■泥棒たち
アントン・P.チェーホフ/作 ワレンチン・オリシヴァング/絵 中村喜和/訳 未知谷
労働っていったい何なのだろう?
人にゆったら馬鹿じゃないかと思われるような疑問を、ここのところずっと考えていたのと見事にリンクして驚いた。
当然、人の物を盗むのは罪だとは思うが、それとは別に、世の中で当然と思われていることの中には、
じゃ、どうしてそうなのか?と問い質すと、誰も明解に答えられないことも多い。「常識じゃん!」てわけだ。
初版はもっと露骨な文章で、タイトルも『悪魔たち』になっていたという。
あとがきにチェーホフが語った”作家は裁判官ではなく証人である”という文句も載っていた。
今作では物事の善し悪しではなく、田舎医師によって浮かび上がった極めてシンプルで、根本的な疑問、
人はなぜ他の動物のように自由で幸せに生きられないのかってことを読者に問いかけているのだ。
以下、本文抜粋。
p.50
「彼は頭がこんがらかり、いったいこの世にはなぜ院長とか、准医師とか、商人とか、書記とか、百姓とか、身分の違いがあって、みんなが自由な人間ではないのか、と考えた。たしかに自由な鳥がいる、自由な獣もいる。彼らはだれも恐れないし、だれの助けも借りない。朝は早く起きろとか、食事は正午にせよとか、夜は眠れとか、院長は准医師よりえらいとか、自分の妻だけを愛せよ、などということはだれが考え出し、だれが命令したのだろう?その逆ではなぜいけないのか?真夜中に食事をしたり、昼間に眠ったりしてはいけないのか?」
p.53
「なるほど、世界はよくできている。だがいったい全体、人間たちはなぜお互いを素面と酔っぱらい、勤め人と失業者、などなどと分けるのだろうか、と准医師は考えた。なぜ素面で食べるのに事欠かない人間は自宅で安らかに眠り、腹をすかせた酔っぱらいはねぐらをもたずに野原をうろつかなければならないのか?なぜ職場をもたず給料をもらわない人間はきまって腹をすかせて、着るものや履くものに不自由しなければならないのか?これはだれの考えだしたことか?鳥たちは森の獣たちはなぜ職場をもたず給料をもらわないのに何不自由なく暮らしているのだろうか?」
気になった言葉。
サモワール=ロシア特有の、茶を入れるための湯沸かし器。銅製で、中心に火を入れる管が通じる。電気式もある。
トロイカ=ロシアの3頭立ての馬車。あるいは馬そり。
身代(しんだい)=一身に属する財産。資産。身上(しんしょう)。
白河夜船(しらかわよふね)=熟睡していて何も知らないこと。何も気がつかないほどよく寝入っているさま。(京都を見てきたふりをする者が、京の白河のことを聞かれて、川の名だと思い、夜、船で通ったから知らないと答えたという話によるという)
アントン・P.チェーホフ/作 ワレンチン・オリシヴァング/絵 中村喜和/訳 未知谷
労働っていったい何なのだろう?
人にゆったら馬鹿じゃないかと思われるような疑問を、ここのところずっと考えていたのと見事にリンクして驚いた。
当然、人の物を盗むのは罪だとは思うが、それとは別に、世の中で当然と思われていることの中には、
じゃ、どうしてそうなのか?と問い質すと、誰も明解に答えられないことも多い。「常識じゃん!」てわけだ。
初版はもっと露骨な文章で、タイトルも『悪魔たち』になっていたという。
あとがきにチェーホフが語った”作家は裁判官ではなく証人である”という文句も載っていた。
今作では物事の善し悪しではなく、田舎医師によって浮かび上がった極めてシンプルで、根本的な疑問、
人はなぜ他の動物のように自由で幸せに生きられないのかってことを読者に問いかけているのだ。
以下、本文抜粋。
p.50
「彼は頭がこんがらかり、いったいこの世にはなぜ院長とか、准医師とか、商人とか、書記とか、百姓とか、身分の違いがあって、みんなが自由な人間ではないのか、と考えた。たしかに自由な鳥がいる、自由な獣もいる。彼らはだれも恐れないし、だれの助けも借りない。朝は早く起きろとか、食事は正午にせよとか、夜は眠れとか、院長は准医師よりえらいとか、自分の妻だけを愛せよ、などということはだれが考え出し、だれが命令したのだろう?その逆ではなぜいけないのか?真夜中に食事をしたり、昼間に眠ったりしてはいけないのか?」
p.53
「なるほど、世界はよくできている。だがいったい全体、人間たちはなぜお互いを素面と酔っぱらい、勤め人と失業者、などなどと分けるのだろうか、と准医師は考えた。なぜ素面で食べるのに事欠かない人間は自宅で安らかに眠り、腹をすかせた酔っぱらいはねぐらをもたずに野原をうろつかなければならないのか?なぜ職場をもたず給料をもらわない人間はきまって腹をすかせて、着るものや履くものに不自由しなければならないのか?これはだれの考えだしたことか?鳥たちは森の獣たちはなぜ職場をもたず給料をもらわないのに何不自由なく暮らしているのだろうか?」
気になった言葉。
サモワール=ロシア特有の、茶を入れるための湯沸かし器。銅製で、中心に火を入れる管が通じる。電気式もある。
トロイカ=ロシアの3頭立ての馬車。あるいは馬そり。
身代(しんだい)=一身に属する財産。資産。身上(しんしょう)。
白河夜船(しらかわよふね)=熟睡していて何も知らないこと。何も気がつかないほどよく寝入っているさま。(京都を見てきたふりをする者が、京の白河のことを聞かれて、川の名だと思い、夜、船で通ったから知らないと答えたという話によるという)