器のおかげで豊かで安定した暮らしがおよそ一万年にもわたり続いた/驚
「縄文時代中期の土器」
新潟県十日町で出土した火焔型土器(王冠型土器)
前期の縄目模様は、粘土を貼り付けた立体的なものに変わった
燃え盛る炎、王冠のような姿が名前の由来
建築史家・建築家・藤森:彫刻を見てるようだね これは洗ったりしないんだろうなw
中でも特に優れているとされるのが国宝火焔型土器
藤森さんはこの立体的な模様の背景には「狩猟文化」があると考えています
藤森さん:
日常的に動物を食べていたわけですよね
当然食べる時に腹を切るわけで
内臓的なもののほうが外よりも大事
農耕ではない美学ではないかと思います
こうした 縄文の装飾的な的な土器は世界に類を見ないもの
同じ時代の中国の土器
これは メソポタミア文明で使われていました イラク出土
どれも形がシンプルで 実用的なものです
藤森:
面白くないよね 植木鉢みたい
おそらく(縄文時代は)すごく安定してたんだと思う
尚且つ豊かな中でああいうことを繰り返した 珍しいと思う
さらに縄文時代には土器と並ぶ美的な出土品があります 土偶です
国宝中空土偶
土偶とは、人をかたどった土の焼き物
足先から頭まで、中が空洞で作られ、最も薄い部分は厚さわずか2 mm です
その身体全体には、精緻な文様が施されています
縄文の人々の技術力の高さを示しています
土偶は何のために作られたのか?
狩りの成功のため、安産のため あるいは死者の再生復活のため 諸説あります
縄文の人々が様々な願いを託した「祈りの道具」ではないかと推測されています
国宝 縄文の女神
高さ45 CM 重さ約3 kg 最大級の土偶です
くびれたウエスト 側面から見たほうが人気の土偶です
現代アートのようだとも言われたりしている
藤森:顔を表現しないというのはとても面白い
合掌土偶
座った形の土偶 胸の前で手を合わせる姿から名付けられました
胸には乳房があり、出産する女性の姿であるとも言われています
足や腰の割れ目には、天然のアスファルトが接着剤のように塗った跡があります
縄文の人々はこの土偶を修復しながら使っていたと考えられています
藤森:
やはり「再生」という 死んで、生きて 魂は再生する
そういうことのために作られたのではないかと思いますけど
見ていると、祈りというのがちゃんと土偶にも感じられる
精神的、あるいは宗教的な対象としての造形をしている
もう1人のゲストは、今回の展覧会を企画した品川さん
藤森:縄文というと、ただ元気よく作ってるように見えますが、基本的な秩序みたいなのがある
小野:1万年前と言うと、単純化して考えがちですけれども、非常に繊細な心遣いがある
品川:
火焔型土器も上から見ると綺麗な円の形 粘土を貼り付けて装飾している
そのはみ出しを綺麗に直している
縄文は1万年も安定した暮らしを行っていた
これはとても大きな理由だと考えられます
縄文時代は日本の歴史の中でも海外と交流が少ない時期なので独創的な美が生まれたと理解されております
小野:実用性はどうなんですか?
品川:
煮炊きに使う
取っ手ですくう時に邪魔だなと思うんですが
縄文人にとっては使い勝手よりも装飾のほうが第一
そこが我々の今の食器と違う点だと思います
小野:なんて素敵な生活!
藤森:この土偶は明らかに今の祈りと同じですよ
小野:何を祈ってるんですかね?
