病院で殿を笑わせようと、意識が回復した時に言った。「強烈な初体験やね。」殿は笑った。わたしの頭もどうかなっていた。このままでは動けなくなると思い、掌を握ったり、足首を曲げたり出来るか尋ねてしまった。殿は、手足を動かすと、「よかったよかった、動けなくなったら大変やもんね。」と、笑って泣いて。
「あのぉ・・」と、話しかけようとする殿。次の言葉が出てこない。「辛いのに無理せんでいいよ。大好きやってことは、何回も聞いたし、ありがとうも何回も言ってくれたし・・。」「あのぉ・・・」
何だろう。しばらく黙っていた。そして「あのぉ・・の次は、隠し財産があるって?」というと、にっこり笑う。「もしかして、隠し子がおったとか」また、にっこり笑う。その後、とうとう「あのぉ・・」の、次の言葉が分からずじまいだった。
香典返しが足らなくなるほど大きな葬儀と、爺さんの家族葬として新聞に「終了」で出した葬儀を、別々の葬儀屋でした。段取りが分かるので微妙なところの違いを知ることになる。
質素にした爺さんの葬儀でも、お布施は同じで、爺さんが自分で「院号」の入った法名を持っていたため「永代経」を、殿の倍支払わなくてはならないということを知った。
終了したばっかりに、葬儀の後は家を空けられない状態になった。会葬の人が毎日訪れるので、ファミリーの会館でも先に新聞に載せるべきだったかと少し考えたが、親戚や知人の手前この形にみんなで決めたので仕方がない。
本当に、初体験やわ。と、遺影に語りかける。