殊勲賞 変身
技能賞 審判
敢闘賞 城
ちなみに長編の順位は、審判、城、失踪者
中編佳作 変身
短編、小品 とりあげるものなし
小説家になるんですか、と三四郎は聞いた。世間を知らないから文学部に行くということは小説家になりたいということだな、と短絡したのである。ところがこれがあたりだった。彼女は小説を書いてみたいというのである。
「いつも熱心に読んでいる本は小説なんですか」
「大体そうね。ところであなたはどこにいきたいの」
これを聞かれてかれは困ってしまった。目新しい質問に戸惑ったということではない。大体が誰でも聞くことなのであるが、気の利いた答えが出てこない。別に立派な模範解答をする必要もないのであるが、いつも彼はこういう質問につまってしまうのである。
かれはどきまぎしながら「まだ決めていないんです」と答えた。
「理科系でしょう、そんな感じだわ」
彼女に勝手に決められても困るのである。
「結局僕もどこかの文学部に入れて貰うことになりそうですよ」
「小説に興味があるの」
「全然ありませんね。読んだこともないし」
「じゃどうして文学部なの」
「なんだか一番あいまいな学部みたいなきがするんですよ。たいして拘束力がないような。よく言え包容力があるような、間口が広いような」
「ふーん、文学部と言ったって歴史学とか哲学もあるしね、心理学なんて文学部にあるところが多いんじゃないの。そうだ、社会学なんてのも文学部だよね。大学によって違うんだろうけど。たしかに間口は広いわね。そう言うことに興味があるんじゃないの」
「そういうわけでもないんですね」
彼女は困った様に口をつぐんでしまった。取りつくしまがないと思ったのだろう。
「あなたは小説を書いたことがあるんですか」と彼は聞いた。
「練習には書いているわよ」
彼は質問されるのは嫌いだからまた答えられないことを聞かれない様に彼女を質問攻めにしようとした。
「どんなことを書くんですか。例えば誰の小説を模範にしているんですか」
「あなたと同い年だけど、いろいろと世間を見て来たからそう言う経験を書いてみたり」
「告白小説ですか」とかれは思わず言ってしまってから、まずかったかなと心配して彼女の顔を見た。
「ふふふ」と彼女はかすかに顔を緩めた。「暴露小説かな、もっとも小説のていをなしてはいない筆ならし程度だけど」
「お手本はあるのですか」となにも斯界の事情を知らない彼は間抜けな質問をした。
「林芙美子の放浪記かな」と彼のまったく聞いたことのない名前を彼女は上げた。