藤森:
おそらく生命の循環
無事出産するようにとか 亡くなった後 もう一度再生するようにとか そういうことだと思いますけど
品川:
顔がない
けれども頭に二つの穴が開いているのは
頭に髪飾りをつけていたという解釈もあります
国宝に指定されているものは6件
意外と最近 20年少しの間に国宝に認められた
一番最初は1995年の「縄文のビーナス」
縄文のビーナスが国宝として認められるまでには様々な困難があった
その経緯をご覧いただきましょう
長野県茅野市
1986年の夏 縄文のビーナスがここで発掘されました
当時、その発掘に立ち会った 学芸員・守矢昌文さん:
この一面の畑の中に遺跡があったんですね
「棚畑遺跡」は大正時代から知られていた
茅野市ではこの場所に工業団地を造成するために改めて発掘調査を行なっていました
守矢昌文さん:
「あれ、変なものがあるね」っていう話から始まって
「土器にしては変だな これはもしかしたら大変なものかもしれない」と盛り上がった
縄文のビーナスは、ほぼ完全な姿で見つかりました
壊れた状態で見つかる土偶が多い中、それはとても珍しいことでした
守矢さん:
次の日に掘り出した時には 光の中に輝くような素晴らしい姿 これはすごい
ヴィーナスという名前は、発掘時の造形の美しさから自然にそう呼ばれるようになりました
どっしりとした脚、豊満な腰、突き出たお腹があり 妊婦の姿を優美な曲線で表現しています
しかし、この美が国宝に認められるにはいくつもの壁がありました
縄文遺跡の発掘は、明治時代の東京大森貝塚から始まった
大森貝塚の発掘現場
・町歩き@品川歴史館など
縄文の人々が食べた貝の残骸や、出土した土器は
当時の文化や生活を知るための研究資料とみなされてきました
考古学には美術的な視点がなかったのです
(こんなに美しいのに?
そうした状況の中、縄文の美に注目したのが芸術家・岡本太郎です
1951年 四十歳の岡本は東京国立博物館で偶然縄文土器に出会い衝撃を受けました
川崎市 岡本太郎美術館 学芸員・佐々木さん:
四次元的な感覚を持った
狩猟民族ならではの人々が作ったに違いない、ということに気づきまして
その造形力の豊かさに感動した
『日本の伝統』より
「激しく追いかぶさり重り合って、隆起し、下降し、旋廻する隆線紋
これでもかこれでもかと執拗に迫る緊張感
しかも純粋に透(とお)った神経の鋭さ
この圧倒的な凄みは、日本人の祖先が誇った美意識だ」
・「作家別カテゴリー」内「岡本太郎」参照
・岡本太郎“太陽の塔”~井浦新が見た生命(いのち)の根源~@日曜美術館
国宝の要件
そもそも国宝は、昭和25年の「文化財保護法」によって指定されるようになりました
その要件は、世界文化の見地から価値の高いもので類ない国民の宝たるもの
つまり、美術的に優れているだけでなく、学術的にも価値が高いことが必要となるのです
縄文のビーナスが国宝に認められるには「学術的な価値」が必要
当時、発掘責任者だった鵜飼幸雄さん
鵜飼さんは学術調査である妙案を思いつきました
鵜飼さん:
中央病院に行けばレントゲン写真があるということで
役所の関係の方にお話をしたところ、撮ってくれると
調査チームは病院でレントゲン写真と CT スキャンを撮ってもらうことができました
素晴らしい成果だった 作り方がこれでわかるという写真が撮れましたので
縄文のビーナスのレントゲン写真
足、胴、両腕 首に見える白い筋
これによって、土偶がパーツごとに作られ、組み立てられたことがわかりました
縄文のビーナスは、設計図があるかのように計算して作られていたのです
当時鵜飼さんの部下として調査に関わった守屋昌史さん:
(ミニチュア土偶シリーズかわいい!
製作者の高い技術に驚いた
手と首のソケットの仕方
わざわざ右と左と腕を別に作って首を差し込んでいる この作り方だと壊れづらい
逆に言うと、壊れないように作るための一つの芯棒が入っている
そして組み立て方が手馴れてるんですよね
あまり乾かないうちに首をソケットしなければ接合しませんので
そのタイミングをよく熟知した人間が作り上げているとしか言いようがない
また製作者は火の扱いにも習熟していたことがわかりました
ヴィーナスの足の CT 写真
右側の黒く見える部分には空気が入っています
通常は焼く際にこの空気が急激に膨張して爆発してしまいます
しかしヴィーナスはなぜ壊れずに焼けたのか?
その秘密は発掘写真から読み解くことができます
右の足のかけた部分には生焼けの粘土が見えます
つまり縄文のビーナスは、急激に空気が膨張しないように
絶妙に火加減がコントロールされていたのです
守谷:
そういう火加減を調整しながら、粘土の造形をちゃんと崩さないように
作っている技を熟知した最高峰がこのヴィーナスと考えています
調査チームは5年かけて1000ページを超える報告書を作成
縄文のビーナスが学術的に価値が高いことを明らかにしたのです
しかし、美術的価値の認識はまだまだ低いものでした
国宝を選定する文化庁の元職員で考古学の研究者でもあった土肥孝さんは
縄文のビーナスは国宝に値すると思っていました
土肥孝さん:
かなりバカにされました
なんで美的に見えるんだ そんなことありえない話だと
研究資料だから あんた研究者辞めたのか、とまで言われたわけですけれども
そうじゃなくて、やっぱり美的なものを美的として見ることは非常に重要なことなんだけど
そういうことは今までほとんどされてなかった
縄文の出土品の美術的価値を証明するため、土肥さんは意外な作戦を思いつきます
海外で展覧会を開くことでした
(海外で評価されれば何でも受け入れるって言う姿勢が日本人らしい
日本人の美的感覚は縄文時代から相当衰えてしまったんだな
アメリカでの展覧会の図録 1990年
ベルギー、アメリカで展示された土器や土偶は「美術的に素晴らしい」と絶賛されたのです
土肥孝さん:「ピカソが何人いるんだ!」と喋っていました
日本の研究者はそれまで土偶というのは全て同じものだと見ていた
みんな同じものじゃないよっていうこと それが大事だった
それが日本の研究者はまだ思っていなかった
(海外は海外で、美術批評家や高い値段で売買される美術だけが「価値が高い」という評価なのか・・・
海外で評判を呼んだ土器や土偶は、日本でも美術的に高く評価されるようになりました
そして1995年 文化庁の専門委員会は、縄文のビーナスを全会一致で国宝に指定するよう答申したのです
(そもそも文化庁に美的感覚がないのでは?
国宝の解説文にはこう書かれています
「美しい曲線でまとめられた 安定感溢れる姿形
光沢ができるほど 磨き上げられ 均整の取れた 伸びやかな表現
質量感 洗練された造形美
本土偶は、縄文時代の精神文化を語る 傑出した遺品として 国宝にふさわしい価値を持つものである」
(えらい変わりようだな
土肥さん:素直に嬉しかったです それだけ変わったんでしょうね 世の中が
小野:
身近なものの美しさって分からなくなりがちですね
外の視点から再発見してもらって、我々もまたその美を認識し直す
ということが起こるんだなと思いました
品川:
人間の体と一緒で X 線写真を撮ることによって構造が分かる
構造が分かると作り方が分かりますし、当時の扱い方さえ分かる場合もありますので
ああいう調査は欠かすことができない、と改めて思わせるものですね
藤森さんは茅野市の出身
藤森さん:
今でも覚えています
小学生の時、遊んでたら、中学生が帰ってきてリュックを見せるんです
「これが土器だ」
その説明を今でも覚えていますけれども
「村の人たちがまだみんな裸で暮らしている頃に作ったものだと」w
いくつか間違いがあって 裸じゃなかった
それに本当に村の人たちと直接繋がってるかどうか
1万年前なので分かりませんけれども それからみんな宝探しですよ
アナウンサー 茅野市では もう一つ 国宝の土偶が出土しています 仮面の女神
2000年に発掘された国宝 仮面の女神
藤森:
ニュースになったのは知ってます
見た時に、縄文のビーナスとまるで違う ちょっと怖い感じなんですよね
小野:仮面をかぶってるという理解でよろしいんですか?
品川:
頭の後ろに紐を縛ったような跡があります
仮面をつけている土偶ということで「仮面の女神」と呼ばれています
小野:出身者として、どんどん土偶が出てどうですか?
藤森:
ひとつ出たのはあり得るだろうと思ったんです
でも、二つも割と近くで出て、当然この先も出るんじゃないかと
アナ:他にも可能性がありますかね?
品川:
茅野市は良い土地なので、発掘によっては
今後も国宝の2体に匹敵するような土偶がまだまだ発見されるかもしれないですね
「棚畑遺跡」
ここからはヴィーナス以外にも興味深いものが見つかっています
狩りに欠かせない獲物をとるための矢じり
遺跡周辺が矢じりの原料となる黒曜石の産地であることもが分かりました
さらにこの地域の黒曜石の矢じりが北海道にまで伝わっていたのです
ここでは産出しない鉱石も見つかりました
新潟産のヒスイ
千葉県銚子市産の琥珀
棚畑遺跡一帯は、全国の産物が行き交う豊かな交易の拠点だったのです
本州最大の黒曜石の産地は信州
「霧ヶ峰周辺なのでその石が拡散する
そういうネットワークの拠点が棚畑遺跡にあったのではないかと」
さらに、縄文のビーナスについてもさまざまのことが分かってきました
南北2つの集落
発掘調査によって棚畑遺跡には異なる時代に栄えた南北二つの集落があることがわかりました
縄文のビーナスが発見されたのは、後に栄えた南側の集落
ところがヴィーナスは頭の文様や形状などから
南側より古い時代に栄えた北川の集落で作られたと考えられるのです
鵜飼:
これはどういう風に解釈したら合理的な説明がつくかと一つ課題になっていた
私は、北側の集落で作られたヴィーナスが
その後、南側の集落に展開するまで、ずっと使われ続けて
世代を超えて、何世代かにわたって使われ続けた結果
最終的には南側の集落に埋められたのではないかと考えています
鵜飼さんは、縄文のビーナスが使われた期間が300年以上にも及ぶと考えています
縄文のビーナスは、交易の中心地で何世代にもわたって大切に受け継がれた特別な土偶だったのです
茅野市縄文考古館
そして、縄文のビーナスが作られてからはるかに時が流れた現代
この土偶は今もなお、多くの人々を惹きつけています
ヴィーナスが発掘された茅野市で行われている土偶教室は、キャンセル待ちの人が出るほどの人気です
埼玉県から来た男性:縄文のビーナスが好きなんです とても魅力的ですね
女性:歳を重ねるにつれて 可愛くて 作ってみたら もっと可愛くて
鵜飼さん:
この縄文のビーナスは、すごい発信力を持っていると思うんです
現代の我々に問いかけるような素晴らしいメッセージが込められていると思う
だから、この土偶を見て、皆さんこの素晴らしさに惹かれるのではないでしょうか
藤森:
やはり源流と言いますか
1万年かけてできたもので 今までずっと引き継がれてきた
なかなか豊かないい時代だったと思います
小野:
縄文時代というと「遅れた時代」というイメージがある
でも実はそうではないということですか?
品川:
かつてはいわゆる文明に近い文化が良い文化
例えば、農耕を始めている文化が良いということで
縄文は遅れているという風に言われていた
ところが最近は、狩猟・採集を行って
安定した生活を1万年も続けた、自然をうまく使い、持続可能な社会を営んだことが高く評価され始めています
今の我々の自然保護とか、自然の活用、エコとかそういうものとつながる
そういった文化ということで再評価が促されていると言えるかもしれません
品川:
縄文は、元々は考古学者が見つめていたものなんですけれども
岡本太郎さんをはじめ、いろんな人に見てもらうことによって
新たな見方 縄文の美 そういった楽しみ方が生まれてきている
だからおそらく今後もまた多くの人が見ることによって
まだ誰も気づいていない縄文の美が見つかるかなと期待しています